筋肉の解決
玄米
チョコ味のプロテイン
チョコ味のプロテインが好きで、2ヶ月に1回のペースでまとめ買いをしている。ココア味じゃなく、チョコ味というのがポイント。ココアの取ってつけたような甘さは、筋肉にとって悪影響を及ぼすような気がするから。
「兄ちゃん、また買ってきたの?」
大きなダンボールを抱えて階段を上る僕に、同じ二階の自室から半身を出してきたモモはそう質問する。
「これがないと筋トレした気にならないから」
「重そうだね。代わりに持って行ってあげようか?」
「よしてくれよ。妹に重労働を頼む兄が、どこにいるんだ」
「でも……」
モモはごにょごにょと口ごもる。きっと、過去のことを思い出して不安になったのだろう。であれば、僕がとる行動はひとつしかない。
階段を登りきったところで、僕はダンボールを肩に乗せてスクワットを始めた。
「え、いきなり何?怖いんだけど」
「……見ての通りさ。僕は今、とても元気なんだ。お医者さんからも太鼓判を押してもらっている」
「それは、知ってるけど」
「いいかい。モモ」
十回ほどのスクワットを終えると、ダンボールを床に置き、モモに向き合った。
「筋肉は全てを解決してくれる。筋トレにハマったからこそ、今の僕がいる。何も心配することは、ないんだよ」
「そう……だね。バカがつくほど元気になったもんね。兄ちゃんは」
「そうとも!今週末の体育祭も期待していてほしい」
「行くのはあくまでも高校の下見のためだから。受験生にとって貴重な時間を、兄ちゃんのために割くわけないでしょ」
いたずらっぽく笑うモモを見て、僕は安心した。いつもの調子に戻ったようだ。
「ならば、こうして話している時間がもったいないな。早く筋トレもしたいし」
「それなんだけどさ。筋トレ中の独り言、もうちょっと小さくできない?集中、できなくて」
「それは……すまなかったね」
「あと、やりすぎも気をつけてね。信用はしてるけど、万が一もあるから」
「そうだね。気をつけるよ」
そう返事をすると「じゃ勉強あるから」と言ってまた自室にこもった。
これ以上、余計な杞憂をモモに与えてはいけない。モモだけじゃない。父さんにも母さんにも。もう、あの頃のひ弱な僕はいないのだと、この身をもって証明しなければ。いい加減、さようならをしなくてはいけない。
自分の部屋に入り、筋トレ用具とマットの準備をする。
まずは腕立て伏せに腹筋、それから背筋を鍛えよう。少しだけ特別なメニューも混ぜて。
その日はいつもより早く、チョコ味のプロテインを飲み干した。
筋肉の解決 玄米 @genmai1141
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