第5話 嵐の夜、僕は彼女の声を聞き、彼女を見付ける!(僕 高校2年生)想いのままに・男子編

 『既(すで)に観光『石川』を確立しているのに、石川県の車輛のナンバープレートに記載されているのは、現在、県庁所在地で石川県の人口の約半数が住まう金沢市の『金沢』と、その他の地域を纏(まと)めた『石川』の二通(ふたとお)りだけです。ですが、全国的に認知(にんち)されているのは『石川』よりも、観光地や食材や護衛艦名で知られている『能登(のと)』と『加賀(かが)』の名称です。どちらも二文字で見やすくて覚(おぼ)えやすいです。それに読みやすいですし、『いしかわ』よりも言い易(やす)いです。観光を主柱とする石川県ならば、ナンバープレートの地域表記は『能登』、『金沢』、『加賀』の三(み)つにするべきで、ネーミングの認知で移住者を増加させて更(さら)なる過疎化(かそか)の防止をねらいます。しかしそれには、地域の自動車の登録台数が10万台以上必要ですが、これは既(すで)に超えていると思います。更に自動車検査登録事務所の新設が必要になります。また当然の事ですが、導入には其(そ)の地域の住民や自動車ユーザーの意向でなくてはなりません。そして、議員様方々への強力な働き掛けを御願いする事になるでしょう』

 これは、とある会合に参加して、地域の知名度アップのアイデアをテーマに若いエンジニアの方(かた)からの意見を求められて語(かた)った内容だ。

 先進的な考えの若い人達には『なるほど』といった反応だったが、年輩者からは金沢市中心の認識から、『田舎(いなか)的で全国受けしないね』の保守的な反応が多かった。

 それでも『石川県が何処(どこ)に在るのか知らないが、加賀と能登の名称は世界的にも知られていますよ』と反論が出ていた。

 確(たし)かに日本国内では、其の地名と場所の知名度は不足しているけれど、海外では金沢市や北陸(ほくりく)を紹介している動画は多くて、固有名詞としては世界的に認識されているみたいだった。

 単純(たんじゅん)に其の事実を年輩者が知らないだけの情報不足だと、会合で感じていた。

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 今は気持ちを彼女から逸(そ)らす様に、弓道部の部活と加工のアルバイトに集中している。

 去年の騙(だま)し討(う)ちキスへの問いに『していない』と嘯(うそぶ)いてから、その後ろめたさに毎朝のバスで彼女の横に立ってはいるが、積極的な行動やメール内容はして来なかった。

 ただ疑(うたが)われないようにメールの回数は維持(いじ)していたが、内容は日記のような報告文で全く面白味(おもしろみ)が無い。

(名無しの告白メールに、騙し討ちのキス、自分の姑息(こそく)さを猛省(もうせい)するのみだ!)

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 アルバイトでしている親父(おやじ)に依頼された加工の仕事は、常(つね)に細部まで進捗(しんちょく)や異常や思案(しあん)を報告・連絡・相談していて、それらについては怒(おこ)る事も、否定(ひてい)する事もせずに、熟考(じゅっこう)する親父は的確(てきかく)な説明と指示をしてくれて、必(かなら)ず僕を力付けて助けてくれている。

 『学校の勉強にせよ、好(この)んで読んだ物語や知識にせよ、部活や仕事で得(え)た技能と理解した技術は、自分の身に備(そな)わって行き、近い将来には必(かなら)ず、揺(ゆ)らがない自信となって自分自身を助けてくれるんだ』、これも親父が口癖(くちぐせ)のようにいう言葉の一つだ。

 親父も僕と同じ工業高校の機械科卒業生で、大学へは進学していない。

 仕事の技能と技術は働きながら学(まな)んで習得し、一念発起(いちねんほっき)で起業した会社の経営などは全(すべ)て独学で……いや、お袋のアドバイスと援助も大きいが……熟(こな)して来ている。

 学校の普通教科の勉強が疎(うと)ましい僕は、大学へ進学する必要性を感じていなかった。

 工業高校で物造りの基礎を学ぼうと考えていたのは、中学2年生の頃から決めていた事だ。

 工業系のクリエイターに憧(あこが)れ始(はじ)めたのは小学校の6年生の時からで、まだ世界に無い物を発想して設計し、製作してみたいと考えていたのは小学校を卒業する前からだった。

 大学へ進学しない事については、親父もお袋も否定はせずに理解を示(しめ)して、寧(むし)ろ応援してくれている。

 だから、その為(ため)の知識や因果(いんが)を深く学ぶのは僕の信念であって、決して嫌(いや)じゃなかった。

 仕事上で……まあ仕事といっても親父の仕事を手伝うアルバイトなのだけど……、それでも来訪や訪問や電話応対などで接する年輩の方や若輩者(じゃくはいもの)を問わない、言葉遣(づか)いや態度に話題、そしてバックグラウンドの思考を会得(えとく)する為に、僕は放課後や部活以外の空(あ)き時間の大半を充(あ)てている。

 本屋や図書館に足繫(あししげ)く通い、趣味以外にも知識の為(ため)に多くの本を読んだ。

 ネットゲーム好きな同級生はインターネットからのデジタル図書で読めば安くて楽なのにって言って来るけれど、タブレットの電子ブックと紙の本とは違(ちが)う。

 確かに調べ物はインターネットの方がピンポイントで速く検索(けんさく)できて、しかも内容は多彩(たさい)で深く、比較もできるし、自分なりに分かり易(やす)く纏(まと)める事もできる。

 でもストーリー性の有る文章や絵については、動画の映像とは違って、製本用の紙に印刷された活字(かつじ)文字の方が場面や物や人物をリアルにイメージできて、感情移入し易いと僕は感じている。

 図書館では一般的な教養を得る為に、誰彼(だれかれ)の成功話や自己啓発書、マナー本に宗教などの思想本、日本や各国の歴史書、地理に地図に語学、科学理論と物質の知識、それに和洋(わよう)古今(ここん)の文学本とラノベなどなど、気になるタイトルの本は大抵(たいてい)手に取ってから借(か)りていた。

 物造りや事故や驚異的な風景の動画はよく見て参考にしているし、好きなアニメと映画からも人の有り方を学(まな)んでいる。

 テレビのドラマやバラエティは参考にすべきところが何も無くて殆ど観ていないし、テレビゲームはするけれど時間的にのめり込む程(ほど)していない。

 トランプ、麻雀(マージャン)、将棋(しょうぎ)にチェスは親父やお袋と互角(ごかく)に対戦できるくらいになっているが、家族といっしょに笑いながらゲームを楽しめれば十分だった。

 ただオセロだけは、妹に勝てた例(ためし)が無かった。

 自分を表現するパフォーマンスは今のところ弓道の部活と、やっと稼(かせ)げるようになって来たたアルバイトでの技能と、人に見せても恥(は)ずかしくないセンスの模型作りだけど、彼女に華(はな)やかさを求められたら今の僕では応(こた)えられない。

 芸術大学や何処かの大学の理系への進学は中学校の時から学力的に諦(あきら)めていて、今ではその必要性を感じていなかった。

 もしも芸術大学へ進学できて美術を学び、順調に卒業できたとしても、‘作品で生活できるようになる為には、国内外で大きな賞を幾(いく)つも受賞してメジャーにならなければならないから、若年で妻を娶(めと)って困窮(こんきゅう)せずに暮らして行くのは無理っぽいと思っていた。

 故(ゆえ)にファンタジー的な遣りたい事よりも、リアルにモノ造りの極(きわ)みを目指そうと考えている。

 それには芸術と同様に発想力、想像力、観察力、応用力、思考力が重要だと気付いていた。

 それらは、今の浅(あさ)はかで稚拙(ちせつ)な僕には、まだまだ足(た)りない未知のモノだらけで、将来を見据(みす)えた覚悟(かくご)を持って学んで行かなければならないと考えている。

 但(ただ)し、仕事の生業(なりわい)は、幸せな生活を潤(うるお)わす糧(かて)で、生(い)き甲斐(がい)じゃない。

 生き甲斐は彼女と趣味でありたいし、仕事を言い訳にして家庭を鑑(かんが)みない大人には成りたくない。

 家庭や家族を犠牲(ぎせい)にする仕事なんて有り得ないし、僕には考えられなかった。

     *

 親父には何度か、国際加工技術展や最新塑料(そりょう)技術展などの成形金型加工業界の大きな展示会へ連れて行かれて、大阪南港のインデックスや東京お台場(だいば)のピッサイドや千葉市美浜の幕張(まくはり)メッセで催(もよお)される国際的な会場を見学してまわっていた。

 そこで見聞きした最新の技術や技能は、僕にとって希望有る将来への展望となっている。

 そして会場が在る関東や関西への移動は世界の広さと多様さを僕に教えてくれて、こんなに日本の首都と第二の大都市が豊(ゆた)かに複雑なのだからと、地球規模の世界の凄(すご)さも想像させてくれていた。

 鉄道や空路の移動と展示会場は、出逢(であ)う人達や視界に入る人々の営(いとな)みの有り方を知らせていたし、親父の手配した夕刻(ゆうこく)に飛び立つ航空機から見た地球の縁(ふち)に消えてい行く夕陽(ゆうひ)は、金石の浜で見るよりも遠くに輝(かがや)いて、その真(ま)っ赤(か)にテカる世界の果てへ深く落ちて行く色鮮(いろあざ)やかな世界の美しさに、僕は深く感動して心と身体の隅々(すみずみ)まで蕩(とろ)けていた。

(この素晴(すば)らしき世界!)

