第3話 陸の孤立

陸は日頃

呼吸しているの?と

思うくらい物静かだ

1日の殆どを

表情すら変えず

過ごしている

クラスメイトの誰とも会話をせず

休憩時間になると決まって

1人で教室を出て行き

始業ギリギリに席に戻ってくる


自宅が隣同士なので私の顔を覚えたのか

時折、すれ違う時には会釈をしてくる…

日頃は空気のような存在なのに

酷くカンシャクを起こすことがあり

中学に入学して、まだ3ヶ月なのに

金魚を手で握り潰し、破裂させたり

切り刻んだりする姿を

度々、先生に見つけられては押さえつけられ

何度も注意されては、

その度に陸の母親が迎えに来ていた

酷い時には、綺麗な金魚を

ガスバーナーで炙る事もあった

教室中に酷い悪臭が漂い、

毎回先生達が集まり、

怪訝な表情で陸を注意する

その事が、いつの間にか

学校中の噂となり

みんなが同じように

陸とは、関わりたくないと

自然に遠のくようになった

もちろん、私もその1人だった…

陸さえ居なければ、

大好きなクリームパンも

嫌いにならずに済んだのに…


夕方になると、いつものように美咲が

私のクラスに迎えに来てくれる

『帰ろ~♪』

明るく陽気な美咲は

いつでも、みんなの憧れ

中学に入学してからは

さらに美咲のファンが増えていた

同じクラスの男子が

美咲の事を時折聞いてくる

頬を赤らめながら、恋をしている目で


私たちは小学生の頃から

いつも手を繋いで歩いていた

中学生になった今も

それは変わらずに続いている

私は美咲と一緒に歩きながら

今日あった出来事をお互い報告し

笑いあう、それぞれのクラス

先生の話、そして陸の事…

美咲はいつも心配しながら

『大丈夫?』と聞いてきた


それぞれの家に帰り

今夜は父の帰宅が早いので

私は覚えたてのシチューを作り始めた

身長が伸びたので、流し台には

以前より簡単に手が届くようになった

この日も、自分の好きな味付けで

鶏肉とタマネギを多めに鍋に入れていき

サラダにはゆで卵を4個も添えた

夕食の準備が整った頃

父が帰宅してきた

こうして一緒に食事をするのは

いつぶりだろう?

私はおでこのシワの溝が

少し深くなった父を見ながら

自分の作ったシチューを食べはじめた

美味しいとか、まずいとか

自分の作った料理には

不思議と全く関心が沸かない

そんなものなのかな・・・?

どんなに塩辛くても

父の作る卵焼きのほうが

何才になっても、ずっと美味しい

私は自分自身で作る料理には

これからも感動出来ず

味気なく無感情で食べていくのかな・・・


父はいつも私にあまい…

激務で夜勤や留守が続き

私を1人にする事が後ろめたいのか

どんな事でも必ず褒めてくれる

そんな父を見ながら

家族や親って窮屈だなと

いつも他人事のように思ってしまう…

気を使われたり、顔色を見られるのは

幼い頃から苦手だ…

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