車載カメラに見られていた

大都 華信

第1話 踏切事故

 地方の通勤手段として交通機関は、通勤時に思うような時間には来てくれない事が多い。自分の会社も家から10Kmほど離れた場所にあり、バスなどの路線も、電車もない。工場勤務だからしかたないのだが、通勤手段として自家用車を使っていて、2019年製のトヨタ車である。中古で買った車だが現代の車にはカーナビはもちろんのように装備されているし、車載カメラも搭載されている。車載カメラは前方を撮影するだけでなく、後方の映像も撮影してくれる。最近問題になっているあおり運転もこのカメラがあれば、ばっちりと映してくれるので、本当にあおられても証拠として残されるから、警察が犯人を捕まえる事ができる可能性は非常に高いと思っている。さらに停車している時も車同士の衝突など何かしらの衝撃が加わった事を感知して、自動的に記録する機能も備わっていた。夜間の盗難防止用としてもこの機能は優れものである。

だから、どこにいつ行ったのかはカメラで克明にとらえられているのであるが、そんな映像を普段は全く見る事なんてない。


 週明けの月曜日の朝、いつもように通勤のために車に乗った。昨日のキャンプの疲れが残っているせいか、休み明けのすっきりとした気分にはなれず、どちらかといえば憂鬱な気分で乗り込む。いつものようにシートベルトを肩口から引き寄せて締めるとカチッと気持ち良い音がする。ブレーキを踏んで、ステアリングホイールの左下にあるボタンを押すとエンジンがかかった。自宅の駐車場から、しばらくは道幅は狭いが直線道路を走る。閉店した商店が多い昔ながらの商店街をしばらく走ると、街には数少ない踏切がある。朝の時間帯なので車の通りも多いのだが、電車の本数は多くはないので踏切が閉まっていることはほとんどないから、この踏切で停止するなんてことはあまり記憶はない。しかし、今日に限って踏切が下りてしまった。


「へ~、珍しい。今日はアンラッキーだな」


カンカンカンカンと音を立てて、遮断機がおりていった。行先を示す表示版には、進行方向の右側から電車が走ってくることを示している。自分の車の前には一台白い軽自動車が止まっていた。遮断機がおりるまでは停車してい車だったが、突然ゆっくりと前方の車が踏切に向かって動き出した。


「ああ、あぶない! 」


大きな声で思わず叫んでしまった。


しかし、無常にも車は遮断機をへし折って、線路上に進んでいる。ドライバーがわざと進んでいるのか、それとも気を失っているのかもわからない。車外にでて車を止めようにも、すでに線路内に突入してしまっているから、助けように助けられない。非常停止ボタンを押そうかと、車の外に出る事を試みてみたが、無常にも電車は右側から走ってくるのが見えた。


「#”)”($%$#」 と声にならない叫びとあげてしまう。


「、、、バーン、、、、、、、ガッシャーン、、、、がガガガが」 電車と自動車が衝突した瞬間は、金属がぶつかり合う時の爆発にも似たものすごい音がした。


 こんな光景を見るのはもちろん初めてだったので、胸のドキドキが止まらない。軽自動車の先端と電車が接触したので軽自動車は線路わきに吹き飛ばされてしまい、フロント部分はぐしゃぐしゃになって助手席側を下にして倒れてしまっている。一見すると車内の人が生存している空間が確保されているように見えるので、ドライバーの生死はわからないが生きている可能性は残されているようだった。まずは警察に連絡しなきゃとスマートフォンを取り出して、私は110番を押して警察に連絡をした。