 いつの日か、彼女といっしょに世界中の素晴らしい景色(けしき)を観(み)て、いっしょに感動したいと思う。

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 夏休中の8月下旬、郵送されて来た航空券を親父に見せられて、『明後日(あさって)は小松空港から上海へ飛ぶぞ! お前の支度(したく)は済(す)んでいるな』と告(つ)げられて僕は戸惑(とまど)ってしまった。

 予(あらかじ)め知らされてはいたけれど、初めての海外は、初めての都会以上にドキドキしてしまい、国内移動とは違う海外渡航に必要な書類や持ち込めない物に日常品など、そのリストアップにパニックになりかけた。

(もう、面倒臭(めんどうくさ)くて堪(たま)らない! 慣(な)れると躊躇(ためら)い無く移動出来るようになるのだろうが、そのモチベーションも自分次第なんだろうなあ)

 7月初めに、『客先からの依頼で中国に行く事になるかも知れん! お前もいっしょに行って欲(ほ)しいそうだ!』と言われて、直(す)ぐに親父と渡航に必要な書類と手続きを調べた。

 中国への渡航には、パスポートとVISAと訪問先の会社からの招聘状(しょうへいじょう)が必要だが、観光目的ならVISA無しで14日間の滞在が可能だった。

 ただ、碌(ろく)に観光をせずに商談先に滞在していて不慮(ふりょ)の事故や事件に遭遇(そうぐう)した場合、面倒な事になりそうなので、交流訪問を目的とした30日間のF‐VISAを申請する事にしていた。

 既にパスポートは中学2年生の3学期に北イタリアの旅行へ行く為に取得していて、渡航後の訪問先になる中国の会社からの招聘状は、いっしょに渡航する客先の海外担当の営業マンの方がVISA申請の書類作成と申請予約の手続きの打ち合わせで来た時に持って来ている。

 VISA申請の書類には、規定の顔写真と過去に出入国した国のスタンプを押されたパスポートのページのコピーなども必要で、パソコン上で記入してプリントした申請用紙などを揃(そろ)えたら、本人確認を兼(か)ねて東京の中国ビザ申請サービスセンターへ、それらの書類を提出しに行く。

 ネット上で記入の際(さい)に記載訂正などは指示されて、必要項目や記述が正確でないと申請の記入は完成しない。

 だから、中国ビザ申請サービスセンターでは記載に目を通すだけで受理され、滅多(めった)に不受理になる事はないらしい。

 受理後はパスポートにVISAの紙片が貼(は)られて、渡される日に再びビザ申請サービスセンターへ貰(もら)いに行くだけだった。

 渡航訪問の仕事は客先から依頼された事で、訪問先からの報酬(ほうしゅう)は無いが、渡航の航空券と予約されたホテルでの滞在費用を含(ふく)めた日当計算の全額が、客先から支払われる。

 仕事内容は商談と称(しょう)した指導的な講義と実演で、親父は金型設計と部品の仕上げ加工に金型の組立と測定と細部確認のレクチャーを行い、僕は加工のプログラムやアルゴリズムの見直しや実際に加工と測定をレクチャーしながら設備や6S管理と表示される仕事場の環境と組織を含めた会社全体の品質を向上させる、整理(SEIRI)、整頓(SEITON)、清掃(SEISO)、清潔(SEIKETSU)、躾(SHITSUKE)、安全(SECURITY)の世界基準のチェックをする予定だ。

 6Sは日本のグローバル企業が採用していた品質管理システムで、製造業の世界では常識となっている。

 故に安全の〝SECURITY〟以外はローマ字表記になっている。

 この6S管理と国際工業基準のISOと表記される工程管理システムを採用していなければ、国際的な企業との高品質で美味(おい)しい仕事を安定して受注できないと言われていて、親父の会社も個人事業ながら認可を取得している。

 納期と品質の管理は親父と僕が、マネジメントはお袋と親父が担当している。

 お袋は家の中の整理整頓と買い物や家計のチェックに管理手法を応用していて、少ないけれど貯蓄(ちょちく)の余裕が増えたと喜んでいた。

 弊社(へいしゃ)は薄利なので不動産や証券への投資はせず、ファンドにも参加していない。

 一攫千金(いっかくせんきん)を夢見て投資するくらいなら、確実に成長する自分達や自分自身に投資したい。

 6Sや改善は行う過程や達成後の変化、結果をイメージできなければ上手(うま)くいかなくて、それを理解せずに、ただ言われた通りにするだけだと必ず不備が有って、返って手間を増やすだけだった。

 結果をイメージしての達成は異世界の魔法と同じ感覚で、6Sの必要な段取りや手順や道具は、要素を取り込んで導(みちび)かせて発動させる魔法の詠唱(えいしょう)や呪文(じゅもん)と同じだ。

 そういう意味でのイメージは、開発や設計の技術と工程もいっしょだと思う。

 エンジニア達が正確にイメージできるようにしなければ、完成形の成就(じょうじゅ)には至(いた)らない。

(なら、親父と僕はウイザードで、お袋はウイッチかな?)

 会社での勤務時間中は6Sを行っているのならば、6Sは私生活の中でも実践(じっせん)、少なくとも意識はすべきだと思う。

 家の中や車の中の整理・整頓・掃除・清潔・安全、自身の態度や姿勢や行動や言動を正(ただ)す指針となっても良いと思う。

 実際に我が家で僕は、そうするように心掛けている。

 自分の部屋に物は多いけれど、しっかり整理整頓が為(な)されて整然として、部屋の隅(すみ)に埃(ほこり)が溜(た)まったりしていないし、ゴミは分別を徹底(てってい)して捨(す)てている。

 去年の年末に購入したロボット掃除機には、部屋の隅角(すみかど)まで綺麗(きれい)に掃(は)いて吸塵(きゅうじん)できるようにと家具と床の隙間に嵩上(かさあ)げを施(ほどこ)して障害(しょうがい)無く通れるようにしているから、断捨離(だんしゃり)をしなくても部屋の中は綺麗で、空気も清浄(せいじょう)だ。

 上面の大きなメッセージパネルに好きなアニメキャラを映(うつ)し出しながら、お気に入りの曲をメドレーで奏(かな)でて甲斐甲斐(かいがい)しくて動き廻(まわ)っている掃除機は、ダックテールにしてみたくなるほど可愛(かわい)い!

 6Sの認識だけど、会社で6S管理の責任者をしていて社員教育を徹底している人には、家の中や車の中が沢山(たくさん)のタバコの吸い殻(がら)や腐乱(ふらん)ゴミで臭く、多くの物が乱雑に散(ち)らかって汚(よご)れたままにしている喫煙者(きつえんしゃ)の方が多いと、仕事での接客や訪問先での経験から僕はそう思っている。

 社外での行動や態度や言動も横柄(おうへい)で乱暴(らんぼう)ならば、美化(びか)や躾(しつけ)の指導を行える魅力(みりょく)有る人物には程遠(ほどとお)くて、呆(あき)れるより軽蔑(けいべつ)して避(さ)けるしかないと僕は判断している。。

     *

 親父に連れられて行く中国への渡航は8月下旬になり、小松空港から上海(シャンハイ)郊外の浦東(プゥドン)国際空港へ飛び、そこで先に関西空港から到着していた顧客の海外部の次長と品質保証部の課長と合流した。

 小松空港から上海浦東空港まで3時間のフライトで着き、中国の入国検査を無事に通過して到着ロビーに出ると、顧客が取引する商社の駐在員の若い女性が待っていて、『これからの行き帰りの移動に同行して滞在などの手続きの一切(いっさい)を代行します』と言っていた。

 着陸後の外国人入国カードの記入と提出を含めて、ここまでの所要時間が1時間近く、機内持ち込みできるサイズのキャリーケースとリュックだけの手荷物だったから、この時間で済んだけれど、カーゴとして預けたスーツケースなどが有ると、更に30分以上は掛かるそうだ。

 上海ディズニーランド近くに在る浦東空港のパーキングビルから乗り込んだミニバンは片側3車線から4車線の高速道路をトラブル無く、1時間ほどで上海中心エリアの上海虹橋(ホンチャウ)空港近くのホテルまで移動して一泊(いっぱく)した。

 ホテルの宿泊は上階の角部屋(かどべや)で、其処から見える西と南の方向には果(は)てしなく建物が連(つら)なり、真(ま)っ赤(か)な夕陽(ゆうひ)は地平線近くで擦(かす)れる事無く、輝(かがや)いて沈(しず)んで行った。

 晩御飯の時に商社の女性が『辛(から)いのは大丈夫(だいじょうぶ)ですか?』と訊(き)くので、顧客の方々と親父共々『大丈夫です』と頷(うなず)くと、ホテル内の四川料理レストランで赤唐辛子(あかとうがらし)で真っ赤な『四川(スーツァン)火鍋(フォグゥォ)』という、初めて本場の中華料理の激辛(げきから)鍋(なべ)が美味(おい)しかったのでバクバクを食べていたのだが、朝方はゲリピーで何度も便座に腰掛けていた。

