第11話 君は立派な大人だ

芹田一家は本気で複雑だと思う。

そんな事を考えながら俺は目の前のリバーシのコマを見る。

全く手を抜いてないのだが全部かなちゃんの先制になっている。


ここまで強いとはな。

これも才能ってやつかな、と思いながら、角をとったから勝ちだね、とかなちゃんを見る。

かなちゃんは、うん、と笑みを浮かべて俺を見ていた。


「にーに。ありがとうね」

「何が?かなちゃん」

「わたしにつきあってくれて」

「?.....嫌じゃないぞ。付き合うのは」

「そう?だったらいいけど.....」


かなちゃんは少しだけ悲しげな顔をする。

俺はその姿を見ながら首を傾げていると盤面を見ている芹田も眉を顰めているのに気が付いた。

そして俺はハッとする。

ああ。成程、と思いながら。


「.....芹田」

「うん?な、何?」

「ごめんな。何か。俺は思い出させているのかもしれない。寂しい気持ちを」

「.....!.....そんな事はないよ」


芹田は笑みを浮かべながら俺を見てくる。

それから、お母さんも.....負けやすかったんだ。リバーシ。だからかなが思い出すって事だよ、と向いてくる。

それはつまり小野寺くんが大切だって逆の意味もあるけど、とも。


「.....そうなのか?」

「うん。きっとそうだよ」

「そうだと良いけどな」

「私はそう思うけどな」


そして角を取られて俺は惨敗した。

だけど全く痛みは感じない。

かなちゃんは本当に良い子だな、と思える感じだった。

俺はかなちゃんを見る。


「にーに。ありがとう」

「かなちゃん。俺もありがとう。君は.....本当に良い子だね」

「わたしがいいこなの?なんで?」

「それはちょっと説明が難しい。だけど.....君は俺を大切にしてくれているって事だ。家族って認識してもらっているって事だ」

「にーに.....」


俺は幸せ者だな、と笑みを浮かべながら2人を見る。

そして2人は顔を見合わせてから頷き合ってから。

小野寺くんは大袈裟だね、と苦笑する芹田。

にーにおおげさー、とかなちゃんも笑う。


「家族だよ。小野寺くんは」

「にーにはおにーちゃん!」

「.....そうか。.....ありがとうな」


それから俺は恥じらいながら後頭部を掻く。

そしてリバーシを仕舞いながら。

俺は2人を見る。

そうしてから、そろそろ帰るよ、と切り出す。


「え!?にーにかえるの?!」

「うん。帰るよ。帰らないと.....迷惑だろうし」

「迷惑じゃないよ?もう少し居たら?」

「そういう訳にもいかないだろ」


そして俺は帰ろうとした.....のだが。

何故か俺の足を掴んでからかなちゃんが目を潤ませた。

それから、かえっちゃ.....やー!、と切り出してくる。

かな。我儘言わないの!、と怒る芹田。

俺はその姿を見ながら膝を曲げてかなちゃんを見る。


「かなちゃん。君におまじないをかけよう」

「え?.....おまじない?」

「明日も無事に会う為のおまじないさ。ゆびきりげんまんって知ってる?」

「それ.....ようちえんできいた!」

「そっか。じゃあそれをしよう。明日また会おうね」

「うん!じゃあそれならかえっていいよ!」


子供ってやつぁ。

思いながら俺は苦笑いでゆびきりげんまんをした。

そしてかなちゃん。また明日会おうね、と笑顔になる俺。

かなちゃんは、うん!またあした!、とニコッとしてくれた。


「.....ゴメンね。小野寺くん」

「ああ。気にする事はないよ。俺も悪かった。いきなり帰るって言ったしな」

「そんな。全然悪くないよ。小野寺くんは」

「いや。俺も非があると思うから」


そして俺はポケットから飴玉を取り出す。

それから、君にこのおまじないもあげよう。.....りんごの飴、と俺は切り出す。

そうしてからかなちゃんの頭を撫でてから手に握らせる。

その小さな手に飴玉を、だ。


「あめ.....ありがとう!にーに!」

「どういたしまして。こういう事しかできないしな」

「.....うん。わたし.....まつ!にーにのこと!」

「そうか。お姉ちゃんになったな。かなちゃん」

「おねえちゃん?よこにいるよ?」


そういう意味で言った訳じゃないよ、と俺はかなちゃんを見る。

それから頭を撫でる。

そして、かなちゃんが大人になった、って意味だ、と真剣な顔をする俺。

そうしてから柔和な顔付きで見る。


「君はもう大人だ。立派だね」

「にーに.....ありがとう!おねーちゃん.....ありがとう!そういってくれてにーに!」

「良かったね。かな」

「うん!おねえちゃん!」


そして俺はかなちゃんと芹田に挨拶をしてから。

そのまま家に帰る事にした。

何というか泥団子を届けるだけだったのに。

充実した時間だったな。

そう考えながら。

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