「はい、警察です。事件ですか、事故ですか」


女性オペレーターの声がした。



「あ、あ、あ、事故です」


ちょっと興奮気味の声で答える。




「あなたは事故の当事者ですか」



「いいえ」



「どのような事故でしょうか」



「今、目の前の踏切で自動車と電車の接触事故がありました。電車は停車しており、自動車が飛ばされて壊れてしまっています」



「あなたや他の方で怪我をしている人はいませんか」



「電車にぶつかった自動車に乗っていた人はけがをしていると思いますが、ちょっとわかりません」



「事故が起きた場所の住所は、どこだかわかりますか」



「XXXX踏切とかいてあります。おそらく〇〇市の△△町のあたりだと思います」



「ご連絡ありがとうございます。あなたの名前を教えてください」


私は自分の名前をオペレーターに告げた。


「はい。ありがとうございます。これからそちらに向かいます」



 事故を目の前で目撃した衝撃からか呆然とした状態で車内にいると、すぐにパトカーのサイレンの音が聞こえてきた。音の様子からこちらにむかってくるのが分かった。サイレンの音が大きくなってくると突然止まり、バックミラーにはパトカーが反対車線に停車しているのが分かった。警察官がパトカーから降りると、1人の警察官が自分の車に向かってきてウィンドウをコツコツとたたいた。ウィンドウを下げると、


「ご連絡いただいた方ですか」


警察官が自分に向かって、質問をする。


「はい、そうです」


「後ほど事故の状況をおしえてください。ご協力お願いします」


「わかりました」


普段会話などしない警察官に声をかけられて、ドキドキしていたのにドキドキ感は更に高まっていった。しばらくすると救急車もやってきて、自動車の中にいた人の救助活動が始まった。


電車は脱線などはしていないようだったが、接触時の衝撃で車内にいた人が数人軽いけがをしているようだった。救急隊員達がケガをした人に応急手当をしている。事故を起こした軽自動車に乗っていた人はそのあと駆けつけてきたレスキュー隊員に車内から救出されていたが、命は助かったようだが気を失っているように見えた。


結局、通勤途中の事故だったので会社には遅刻することを連絡したのだが、目の前の踏切は車が通れる状態になるまではかなり時間がかかるように思えたので、半日休暇を取ることになる覚悟はした。


しばらくして、さっき声をかけられた警察官がやってきた。


「ご連絡していただいた方ですよね。早速ですが、事故の状況をおしえてもらえませんか」



「私は踏切に差し掛かった時に遮断機が下りる警報器がなったので停車しました。その時は前にいた車は停車した状態でした。その後、遮断機がおりてくる時に、突然事故を起こした車が動き出したのです。最初は少しだけ動いたのですが、そのあとは遮断機に向かってゆっくりと走っていきました」



「車が動き出した時に、運転手さんの様子で何か気が付いた事はありませんかね。なんでもいいのです。後ろから見ていて姿勢がおかしい様子だったとか」



「う~ん、ちょっとわかりませんね。運転席が見えるわけではないので、運転していた方の頭がどちらかに傾いていたなんて、気づけなかったと思います」



「まあ、そうですよね。正面から見えるわけではないのでちょっとむずかしいかな。ちなみにこの車には車載カメラはついていますか」



質問をしている警察官は手帳に聞かれた内容を書き込みながら質問をしていのだが、何を記入しているのかは見えなかった。



「はい、ついてますよ。運転している間は撮影されていると思います」



警察官から何か要求されるような雰囲気だったので、ちょっとだけぶっきらぼうに答えた。



「大変申し訳ないのですが、車載カメラのデータを採取させてもらいたいのですが、ご協力願えますか」



個人情報ではないが、個人の行動が特定されるような気がしていい感じはしなかったが、しぶしぶ協力せざるをえなかった。



「こんな事故がおきたばかりなので、協力はしますよ。あまりいい気分ではないですが。 車載カメラの録画データはありますが、メディアはどうしたらいいですか」



「記録用のSDカードなどはつけていますか。もし、ついているのであれば録画されているカードをお貸しいただけるとありがたいです」



車載のドライブレコーダーには64GBの容量があるSDカードを取り付けていた。特に断るにも理由もないので、ナビゲーションシステムから操作をして、レコーダーに録画されている内容を移して警察官にカードを渡した。



「御協力ありがとうございます。最後にお名前と住所をおしえてもらえませんか」



私は自分の名前と住所を警察官に告げた。



「それでは、これがSDカードの預かり書になりますので保管をしておいてください。それから、録画された内容をコピーして解析がおわりましたら、御連絡しますので、念のため連絡先をおしえていただけませんか」



しかたなく、連絡先として携帯の電話番号を警察官におしえた。


この事が後でとんでもないことになるとは、その時は夢にも思わなかった。


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