 親父もゲリピーだったと言っていたから、親子とはいえ、思春期の息子と親父でトイレの取り合いをしない様に、別々の部屋で手配してくれた商社の女性の方に心から感謝です。

 幸いにホテルをチェックアウトするまでにはゲリピーは治(おさ)まり、中国国内航空便がメインの上海虹橋空港発の鄭州(ゼンゾゥ)行き便には体調良く搭乗できた。

 予定通りの2時間のフライトで河南省の鄭州空港に着くとリムジンバスに40分ほど乗っで鄭州駅へ向かい、更に1時間くらい高速鉄道に乗り、山西省の晋城(ジンチャン)東駅へ移動した。

 商社の方の説明に因(よ)ると、山西(シャアンシィ)省は上海市の西北西の方向で、紀元前5千年に夏(シィア)、商(シャン)、殷(イン)などの国家が栄(さか)えた中国古代文明の発祥(はっしょう)の地域だそうだ。

 春秋戦国時代や三国史に頻繁(ひんぱん)に登場する中原(ちゅうげん)の地も此処(ここ)が中心で、古代文明を発展させた鉄や石炭などの鉱物資源が豊富な地だった。

 山西省は岩山の山脈に囲(かこ)まれた盆地(ぼんち)で、南側と西側の山脈の外側沿いに黄河が大きく曲がって流れていて、その西方は偏西風(へんせいふう)で運ばれて来て大気汚染を起こす黄砂(こうさ)の発生場所の黄土高原と砂漠地帯だ。

 北方の山岳地帯にはセメントの原料になる石灰石(せっかいせき)の露天掘り鉱山が数多く有り、その石灰石を粉砕して微細粉にした後、焼結(しょうけつ)でセメントを生成する無数の工場が、焼結での煤煙(ばいえん)でPM2.5と呼ばれる微粒子(びりゅうし)を大量に飛散(ひさん)させて、重度な呼吸器系の健康被害に至(いた)る大気汚染(たいきおせん)を広範囲に発生させていたが、現在は、各地の土地開発に因る建設ラッシュは治まって、セメントの需要が減り、大気は正常値に戻っている。

 『見て下さい。青空は日本の青空と同じ、澄(す)んだ青い色ですね。PM2.5の時は灰色っぽいくすんだ青色でしたよ。雨雲じゃない汚(きたな)い灰色の雲の層も発生していました。今は、中国の何処でも綺麗な空が見れて、清浄(しょうじょう)な空気で安心して息ができます』

 商社の女性の方は大気汚染の原因を説明しながら、この澄み切った大気じゃないと中国の風景は映えないとばかりに、大気汚染の原因を憎(にく)んでいた。

 そして迎(むか)えのエグゼクティブな内装の高級ミニバンに乗車して高速道路を1時間余り走り、漸(ようや)く小高(こだか)い丘の上に広がる街の頂上辺りに在る訪問先の協力会社に到着した。

 被(かぶ)さるように広がる丘も無煙炭を採掘(さいくつ)する鉱山で、現在も露天掘りと坑道掘りで採掘されている。

 その日からは会社の敷地内に建つ来客専用の広い四(よ)つ星(ぼし)クラスのホテルのような綺麗で設備が整(ととの)った部屋に寝泊まりする事になった。

 歓迎(かんげい)の食事会は殆どの社員、約2千人と会食する豪勢(ごうせい)さで、多彩(たさい)な料理はどれも美味しくて、ここに来るまでに通過した街や施設と同様に、工場も洗練(せんれん)されていて何も不安は感じなかった。

 住んで暮らすのは、聞くのと、見るのと、行ってみたのとでは、大きく違う事が良く分かり、はっきりと聞くだけや写真で見て文献(ぶんけん)で読んだけじゃ不十分(ふじゅうぶん)だという事が理解できた。

 滞在するのは五日間(いつかかん)で、その間に僕は加工のプログラムを最短化して加工精度を見極(みきわ)めるのと、加工機械の精度や設置状態の確認と調整、それに加工寸法の確認測定の手順を現状を確認しながらレクチャーする事だった。

 親父は金型設計の検図とレクチャーから成形トラブルの案件を改善するのと、それらの専門書には無い実際に経験で学んだ加工知識の講義(こうぎ)に、製品を作る高価なプラスチックの無駄(むだ)を無くすシステムの導入、最新の超音波金型洗浄機の性能、最先端の鋼材表面の改質技術の説明などや、精密加工に必要な機器を設置するに相応(ふさわ)しい基礎工事や耐震の構造の工場になっているのかの点検などだった。

 他にも工場内の空調、特に湿気防止と空気の滞留(たいりゅう)を指摘して、熱気の除去、窓や扉(とびら)やドアの開閉、金型や機械の温度調整、冷却塔のメンテナンス、水質の改善などを指導していた。

 講義の合間に覗(のぞ)いてみた親父の講義は、今後、僕が学ぶべき射出成型金型に関する重要ポイントで、金型構造の『内部空間の空気の迅速な排気の必要性』、『金型を構成する全ての板材の平行度』、『金型部品全ての平面度と正確な角度と寸法精度の公差』、『金型全体を均等な温度に調整する流体の流路構成』、『金型に用(もち)いる鋼材の材質や硬度に表面や組織の改質処理やコーティング』などを詳(くわ)しく説明していて、それらについての深い内容の質疑(しつぎ)応答(おうとう)にAI自動翻訳では能力不足で、会社側の通訳が意味の通じる文にするのに手間取(てまど)っていた。

 顧客の方々は協力会社を更に成長させるべき項目のチェックと要望を伝えるのに忙(いそが)しく、各自が終業時間後のミーティングまで動いていた。

 まだ3年余りの経験しかない若輩者の僕が行う、親父から厳(きび)しく叩き込まれた技能や作業の因果(いんが)関係を説明する拙(つたな)い講義でも、現場の年輩の担当者の方々は真剣(しんけん)に聴きながらノートを取ってくれていた。

 講義は仕事に支障(ししょう)が無いように二組(ふたくみ)に分けて、午前と午後に同じ内容を行ってエンジニアの全員が受講できるようにカリキュラムされている。

(まあ初めは、経験3年余りの17歳の日本人の少年が、どんな技能と技術を習得していて何を話すのか興味が有っただけで集まってくれたのだと思っていたが、後半から最終日まで手隙(てすき)の方達も来てくれて、なかなかの賑(にぎ)わいだったな)

 相手は新進気鋭(しんしんきえい)の若く優秀な社員達で、いずれも大学卒、大学院卒ばかり、しかも学部は金型学科や成形学科など成形技術や金型技術に特化した学歴の方々で驚いてしまった。

 大学の授業内容は既に確立された結果や過程を学ぶのが主体で、自主的に規格外を研究する事は少ないと言っていて、尋(たず)ねたは良いが、聞いていて面白味(おもしろみ)が薄い授業内容で、探求意欲が削(そ)がれると思ってしまった。

 実際、こちらでも成績の優劣は付き纏い、就職に有利なので大学に進学したと言っていたし、家族の為、親や親族への恩返(おんがえ)しの言葉も聞こえて来て、日本の学生や生徒とは根本的に違っているかもと考えてしまった。

(それでも、工業高校機械科2年生の僕とは大違いだろう!)

 彼らは、アルゴリズムの短縮を繰り返す僕の考え方、思考の原点、経験からの工程や加工物の確認と取付、それらの行い、注意すべき点、必要な知識と道具などを、事細かく知りたがり、自分達が行ってる作業とツールの違いを追求して改善点を纏めていた。

 毎日、終業時間まで質問攻めに合っていたが、これまでの経験と工夫(くふう)から知り得た事で僕は懸命(けんめい)に受け答えをしていた。

 『真剣な行いや真剣に悩んだりすると知恵(ちえ)が湧きます。中途半端(ちゅうとはんぱ)に遣っていると仕事への不満の愚痴(ぐち)を呟(つぶや)きます。いい加減や適当に生きていると出来ない言い訳ばかりします。だから、昨日よりも今日、今日よりも明日を更に気持ち良く生きて行きたい僕は、真剣に悩みます』と言った時、部屋にいた全員から身体が温(あたた)まるような拍手をされて感激してしまった。

 僕は終始(しゅうし)、『無駄口をせず、必要以上に喋るな。唇を結んで黙っていろ。ソワソワ、ウロウロ、キョロキョロするな。各自の表情や仕種(しぐさ)、工場や部屋の内部と外回り、窓から見える景色を観察しろ』と親父に言われた事を気を付けて実行していた。

 話し方は、『早口(はやくち)にならないようにして、極力、金沢弁は使わずに標準語の5W1Hの文法作りで、長くても5行程度の文にしろ。回りくどい言い方をするな。簡潔(かんけつ)に分かり易くして、翻訳が困(こま)らないようにするんだぞ』とも、親父に指示されている。

 他にも『接続語を多用して話を長くするなよ。そんな見せ掛けの利発(りはつ)さや教養が有るフリなんて、言葉が通じなくても分かっちゃうからな。工業用語も一般的なのにして、専門用語は使うな。通訳は加工の知識が無いし、同じ漢字でも意味が違うから気を付けるんだ』と、念(ねん)を押された。

 僕の方は、意味が分からずとも会社の人達の声を良く聞いて、単語や文の区切りを聞き分けれるように努力して、語気(ごき)やイントネーションで言葉に込められた気持ちを察しようと努力していた。

 確かな技術的イノベーションは少ないかも知れないが、先進技術の応用は多岐(たき)に渡り先んじていて、兎(と)に角(かく)、製造と普及が早く、このパワーは底無しで素直に凄いと感じた。

