第10話 リバーシ

芹田の家に上がる事になった。

俺は緊張しながらお邪魔しながら玄関を上がる。

それから周りを見渡す。


そこには消臭剤もしっかり置かれており片付いた感じの様々な用品がある。

虫も発生のしようが無い。

子供用の靴などが.....しっかり並べられていた。

埃も全く無く逆にビックリするぐらいピカピカだ。


「そんなにあれこれ見つめられると恥ずかしいかも」


「.....あ、す、すまん」


「おねえちゃんはかたづけがすき!」


「へえ。そうなんだな」


それから俺はリビングに誘われる。

そしてリビングから入ると.....そこには殺風景な感じの空間が広がっていた。

どうもあまりしっくりこない。

2人しか居ないせいなのか、と思うが。


「.....ゴメンね。物欲が無いからこんな感じになっているの」


「物欲って言うか.....生活がキツいんだろ。そんな誤魔化さなくても良いよ」


「.....生活はキツく無いけどね。お金を投げられているから。でもお金じゃ無いんだよね」


「.....愛か」


「そうだね。愛情が欲しいかもね。.....あ。私じゃ無いけど」


俺達に構わず遊んでいるかなちゃんを見ながら唇を噛む芹田。

その姿を見ながら眉を顰める。

それからかなちゃんを見る。

芹田はずっとこんな思いをしてきたんだな、と。


「.....私達はお金が欲しいんじゃない。.....こんなのおかしい」


「お金じゃなくて愛情が欲しいんだよな」


「.....愛情以外にも家族が欲しい」


芹田はそう言いながら、あ。ゴメンね。変な話をして、と切り返した。

それから俺を見てから笑顔になる。

そして台所に向かう。

お茶入れるから適当に座ってて、と言いながら。

俺はその言葉にかなちゃんに近付く。


「かなちゃん」


「なーに?にーに」


「.....いや。.....ゴメンな。君は強いなって。ヒーローだなって思ってね」


「え?わたしはまんとないよ?」


「マントが無くても人はヒーローになれるのさ。.....君がその1人だ」


「わたし?」


私はヒーローかなぁ?、とニコニコしながら答えるかなちゃん。

俺はその姿に、ああ、と笑顔になってかなちゃんを肩車した。

わー!すごい!にーに!、と更にきゃっきゃっと笑顔になるかなちゃん。

その姿に、もー、と苦笑いを浮かべる芹田。


「.....ゴメンね。かなが.....」


「俺がやりたいって言ったんだ。.....だから気にするな」


「そうだけど.....でも有難う」


「ああ」


そして俺はかなちゃんを下ろしてから。

そのままかなちゃんに目線を合わせてみる。

それから、君はヒーローだよ。頑張っているから、と笑みを浮かべる。

かなちゃんは、うん。ヒーローだよね。泣かないし、と言ってくる。


「.....でももっとひーろーなのはにーにだよね?」


「にーにはヒーローじゃないよ。.....有難うな。でもそう言ってくれて」


「そんなことないもん」


「.....?」


かなちゃんは真剣な顔をする。

俺はその姿に、!、と思う。

それからかなちゃんを見ていると。

かなちゃんは画用紙に何かを勢いよく描いた。

それは.....俺の様だ。


「.....にーにはひーろーだよ。みんなをすくうひーろー!」


「かなちゃん.....」


「だからこれあげる!」


「この描いた絵をか?」


「うん!ひーろーしょうめいしょ」


子供は不思議だな。

思いながら俺は俯く。

それから顔を上げてからかなちゃんを見る。


この子の方がもっと苦労しているのに。

なのにこうして笑顔にさせてくれる。

もっと芹田一家を救いたくなる。


「芹田」


「.....?」


「.....俺さ。お前の妹に救われてばかりだわ。すまんな」


「かなは全力で君を応援している。それに間違いはないから」


「.....お前もサンキューな」


「うん。.....あ。飲み物冷えちゃう」


「おっと。それはいかんな」


というか何か今更気が付いたけどこれって夫婦じゃね?

俺はボッと赤面する。

すると芹田にバレた様だった。

芹田は、ど、どうしたの?、と聞いてくる。


「.....いや。すまん。.....ふ、夫婦みたいだなって」


「なぁ!!!!?」


「え?ふうふってなに?」


「ふ、夫婦は知らなくて良いよ?!かな!」


芹田は真っ赤になって目を回す。

俺はその姿を見ながら赤面しながらお茶をゴクゴクと勢い良く飲む。

これはいかん恥ずかしい。

そう考えながら、だ。



それからだが。

かなちゃんの提案でボードゲームをする事になった。

リバーシ、である。

かなちゃんがこんな難しいのを知っているとは驚きだ、と思ったが。

芹田の解説によると、私と一緒によく遊んでいる、そうだ。

駒の色が面白いので、という感じだ。


「ぜんぶしろにする!」


「よし。じゃあ俺は黒だな?.....負けないぞ」


「うん。あ。でもにーに」


俺に向いてくるかなちゃん。

その姿に、何だ?、と聞くと。

いきなり俺の側に回って来ながら見上げてくる。


うん?、と思っていると手を握られた。

そして、にーに。てをぬいちゃいやだからね?、と言ってくる。

俺は、!、と思いながらかなちゃんを見る。


「.....かなは手を抜かれるのが嫌なんだよね?」


「そう。もち!しんけんなの!」


「.....分かった。じゃあ勝負だな。かなちゃん」


しかし幼女相手に真剣ってのも気が引ける.....と思ったのが運の尽き。

真っ先に白で角を取られて物凄く練習しているせいか強かった。

かなちゃんはニコニコしながらピースサインをする。

これは参った、と思うぐらいだ。

と同時に、頭が良いんだなこの子、と思えた。

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