 商工会や学校の先生方々は、『まだまだ田舎的で汚く、交通マナーが悪い以前の日本のようだ』などと蔑(さげす)んだ評価をしていたが、そんな事は全く無かった。

 まあ、郊外や田舎へ行けば知らないが、建物にロビーにトイレは何処も清潔で日本と変わらない設備だった。

 交通真マナーにしても信号を守ってクラクションは殆ど鳴(な)らさないし、ウインカーも通常使用だし、交差点での通行も支障が無くて、毎日、安全な環境で安心して滞在できていた。

 ただ、熱心に学んで僕を質問攻めにして来るのだけれど、殆どが一人だけで来て同じ不理解点を訊いていた。

 彼らは理解した不理解部分を他の理解していない人達には教えず、自分だけの知識としてノートに書いて忘(わす)れない様にしているのを見て、この国が日本以上の競争社会な事を知った。

 その反面、試(こころ)みが上手(うま)く行かなかった時の諦(あきら)めが早く、関連部分の状態を確認せずに新たな手法を求めて来る事も多かった。

 日本人もいるけれど、要(よう)は他人(たにん)の所為(せい)、上手く行かない非(ひ)は自分の落ち度ではなく、自分にさせた他人の所為で、自分への見直しも、改めも乏(とぼ)しかった。

 高速道路上で前方の路肩側に工事車両が止まっていて、避ける為に速度を落として順次(じゅんじ)車線を変更していたのだが、その状況が見えているにも関わらず、長くクラクションを鳴らして車線変更を妨害(ぼうがい)するドライバーも多く見ていた。

 悠久(ゆうきゅう)の歴史が有る文明国家で、利発そうな人達が多いのに、乏(とぼ)しい察しと道徳(どうとく)の伝承(でんしょう)が侘(わび)しくて悲しい気持ちになった。

 滞在中に土砂降(どしゃぶ)りで激(はげ)しい雷(かみなり)の日が二度有ったが、停電する事は無くて洪水のニュースも聞かなかったから街としての機能保全は徹底していると思う。

 退勤後に買い物に行ったショッピングモールは商業工学に基(もと)づいたデザインの大きな建物で、『こんな奥地の省の小さな地方都市に!』と、またまた驚いてしまった。

 会社内もそうだったが、モール内も綺麗でゴミ一(ひと)つ落ちていなくて、子供が落としたアイスクリームも直ぐに従業員が来て綺麗に片付(かたづ)けていた。

 これは、『一朝一夕(いっちょういっせき)には成らず』ではなくて、『一朝一夕に行ってしまう』の気概(きがい)と逞(たくま)しさと方向性を感じて、これまで知らなかった有益(ゆうえき)な事を知るとどうなるのか、有益な改善を導入したらどうなるのか、其の派生効果を目の当たりにしていた。

 親父は言う、『やはり、この国の人達は侮(あなど)れない。これからも真摯(しんし)に対応しなくちゃな』

 僕の6Sの指導は二日目の最初に1時間ほど現場を見て回って行い、重箱(じゅうばこ)の隅を突かないように気を付けて指摘(してき)した。

 加工機械や成形機の冷却に使用する水を供給する冷却塔と水質のチェックに社屋の屋上に行った時、親父は西の方を向いて言った。

 『空の色が鮮やかな青色で、大気が澄んでいても、塵が舞っていないわけじゃないんだな。此方側の西方、向こうに連なる岩山の彼方には陸続きでヨーロッパが在る。其の手前の広大な高原地帯には荒野と砂漠が広がっていると、行った事は無いけれど映像や紀行記から知っている。そして、地球は東向きに自転していて太陽は東から昇り、西へ沈んで行く。足下の大地も、この空気も自転と同様に東へ向かって行っているんだ』

 『大気が地表に貼り付いての自転と同じ速度なら、此処に立っている俺達に空気の動きは感じ無いはずだろう。空気は動かず無風だろう。だが今、気持ちの良い西風が吹いているのを俺達は感じている』

 『中学校で習っていて覚えていると思うが、この風は赤道辺りの暖かい空気が北極の寒気に吸い寄せられながら、地球の高緯度になるにつれて円周が小さくなる為に周速度が速くなるからだ。例えば最大直径の赤道の円周距離でのを風速と、円周距離の半分になるの場所の風速では、単純に2倍の風速になると思っていてくれ』

 『北から南下する冷気と南から北上する暖気が合流して高気圧の気流となるのが、緯度的に此の辺りを含む日本の位置になる。一年中、西から吹く偏(かたよ)った風なので偏西風とよばれている。因(ちな)みに南北の極地へ大気が移動する赤道付近は低密度の低気圧になるので、気圧を上げようと東からの激しい風が吹き荒れる、これが台風などの熱帯低気圧だな。嵐を避けた緯度ならば帆船(はんせん)時代には東洋からヨーロッパへ物資を運ぶ都合の良い東風なので、現在でも貿易風(ぼうえきふう)と言われている』

 『話は長くなったが、この西風が舞い上げた黄土高原や砂漠の微小な土粒は、上空で衝突を繰り返しながら研(と)がれて超微小粉になる。大きさは一万分の一ミリメートル以下、2.5ミクロンのPM2.5の公害粒子よりも小さい。窓を開けておけば家屋のあらゆる場所へ入り込んで、精密機械の誤作動(ごさどう)や鏡面仕上げ製品の品質に悪影響を及ぼす。だから此処のような最先端の精密部品の製造工場では窓の開放は厳禁なんだ。それは日本でも同じだぞ!』

(そうだと僕も考えていた。だから親父の工場は準(じゅん)クリーンルーム化にしているんだ)

 この問題は当然、6Sの指導で指摘するけれど、僕が行う6Sの目的は『安全』で、作業現場が『安全』でないと、優(すぐ)れた『品質』は確保できないと考えている。

 故に、僕なりの6Sの考え方や効果も徹底的に指導して、最終日には不慮(ふりょ)の事故の発生を心配しないくらい、当たり前に各自の行動と現場の状態が改善されていた。

 最終日の夜は豪華な中華料理の後に花火のショーを観に連れて行かれて、その勇壮(ゆうそう)さに驚いてしまった。

 古代の宮殿の庭を模した会場は、高い壁と広いスタンド席に囲まれたサッカー場ほどの広さで、列を成して打ち鳴らされる太鼓(たいこ)が響き、天女(てんにょ)姿の踊り子達が舞っていて、防火用なのか池も有った。

 協力会社の社長と日本語が堪能(たんのう)な営業スタッフ達は花火と言っていたが、実際は火薬で弾(はじ)ける打ち上げ花火ではなくて、最新の耐熱服を纏った演技者がシャバシャバに熔(と)けた鉄を柄杓(ひしゃく)で掬(すく)って大きくブチ撒(ま)けたり、壁の上から撒き落としたりするモノで、もしも熔けた鉄で事故が発生すれば、浴びた手足の部分は一瞬で燃えて失(うしな)われてしまい、生存の見込みも僅(わず)かな危険極まりないショーだったが、撒かれた広がる熔けた鉄は金色に輝く雫(しずく)となり、一斉にバシャっと弾ける豪壮な美しさには度肝(どぎも)を抜かれ、吹雪(ふぶき)の様に降り落ちる火花の中に立つ柄杓を持った花火師の勇壮さと伴(とも)に、強烈なインパクトで僕の脳裏(のうり)に焼き付いた。

 眼前で演じられた非常に危険で素晴らしく豪華な花火ショーに僕は、世界の広がりと多様性を知らしめられて、北イタリアとは違った世界の凄さを体感していた。

 翌日からは帰国への移動で高速鉄道だと味気(あじけ)ないからと、感謝の気持ちを込めて高級ミニバンで冬場は雪が降ると通行止めになるという岩山群を抜ける峡谷(きょうこく)沿(ぞ)いのカーブだらけの高速道路を、頂(いただ)きに建つ漢詩に謳(うた)われたような寺院群を眺めながら走ってくれると、次は古(いにしえ)から渡河(とか)に難儀(なんぎ)したであろうカフェオーレ色の黄河を渡って鄭州駅まで送っていただいた。

 其の後は、来る時に宿泊した虹橋空港近くのホテルに泊まってから、翌朝早くに商社のミニバンで帰国の便に搭乗する浦東空港へ移動した。

 浦東空港からは別行動となる顧客の御二人との食事のテーブルで、『何処の高速道路も広くて快適なのだけど、時々、目の覚(さ)めるような段差の衝撃(しょうげき)とパーキングやサービスエリアの少なさに、お漏(も)らしが不安になる』と、親父は顧客の人達と心配事に意気投合していて、『確かにそうだった。もし再び大陸に来る機会が有るのなら、その時は手土産以外にオムツを持って来なければ』と、僕は心に誓(ちか)っていた。

 それにしても此の国の技術が遅れているなんて、トンデモない話だ!

 日本を含めた世界中の最新の設備とシステムを導入して、今回の様に使い熟す技を貪欲に学ぼうとしている。

 学んで最新機を使って高品質品を安価に提供しないと、僕達も世界では生き残って行かない。

 帰国の飛行機の中、『誠意有る協力で、誠実な対応を丁寧に行わないと、ウチも生き残れないぞ。高品質を速く安価で、尚且(なおか)つ付加価値を増やして儲(もう)けて行かないとな』と今後を親父と話し合った。

 真っ青な蒼空から歪(ひずみ)の無い真っ平で真っ白な雲の平原を見下ろしながら、『所帯(しょたい)を持って家族が増えても、潤沢(じゅんたく)な愛と夢で溢(あふ)れる幸せな家庭にする為にも、試行錯誤(しこうさくご)と行動で頑張(がんば)ろう』と僕は決意していた。

 『それにしても親父は業界の仕事に詳(くわ)し過ぎるね。凄いよ! 親父は仕事が好きで、仕事が生き甲斐なの?』

 これから更に忙しくなって、家庭を顧(かえり)みない親父にはなって欲しくない。だから訊いてみた。

 『馬鹿を言え! 仕事に拘束(こうそく)されるなんて、真(ま)っ平(ぴら)御免(ごめん)だぞ。仕事は生きる糧(かて)を得る手段に過ぎないくて、今の加工の仕事が一番性(しょう)に合っていて、しかも良く知っているからしているんだ。そして、どうせするなら誰もしないくらい研鑽を積んで、出来るだけ楽になるようにしてるんだ。労力と時間を費(つい)やして苦しみながら熟す仕事なんて、俺はしないね。俺の生き甲斐は妻と子供達と趣味であって、仕事なんかじゃない。それに家族の為だなんて恩着せがましい仕事でもないんだ。お前もそうだから解るだろう?』 

 東支那海(ひがししなかい)上空1万メートル、時速千キロメートルで小松空港へ飛ぶ旅客機の中、僕は親父に顔を向けて『確かに』

     *

 2学期が始まり、通学で乗車する朝のバスの中で僕は座る彼女の横に立っていて、真下の彼女を眺めながら思う。

 仕事人や弓使(ゆみつか)いとしての自信は付いて来ているのだけど、こうして彼女の横に立つと、いつも彼女に取り繕(つくろ)っている上辺(うわべ)だけで見栄(みば)えを良くしている僕を見透(みす)かされているようで、考えている決めゼリフと大胆な行動なんて、いつも想像だけで終わってしまう。

 好きだと伝える言葉は知っているし、愛を告げる文章も僕は書けている。

 優しい言葉を重(かさ)ねて綴(つづ)った過激(かげき)な文も彼女へ送信しているけれど、彼女との心の距離は一向(いっこう)に近付いていない感じだ。

 何度でも考えてしまう。

 行動を起こした時の僕は彼女を感動させて好意を持たれていた筈(はず)で、名無しだった卑怯(ひきょう)な僕でなくなってからは、彼女は僕を嫌っていないと分かっている。

 なのに僕達は近付けていない……。

 優しさだけじゃ君を愛せなくて、怒鳴(どな)るように、喚(わめ)くように、叫(さけ)んで僕の愛を示(しめ)せば、君は感激して僕の手を握(にぎ)ってくれるのだろうか?

 君は僕の首に両手を回して温かな頬擦(ほおず)りをしてくれるのだろうか?

 僕も抱(だ)き寄せるように君の肩(かた)に手を置いていっしょに歩きたいと思っている。

 君は僕の方を向いて、僕に好意を向けてくれるのだろうか?

(それは……分からない……)

 世の中が自分に優しくないと嘆(なげ)く奴がいたけれど、家族が理不尽(りふじん)に暴力を振るって蔑んで来る以外は、そいつ自身の責任が大きくて、そいつが不貞腐(ふてく)れて人に優しくないからだと僕は思う。

 そいつのような家庭に育(そだ)っていても人に優しくできる奴ならば、少なくても不幸さを他人の所為(せい)にしていないし、見てくれの悪さや低空飛行の成績でも皆(みんな)から好かれているのを、僕は見ていて知っている。

(だから……僕は彼女に見透かされているんだろうなあ……)

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 これまでインパクトの有る感動的な出来事が何度も二人に起こっていても、彼女に僕への想いを寄せる兆候(ちょうこう)の乏(とぼ)しさは、下水の流れの縁にへばり付いた得体(えたい)の知れない泡(あわ)まみれの汚れとか、思わず鼻を摘(つ)まんでしまう気持ちが悪くなる異臭(いしゅう)とか、そのヌメヌメした泥(どろ)のような中に蠢(うごめ)く気色(けしき)の悪い生物のように、根本的に受け付けない生理的な嫌われ要素が僕に有るからだろう。

 偶然と短絡的(たんらくてき)な策(さく)と偶然を実現させる強い想いで、暗い雲の下の様な関係を明るく好転出来たと想えても、僕達の距離は開いたままで少しも近付いていなくて、今も触れ合えないバリアーの様な隔(へだ)たりが有った。

(くっそぉー! 愛は求めるモノじゃない! 与(あた)えるモノだ!)

 報(むく)われなくても、僕は君に愛を与え続けてやるんだ!

 僕の愛が迷惑(めいわく)だと思われているのなら、尚更、決定的に嫌われて拒絶(きょぜつ)されるまで僕はしつこく君を愛し続けるだけだ。

 だけど、『私に彼氏(かれし)ができました。彼と幸せになります』なんて知らされたら、僕の熱情は四散(しさん)してしまい君に捧(ささ)げていた愛は『片想(かたおも)いのメモリー』として、僕の愛では君を幸せにできなかった事を悟(さと)った僕の心の深くに刻(きざ)み傷(きず)として残されるだろう。

 今以上に彼女との距離を詰(つ)めれない僕は、ずっと前から、このまだといつかそんな別れの時が来る予感がしている。

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 親父は言っていた。

『僕は此処にいるぞ!』と、アピールできる事が大切で重要だ!

 それは、学校の学業は優秀な成績で、行動と態度と応対(おうたい)は快活(かいかつ)で責任感が有って聡明(そうめい)、そして部活で頑張って活躍しているのが分かって貰えるような感じだ。

 社会では有言実行(ゆうげんじっこう)で信頼され、臨機応変(りんきおうへん)に仕事ができて、嘘(うそ)と真(まこと)の使い分けで約束を守るみたいな、それが自分から滲(にじ)み出るアピールになるんだ。

 思い詰めて黙っていたら誰も気付いてくれないし、心配もされない、まして好意を持たれる事はないだろう。

 笑顔が無いのに話し掛けられて微笑(ほほえ)まれる事は無いだろう。

 だけど、親父はこうも言っていた。

 『時には、ズケズケと「何しているんだ!」、「それは違う! この方がいい」など、お前が変だと思ったなら、そう強く迫って遣るんだ。土足(どそく)で踏(ふ)み躙(にじ)るように、遣る事、成す事、悉(ことごと)く否定して遣れ。謝(あやま)って優(やさ)しくするのは、その後だぞ』

 確かに優しさだけでは、愛は片手落ちで、インパクト的には肯定(こうてい)続きよりも否定(ひてい)の物言いも有れば良いと思う。

(しかし、否定を突っ込む隙(すき)が、彼女に有るのだろうか?)

 頷いた後に僕が黙っていると、『悩んで落ち込んでいるお母さんには、いつもそうしていたんだ。それが俺の方に靡(なび)かせたのかもな。否定して謝って優しくするのは、今も同じだぞ。まあ、お母さんのは俺を虐(いじ)めているだけだがな』

 ノートに走り書きしたようなストーリーやスケッチブックに描いた風景のように、現実はそんな姑息(こそく)さをなぞらえてはくれず、必ず何処かに綻(ほころ)びが出て、結末は手放しのハッピーになってくれない。

 だけど、シナリオ無しの心から必要だと思った言葉と行動なら、きっと彼女も心から僕へ向いてくれる筈だと信じている。

 そう信じているのだけど、相思相愛(そうしそうあい)に輝く展望は直ぐに不安で揺らめいて、押し倒(たお)されて心を踏み付けて貰いたいのは、僕の方だろうと考えてしまう。

 強烈なインパクトで覚えていたはずの過去の出来事でも時が経(た)つにつれて、細部は薄れたり、経緯(けいい)が前後したり、出来事(できごと)が入れ替(か)わっていたりして曖昧になって行く。

 想いを込めた言葉は不正確になり、何かを媒体(ばいたい)にして記憶していても、いつしか媒体自体もちゃんと思い出せくなっている。

 僕の想いを受け入れる彼女からの告白も有る、幸せの絶頂の有頂天(うちょうてん)は、『なぜ?』の不安と疑いに『夢』や『騙(だま)し』が加わって、僕は疑心暗鬼(ぎしんあんき)になるだろう。

 それは幸せな気分の毎日なのに、それがいつまで続くか分からない。

 いつか終わりが来て、幸せだと感じなくなる自分が不安だ!

  そこには、最早、『好き』と『愛している』の想いは消え失せて、互いへの根拠無き憎しみが湧き出しているのみだ。

 いつか終わりが来て、幸せだと感じなくなる自分が不安だ!

 悲しみに浸(ひた)るのは、もっと嫌だが、そうなった時の自分の受け止めや判断や対応などの未経験な心境に興味が湧きながらも、ますます不安が強まって、ふと、ここで人生をすっきりと終わらせようかと思ってしまう。

 その考えはだんだんと強まり、真剣に悩んでいくが、……でも、でも、それを実行してもすっきりした爽快(そうかい)な気分を満喫(まんきつ)できくなる事も分かっている。

 故に不安を煽(あお)るマイナス思考は払拭(ふっしょく)すべき僕の内なるダークサイドだと、分かり切っている事を再認識している。

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 眦が『おはよう』とか、『またね』とか言いなさいよって強く光っている。

 そう感じているのに僕は、バスの中であからさまに拒否られる言葉を聞いて、避けられる態度を見たくなくて、敢えて目を逸(そ)らす僕は彼女と向き合わない。

 彼女の瞳が『あんたは、いっしょに降りないの?』って訊いているようだ。

(ああっ! ダメだぁ……!)

 また僕は勝手な思い込みから勘違(かんちが)いしそうになっている。

 バスが停車して目の前右手の降車口の扉が開かれると、スクッと彼女が席を立って僕の前を擽(くすぐ)るような香(かお)りを残して、彼女はバスを降りて行く。

 降りる彼女は流れるようにバスの後方の横断歩道へと歩いて行きながら、いつものように視線だけを僕に向けた。

 その優(やさ)し気な瞳は僕を『毎日、ウザいなぁ』と見ているようにも、『ここじゃない何処かへエスケープしようよ』と僕を誘(さそ)っているかのようにも思えた。

(まあ……、誘いは無いかな……)

 彼女が後方へと去り、バスが発進しても、全く的外(まとはず)れかも知れない僕の思い込みと彼女の真意が分からない瞳の色に、毎朝、僕は彼女の温もりの残るシートに座らずに立ち尽(つ)くしたまま、更に二つ目のバス停で下車する。

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 去年の晩春の夕刻に乗った帰りバスで、金石の浜まで来てくれた彼女と同じになった事が有り、彼女は最後部の隅の席で眠っていて、僕が乗車した事に気付いていない様子だった。

 そんな彼女の横の空(あ)いていた席に僕はそっと座り、降車するバス停が間近になっても眠り続ける彼女に、僕は内緒(ないしょ)のキスをして起こしてやった。

 もしもあの時、僕も寝てしまって彼女に凭れ掛かったまま終点まで乗り過ごしていたら、先に起きた彼女は僕にどんな対応をしていただろう?

 『起きてよ 此処はどこなの?』、『先に出てくれないと、私が降りれないじゃない! どうやって帰ろうか?』と騒いだろうか?

 それとも冷静に、また折り返しのバスに乗って戻るか、タクシーを呼んで相乗(あいの)りで帰るか、非効率に別々のタクシーで帰る事になるか、それとも、『歩いて帰ろっか!』と言い出して夜道のデートになっていたのだろうか、なんて止(と)め処(ど)も無く考えてしまう。

 そうなっていれば、多くの言葉と表情を交(か)わせて彼女に僕を良く知って貰えていたかもで、僕も今以上に彼女を好きになって、互いが気軽に声を掛けれるくらいに親しくなれていたかも知れない。

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 彼女の顔の真正面の真ん前、行き成り、あと5センチメートルで鼻の先が触れそうになるくらい顔を近付けて、『やっぱり。君の瞳に僕が映っている!』、『僕の瞳にも、君が映っているだろう? 見える?』ってイモ臭いセリフと演技を遣らかしたら、彼女は僕のノリに付き合ってくれるだろうか?

(いやいや……、それは、まだまだムリだな……)

 しかし、そのくらいのバカっぽさは受け流してくれる近さになって来ているんじゃないかと、夢見勝ちの僕は勝手に思い込んで、彼女のユーモアのセンスに期待している。

 実際的には彼女の瞳を覗き込む前に瞼(まぶた)を閉じられて顔を叛(そむ)け、スーッと風切るビンタが飛んで来て、そのヒリヒリをする頬を撫ぜる涙目の僕は、『何しようとしてるの! バッカじゃないの!』と彼女が言い放つ罵声を黙って聞いているんだ。

 更に野良猫を追(お)っ払(ぱら)う様に、掌(てのひら)でシッシッと払う真似(まね)までして来るだろう。

(だから、これを実行したならば、きっと僕は不幸な気持ちになるんだ!)

 彼女は無表情の顔を僕から叛(そむ)けて無言になり、送信したメールへも無反応で返信は来なくなる。 

 何気(なにげ)ないジョークのつもりが彼女への想いを破綻(はたん)させて、後悔しきりの結末を僕に齎(もたら)せてくれるだろう。

     *

 話や文はモノ造りと同じで錬金術(れんきんじゅつ)のようだ。

 一つ一つの言葉の意味を知って理解していないと、言葉を繋(つな)げてのイメージを作れない。

 自分が伝えたい事を言葉でイメージできないと、伝えたい相手に暈(ぼ)やけた想いしか届けれない。

 より多くの読み書きをして経験で言葉を覚え、話や文の精度を高めて、鮮明さと色付きの形有るイメージに仕上げなければならないと、僕は考えている。

【魔法使いや魔女の使う魔法ように結果をイメージできなければ、創造や加工に改善や改造は良き結果へと導(みちび)けないですね。故に改造と改善を達成する匠(たくみ)やエンジニアはウィザードやウィッチと同等な異端の異能者なのかも知れないと、僕は感じています。改善の思考(発想)と改善後(魔法の結果)のイメージは、改善・改造すべき状態を不都合・不便と認識する事から始まります。なぜ不都合・不便なのか? 改善・改造すべきポイントは? その原因は? 不都合・不便な経緯を探し出して不快(ふかい)の原因を確認すると、その改善のスタンスをイメージできます。そうなれば仕事の良き進化になると、親父に依頼された鉄を削るアルバイトをしているだけの僕ですが、そう考えています】

 定期的な近況報告のメールだけど、ちょっとファンタジーっぽくして彼女に送ってみた。

【ふう~ん、けっこう前向きに考えて、頑張ってるじゃん! ただのアルバイトじゃなさそうだけど、メルヘンみたく光の粉の振り掛けで完成品が現れそうだね。不注意で事故らないでよ。怪我(けが)しないようにね】

 彼女からの返信メールとしては、僕への心配も加えて良き反応だと思った。

(君を好きになった事、君を愛した事、僕はそれを誇(ほこ)りにしたいんだ。例(たと)え将来、君と悲(かな)しむべき別れ方をしたとしても、僕の誇りは君を愛した事だと思っていたいんだ)

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 頬にニキビの肌荒(はだあ)れが有るのも、僅かにファションモデルのようなスリムなスタイルじゃないのも、ちょっとバタバタしていたりする君の走る足並みの姿や仕種(しぐさ)も、全部ひっくるめて君の全てを僕は本当に大好きです!

 笑う君の顔と笑い声と笑う息遣(いきづか)いが好きです!

 笑って逆(さか)さ三日月(みかづき)になる眼が好きです!

 世間には多くの男子から、とても可愛いと持て囃(はや)される女子や擦れ違う男子の大半が二度見するような、容姿端麗(ようしたんれい)で美人顔の綺麗な女子も知っているけれど、僕には何方(どちら)も少し宙に浮いた超常的な無機質さを感じてしまう。

 そんな美形の端正さや愛くるしさとは違い、彼女からは大気や海原や大地の様な有機的な実際さを感じていた。

 星だらけの朔(さく)の夜空は満月や三日月(みかづき)の夜よりも、僕は好きだ。

 晴れ渡った日本晴(にほんば)れの青空よりも羊雲(ひつじぐも)や千切(ちぎ)れ雲が群(む)れて浮かぶ青空が好(い)い。

 夜明け前の蒼(あお)い世界と黄昏(たそがれ)の金色の世界が美しい。

 頬や首筋を撫でて行く穏やかな春風と涼し気な秋風が心地良い。

 僕が彼女に抱くイメージを例えると、こんな感じになってしまう。

 真っ白な入道雲の立つ真夏のビーチやピーカンのチカチカする新雪のゲレンデは、彼女のイメージと重なってはくれない。

『好きだ! 好きだ! 愛している!』彼女の前に立ちはだかって、そう強く伝えたい!

 季節が変わるごとに湧き上がって強くなる衝動的な想いに、いつも僕は葛藤(かっとう)している。

 だけど、実際に足止めして想いの声が口から出た途端(とたん)に、これまでの穏(おだ)やかにしていた関係の全てが崩(くず)れて頭の中が真っ白になり、何も対処できない僕は、きっと身を翻(ひるがえ)して脱兎(だっと)の如く逃げるか、その場にしゃがみ込んで蹲(うずくま)ってしまうだろう。

 拒絶される言葉は不吉な呪いの詠唱のようで、それを彼女の声で聞くのが怖(こわ)い!

 僕の想いを聞きながら変わり行く彼女の表情と、言葉を発する彼女の口許(くちもと)を見るのが恐(おそ)ろしい。

 涼(すず)し気(げ)な顔と動じない態度で拒絶の詠唱を聞き終えるなんて、とても僕には出来やしない。

 締(し)め付けられる胸の苦痛に僕は唇(くちびる)を噛(か)んでの顔を歪(ゆが)めてしまう。

 そんな情(なさ)けなくて格好悪い姿を晒(さら)す僕の醜態(しゅうたい)は彼女にしっかりと覚えられてしまい、アゲインなんて金輪際(こんりんざい)、考えられなくなってしまうんだ!

 そう考える悪い結果を想像するだけで、僕は無口な無表情になって積極的な行動を控(ひか)えてしまい、後手後手(ごてごて)になってしまうかも知れない人生のターニングポイントを先送りにしている。

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 僕は弓道の射法八節の『足踏み』と『胴造り』の鍛錬をしながら彼女の横に立っている。

 折角(せっかく)、揺れるバスの中で彼女の横に立つのだから、この揺れに抗(あらが)えるブレのない骨幹作りに励(はげ)む事にした。

 吊り革に掴まりながら、揺れ任せにフラフラする見っともない醜態(しゅうたい)を見せないようにとの思いも兼ねて始めた事だ。

 始めた頃は、急な横揺れに彼女の頭に凭れ掛かりそうになったり、強く踏まれるブレーキのピッチングでヨロけてタタラを踏んでいたりしたが、二ヵ月も過ぎるとブレる事は稀になり、今では不意のブレーキの制動で乗客が前のめりになってザワつくような大きな揺れでも、全く動じなくねっている。

 でも、突っ込みや追突の衝撃で飛ばされるのには、耐える事は無理だけど、それでも『君だけは護り切りたい』と、真下の彼女のサラサラした髪を見ながら考えていた。

(いつでも、何処でも、君といっしょにいる此の時、此の場所が僕と君の世界の中心で、世界の果てでも有ると僕は思っているんだ! だから君の世界と僕の世界を広げるのは僕達だから、此の先もずっと君も、僕も……、いや、僕達は大丈夫だよ)

 そんな大願成就(たいがんじょうじゅ)な結果になる、ピンチはチャンス的な夢想(むそう)をしていた。

     *

 3年生が部活を引退して僕が部長に選出された今、座学の教室に集まった部員達に弓道部のこれからの方針と活動内容と目標を話す。

 熟達(じゅくたつ)した大人や先輩的な大学生達は直(す)ぐに『無我(むが)の境地』で弓を引き、矢を放てなどの精神論的な指導を口にする。

 だが、そんな不確実な精神論の具体性の無さに、僕は納得できなかった。

(無になって悟(さと)りを得るが如(ごと)く、心眼で狙う、などの不誠実な精神論は不要だ!)

 『今の俺達は15歳から17歳の高校生だ。人生経験は、3歳頃までの記憶が殆ど無いから、たった13,14年間の覚えしかなくて、まだまだ知りたい事や遣(や)りたい事だらけの誘惑(ゆうわく)や迷(まよ)いは多い思春期真(ま)っ盛(ざか)りだ。だからこそ、弓の重さと撓(しな)りを感じた時、矢の軽さと矢羽根(やばね)の風切(かざき)りを感じた時、それらの煩悩(ぼんのう)を遮断(しゃだん)できれば凄(すご)いぞ!』

 『だけど、〝八節で道の無我の境地に入り、心頭滅却(しんとうめっきゃく)、純粋(じゅんすい)無垢(むく)に集中して矢を放て、さすれば飛翔(ひしょう)する矢は己の望みを叶(かな)えてくれるだろう〟などと、弓道を極める方々がいう無我の域に達するのは無理です。大体、自分が無い無我なんて仏(ほとけ)の境地だろう。頭の中が食いもんとエッチとゲームの煩悩だらけの俺には無理だよなあ』

 『いやいや、それでも、集中する事はできるよな。周囲の音や動きが気にならなく……、いや気付かないほど集中する事はできるんだ。〝弓構(ゆがま)え〟で集中したら異世界へ召喚(しょうかん)されて、〝会(かい)〟で弓を引き絞(しぼ)り、集中の極(きわ)みで蛇の目を狙って、フェザータッチの〝離れ〟をする。迷い無く放たれた矢は勢い良く踊りもせずに真っ直ぐな直線で蛇の目へ飛んで行く。そして弦音の響きと回った弓の弦が左手の手首に軽く当たる感触で世界は改変されて。集中していた異世界から現実へと戻されて来るんだ』

(見事、蛇の目を貫いた矢に龍は息絶えて、龍への生贄(いけにえ)になる筈だった村の可愛娘(かわいこ)ちゃんか、白亜(はくあ)の城の美少女姫(ひめ)を救えたと、集中して放つ一矢一矢に僕は、そう信じたい!)

 『俺達は、射場の神聖さの緊張(きんちょう)と周囲の喧噪(けんそう)に動じない不動さに、狙いと放ちの呼吸に集中する精神を養(やしな)い、胴造りや会に使う筋肉を鍛(きた)えて、骨幹を整えれば、那須与一(なすのよいち)やウイリアム・テル、ロビンフッドや魔弾の射手にだって成り切る事ができるんだぞ!』

 少しファンタジーが入ってオカルトめいた語りだけど、同期の2年生達も、後輩の1年生達も真剣に聴いていてくれている。

 『本校の弓道部は日本の弓道の規定に基づいた和弓(わきゅう)という弓を用いて八節の射法と弓道場に於(お)ける礼節と言動で行うという事を改めて皆さんへ御伝えいたします。したがって、決してアーチェリーとボーガンを使用してはいけませんよ』

 『事故が起き易い事なので先に注意しておきます。矢取りは打ち手を2回鳴らしてから行いますが、鳴らしたと同時に的場へ出ないでくだい。必ず射位置の全員が射を終えて射位置から下がっている事を確認してからにして下さい。射場から誰かが、掛け声で教えて上げても構いませんが、それでも自分の目で確認して下さい。そして射の練習を行う人は矢取りが済むまで、射位置から下がったままでいて下さいね。これは不慮の事故が起こらないようにする為の備えです』

 『八節の動作に入ると徐々に集中力を高めて〝会〟で的だけが見えて、的を狙って中(あ)てる事だけに気を集中させている。静かに忍び寄り虎視眈々(こしたんたん)と獲物を狙う獰猛(どうもう)な獣(けだもの)の心境だ。静の中に秘めた激(はげ)しい動の世界に浸(ひた)りきっているんだ』

 『〝胴作り〟の姿勢で八節の作法を熟(こな)して行きながら大きく静かに息を吸い込み、そして静かに吐いて行く。吐き出して行く肺の揺れと脈動する身体の揺れが重なり、瞬間、ピタリと的の真ん中に狙いが定まり、〝離れ〟で留(とど)めていた殺気を解き放つ。そして的に矢が中(あた)る手応(てごた)えを感じる』

 『射手がこの状態になるまで矢取りの打ち手を鳴らすんじゃないぞ! 集中している射手には聞こえても、見えてもいないからな! 非常に危険なんだ! くれぐれも間違いの無いように、そこんところ宜(よろ)しく!』

 『弓道はチームやグループで対戦する競技には向かないよね。三人(さんにん)立ちか、四人(よにん)立ち、または五人(ごにん)立ちで試合の規定や状況に因(よ)って事前に通知が来ます。一人(ひとり)ずつ順番に射て、一人が4射する。合計で放つ矢は20本だ。誰(だれ)かが外(はず)した射の分を誰かの的中(てきちゅう)で補(おぎな)える事は出来ないんだ。的に刺(さ)さった矢の数で勝敗が決まってしまう。もしも、今が戦国の世なら実戦で不利になる仲間の射手に加勢する事ができるだろうが、競技だと各個人の力量のみの加算(かさん)で勝敗(しょうはい)が決定する』

 『故に団体戦で勝利するには、チームワークなんて関係な無い! そんな事に気を捕らわれるよりも礼節と八節の形を美しくして、的に中てる事に集中するんだ! 大会の弓道場の射場で一人一人が〝離れ〟の命中率を上げていなければならない。団体戦に選抜されるのは必然的に大会へ出場する部員になってしまうが、選抜される部員は日頃から的中率が高い部員になる。勿論(もちろん)、選考の射会を行ってから決定するぞ!』

 『それから、部員全員で試合慣れの為に此処から離れて、他校や大学生や社会人達の弓道場での対抗試合を数多く行うようにする。 女子が多い高校でキャーキャー声援されながら、矢を放ち、的を射抜くんだぞ! 気持ちいいぞぉー!』

 聴いていた部員達から『活躍できるようになれば、モテますかねぇ? 女子にチヤホヤ好(す)かれてイチャイチャしたいです。部長は彼女がいるのですかぁ?』と訊いて来る。

 武道の精神から外れて目的が不純だけれど、思春期の男女として恋愛事情を最優先に絡(から)ませるのは真っ当な動機だと、僕は考えている。

『そりゃあ、クールに恰好良い品性を見せれば、それなりの効果が有るかもな。でも的中や皆中して、へへーんと自慢気(じまんげ)な顔になるのは自分の評価下げになるぞぉ。オーディエンスの男子も、女子達もちゃんと見ているからな。それと俺に彼女はいないけれど、片想いはしてるぞ。トップになったら振り向いてくれるかもって期待して頑張っているよ』

 『という事で、射場の厳(おごそ)かで雅(みやび)な雰囲気を乱さなければスタンドプレーも有りだ。それさえ守れば当てたら勝ち、当てた者勝ちだ! これは精神訓や弓道訓じゃなくて弓兵や鉄砲兵の戦陣訓だな』

 『みんな、ビシバシ当てて、彼女や惚(ほ)れた女子にカッコイイところを見せ付けてやれ! 部員全員をレベルアップするから、みんな素直になって良く中る者は、中らない者にコツを教えるんだ。先輩後輩の区切りは無いぞ! たった1学年の差なんか学校以外じゃ関係無いんだ。卒業して社会人になれば、礼儀正しくて呑み込みが良くて実力が備わる者が真の実力者だからな! 「御願いします。教えて下さい」、「八節の形を見て下さい」と丁寧(ていねい)に教え請(こ)うんだ。請われた者は丁寧に教えるんだぞ!』

 『みんな、よく観察するんだ。八節が綺麗な人、よく的中する人、よく見て真似をするんだ。「なに見てんだ、マネするな!」って言ったり、思ったりする奴は其処までだ。そんなセコい射はするな! 各自、研鑽(けんさん)して気付いて工夫しろ! どうすれば中るのか? 弦の引き加減は? 狙うポイントは? 放つタイミングと離し方は? 弓の返し加減は? 己(おのれ)の〝会〟と〝離れ〟と〝残身〟の姿は美しいだろうか? 俺達は全員で高みへ昇るんだ!』

 『ここで少し命中率を上げる為の〝引き分け〟〝会〟〝離れ〟の関係を話しますね。〝引き分け〟で弓を引く時は、弓を握るのではなくて押し付けるんだ。撓(しな)って行く弓を左手の手首から下向きに押し下げるようにするんだ。そうすれば危険な上方へ弓は飛んで行かないし、左手の人差し指と親指はピンと伸びて矢が弦から離れる弓の回転を滑(なめ)らかにしてくれて、左手の掌(てのひら)の中で矢を放った弓の回転が矢を直線で飛翔させます。だから握りしめていたらダメです』

 『だが、ここで別の方向へ矢を飛ばそうとする力が加わります。それは両側の肩(けん)甲骨(こうこつ)を背骨に寄せるようにして胸を張って、しかも屁(へ)っ放(ぴり)り腰(ごし)のように上体を逸(そ)らして弓を引く〝引き分け〟の姿勢です。〝会〟で右手に着けた懸の位置は顔の後方になり、右頬は矢に触れんばかり、力んだ〝離れ〟では、後方へ周り過ぎた弦が右耳と耳頬を叩き、回転不足の弓に矢は右へと外れていきます』

 『力み過ぎない美しい〝会〟の姿勢ならば、頬や耳は痛くなく、弓は回転してくれます。張っていた胸は開放される反動で伸ばした両手後へとフレてしまいます。これが別方向へ加わる力です。弓が回転しないと弓の中心線位置の弦は弓の縁に矢を摩らせて、矢を右方向へと曲げて行きます』

 『したがって、皆が八節で鍛錬しなけばならないのは、弓を引く時にブレない〝胴作り〟の為の足腰を鍛えた骨幹の不動さ、〝引き分け〟で矢を引き切る腕力、弓を撓らせる背筋力、〝会〟での的を狙う集中力と呼吸合わせ。〝離れ〟での懸(かけ)から滑らすように弦を離れさせる感覚とタイミングです。これらはコツを教える事ができますが、習得は個人の鍛錬と研鑽の積み重ねしか有りません』

 『繰り返します。動物の身体は絶えず脈動で揺れています。矢は息を吐く間に放ちますが、こう、左手を水平に上げて指を伸ばして止めてみて下さい。……そう、止めましたが、指先は微動していますね。生きている身体は脈動しているので必ず揺れています。これを息を吐く肺が収縮する揺れとシンクロさせるのです。シンクロして揺れが止まるのは一瞬ですが、それを鍛錬して習得するのです。良く的中する射は研鑽する鍛錬の積み重ねですね』

 『あと、大会によっては、しゃがんで射を待つ場合も有りますから、足が痺(しび)れたり、しゃがむ時や立ち上がる時に尻餅(しりもち)を搗(つ)いたり、フラついたりしないように、起坐(きざ)の練習もします。起坐での八節も練習するよ』

 『余計(よけい)な事かも知れないが、ドヤ顔と腕組(うでぐ)みはしないで下さい。実にチープで中身無しに見えます。真に出来る者は腰(こし)に手を当てるか、手を後ろで握(にぎ)るかして胸(むね)を張ります。一代で築(きず)き上げた大企業の著名(ちょめい)な社長や会長でも、世界的に高名な学者や研究者でも、ノーベル賞を受賞した政治家でも、真面目(まじめ)腐(くさ)った顔の腕組みポーズの写真一枚で、尊厳(そんげん)よりも威圧(いあつ)が勝(まさ)って本質がチープに思えます。本当はそうではないかも知れませんが、腰に手を当てて胸を張る人物よりも、見た目で自慢(じまん)らしさと狭隘(きょうあい)さが滲(にじ)んで仕舞います。皆も気を付けて下るように、お願いします』

 『タバコは吸(す)うなよ! タバコ吸いは小心者(しょうしんもの)がする事だ! 含(ふく)まれるニコチン成分は殺虫剤にもなる猛毒で、身体に機能障害を起こすんだぞ! 持久力(じきゅうりょく)と集中力も削(そ)がれるんだ! それと部内での虐(いじ)めは許(ゆる)さんからな! 虐めたり、貶(おとし)めたりして和(わ)を乱(みだ)す奴は即退部させるぞ! 和を以(も)って貴(とうと)しとなすだ! 思い遣りと察しが大事だからな! そして、注意してもタバコを止めない奴もだ! チクったりしないが辞(や)めて貰うぞ。高校生になっても自己管理もできない奴は、此処には不要だからな!』

 『それと、各自の家での状況は知らないが、家以外の場所、特に学校内は勿論、帰宅前の放課後は絶対に酒はダメだからな。酒類は飲むなよ! チョコボンボンもだぞ! タバコと酒は部外者に知られたら出場停止になっちゃうからな。絶対だぞ!』

『部長! 飲酒は何処でも厳罰(げんばつ)じゃないのですか?』

『おっ、良い質問だねぇ。君は知らないのか? 酒は百薬(ひゃくやく)の長(ちょう)なんだぞ。でもゲロする深酒じゃないぞ、適量だぞ。酒のメチルアルコールや消毒に使う薬用アルコールは傷の完治を早めるんだぞ。だから、未成年者は他人に知られない自分の家の中で家族とだ。悪友とつるんで飲むのは厳禁だからな!』

 『それと要注意事項を言うぞ。燃料や洗浄に用いる工業用のメチルは絶対に飲むな! 酔(よ)わせながら血液を凝固(ぎょうこ)させるから、毛細(もうさい)血管を詰まらせて失明や臓器の機能を停止させるぞ! 苦しみ抜いて死ぬからな!』

 『安土(あづち)の的は日替わりで標準的と金的(きんてき)で練習するぞ。試合で使う標準的の直径は36センチメートル、祝いに使う金的は直径9センチメートル、射位置から安土の的までの射距離は28メートル、狙いと命中精度の鍛錬になると思う。安土は大分(だいぶ)と草臥(くたび)れて来ているから、崩(くず)して盛り直しの整備をしようか。土木科の人は作業内容を調べてくれますか? 土木科や建築科の実習で行えないのか、生徒会を通して実技の先生達に相談してみます』

 『的中率が上がるきっかけは何処に有るか分からない。大会で大勢の前に立つのを意識付けさせて高揚(こうよう)せずに冷静(れいせい)でいられるように、月2回は全員でカラオケへ行き、最低一人3曲は歌って貰う。ワンドリンク、ワンフードを含めたカラオケダ代は部費と俺のバイト代から工面(くめん)してやる。音痴(おんち)だとか、上手(じょうず)だとか、そんなの関係無い! ステージ慣れの練習だ! 別に路上パフォーマンスや文化祭の出し物を遣れとは言ってないぞぉ。楽しく騒(さわ)ぎながら射場に立つ度胸(どきょう)のレベルアップだ! お祭(まつ)りの屋台に有る射的(しゃてき)も修練として導入する。2メートル離れて目線高さのサイコロを狙って命中させるんだ。射的の銃とコルク弾も俺が用意するけど、景品(けいひん)は今のところ考えていないぁ。面白(おもしろ)い景品案を募集中です』

 『カラオケで唄(うた)わされる』と聞いて何人かが嫌(いや)そうに眉(まゆ)を寄せたが、近い将来に社会人や大学生に成って飲み会やコンパで上手に歌える事に越したことはないだろう。

(嫌(いや)がり、躊躇(とまどい)いなんて、心地良い雰囲気(ふんいき)と慣れで克服(こくふく)できるんだよ。これまでが碌(ろく)でもない体験ばかりだったのだろう)

 『お前、上手(うま)いな! 何処で練習したんだい?』とか訊かれて『弓道部の部活で……』、『なんだそれ、お前のいた高校は弓道が強かっただろう。歌いながら弓を引いていたのか?』なんて、笑える不思議な会話になったら楽しいし、印象(いんしょう)深(ぶか)く覚えられるかも知れない。

 平日は部活の帰り、親父から依頼されたバイトが無ければ、殆ど毎日のようにダチ連中と待ち合わせする喫茶店で耳障(みみざわ)りが心地良い音楽を聴いて、彼らとカラオケでお気に入りのポップスをよく歌う。

(いつか彼女と二人っきりで、そうなれば良いと望んでいるが、その実現は彼女次第だな……)

 音楽は、自分の部屋や学校の休憩(きゅうけい)時間ではヘッドフォンで聴いているけれど、通学中や移動中は危機の察知や状況把握(はあく)の妨(さまた)げになるからイヤホンを片耳しか付けないようにして聴いている。

(危険が聞こえなくて僕が事故に遭(あ)ったり、彼女を助けられなかったりしたら、それこそ後悔(こうかい)先に立たずだ!)

 『座学の時間は週に1、2時間程度にして、筋力トレーニングの日に行うようにします。今ほど話した事は座学で実践状況を確認しながら繰り返し話ますから、これからは根性(こんじょう)とか気合(きあい)とか、そんな不毛(ふもう)な念仏(ねんぶつ)は言ってはなりません。決して精神論を唱(とな)えてはいけません。私達は工業高校の生徒です。座学では哲学(てつがく)的や観念的な言葉よりも力学的、肉体的、節理(せつり)的な分析をします。そして。それに基(もと)づいた鍛錬の改良の提案を話し合います』

『弓道部の部活の全ては、試合と己(おのれ)に勝つ為に!』


 つづく

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