第6話 兵器の雨

快斗が作り出したバリアの中で、サミューラの力が膨れ上がっていた。


「何飲んだんだお前。」


「『戦争』の血だよ。概念格にも血があるなんて意外だよね。それとも、『戦争』だから、かな?」


体の節々から、ナイフや銃口が飛び出し始めている。どうやら、概念格を制御できていないようだ。


「それじゃあお前、『戦争』飲み込まれるぞ。」


「いいんだよ。僕の役目は君を倒すことじゃないから。」


「だろうな。もし仮にお前が『戦争』を取り込めたとして、俺には勝てない。」


「まぁ通用はするだろうけどね。目的は違うけど。」


サミューラは真上に両手を振り上げたあと、勢いよく振り下ろした。


「落ちろ『戦争』。僕を使って暴れろ!!」


快斗は上を見上げた。ただの人間に概念格が従うか、興味があったからだ。


そしてその答えは、見てみて簡単にわかった。


「応えるのかよ……!!」


落ちてくる『戦争』。それは快斗のバリアの上に勢いよく衝突し、密着した状態から超威力の弾丸を惜しげも無く放つ。


バリアをこのまま維持することは快斗にとって苦ではないので、そのままにしておいた。


『戦争』がサミューラに接触すると、色々と面倒だからだ。


「お前はここで先に殺す。」


「やっぱり、そうなるよね。」


快斗の殺害予告にも笑顔で返すサミューラ。やはり目的は、快斗達の討伐では無いようだ。どちらかと言えば、


「分析、というより観察だろ。お前の目的は。」


「ふふ。そうさ。僕は所謂捨て駒さ。君達の力量をはかるためのね。」


そのための犠牲。そのための命。そのための『戦争』。


実にくだらないと快斗はため息をついた。


「やっぱり人間は面倒だな。」


「君は違うとでも言うのかい!!」


サミューラが懐へ飛び込んでくる。肘から露出した銃口を向けられ、それはきちんと機能して銃弾を放つ。


「俺は悪魔だ。」


それを軽々避けて、快斗はサミューラの両腕を切り落とす。


が、切られた腕の断面が直ぐに銃口に埋め尽くされ、流れ出たのは血ではなく弾丸であった。


「悪魔とは、また面倒な表現だね。君の性格のことなのか。それとも君の力量のことを言っているのか、分かりずらい。日本人の言い回しはオシャレだが面倒だよ。」


「俺も理系だから、そこには賛同する。天気が雨なだけで悲しみだと考える奴らの思考は理解出来ん。」


天気は天気。悲しみは悲しみ。悲しいのなら、さっさと悲しいと書いてしまえばいいのに。それが快斗の考えだった。遥か昔の、まだ学生だった頃。


「死ね!!」


「お前がな。」


迫り来るう銃弾の波。面倒くさいので、快斗はそれごとサミューラを切りさこうと、少し強めに刀を振るう。草薙剣と刻まれた紫色の刀身が、銃弾より速く動いて全てを切り裂いた。


「ん。それは意外だな。」


そして、その斬撃全てが、そのまま快斗に跳ね返ってきた。


自分の切り方は、自分がよく知っているので、難なく躱すことが出来た。


「お前、厄介な特性を貰ったんだな。」


「そう。僕がここに派遣された理由は、忠誠心だけじゃないんだよ?」


快斗によって切り刻まれた地面の真ん中に立つ、無傷のサミューラは笑って言った。


「僕の特性、『全反射』。あらゆる任意の攻撃を跳ね返す。」


「ならなんで俺の攻撃をさっき受けた?」


「両腕なんてなくていい。こうして武器になっていてくれた方が便利だ。」


銃口になった肘を見せながら、白い甲冑のサミューラはケタケタと嗤った。


「さぁて、君がこのバリアを解放しないと、上の『戦争』に蹂躙するけれど……いいの?」


「そうか。じゃあ、」


「?」


快斗がバリアに手のひらを向ける。


「もういい。どうせ、『戦争』に魅せられた狂信者共なんだろ?」


「……君もだいぶ狂ってる。」


サミューラはそう言い残してその場から直ぐに離脱する。地面を蹴ってサミューラがいなくなった瞬間、バリアがなくなり、大量の兵器が降ってきて、軍人達が皆押しつぶされてしまった。


快斗は兵器を切り裂きながら、兵器の蓋の上に飛び出す。


出た瞬間、あらゆる方向から銃弾が迫ってきた。


それを軽く草薙剣でいなしつつ、サミューラの動向を把握しようと辺りを見渡していると、


「たっだいま~!!」


「おかえり。」


着地した衝撃波で銃弾が全て弾かれ、それを放っている兵器や銃口が吹き飛ばされた。


「話してきたか?」


「うん。ちゃんと話してきたぜ。」


「どんな?」


「精一杯、殺し合おうってさ!!」


「だと思った。」


黒いジャージの少年、神風瀬太の溌剌としたテンションから、快斗は答えを察した。


「サミューラは敵だった?」


「おう。お前の言った通りだ。」


「だろ?俺の勘は外れない。」


「あいつは『戦争』を取り込む気だ。」


「マジ?出来るの?」


「出来なくとも、俺達の力量をはかれればいいんだと。」


「はえ~そういう感じね。」


2人が軽く会話していると、ゲートから次々と兵器が呼び出されて、大きな生物を形成する。


それは龍の頭のような形をしていて、基地を地盤に首が作られた。そしてその標準が快斗と瀬太に向けられた。


「はぁ、はぁ、らぁ……流石に、重たいなぁ。」


白い甲冑の隙間から血がしたたり落ちるサミューラ。目と鼻と口から沢山血が流れ出ていて、人間としての形すら保てなくなり始めている。


龍の頭に下半身が同化していて、そこから無理やり『戦争』を動かしているようだ。


「暴れるって目的が一致してるから共生してんのか。」


「だが『戦争』の意識が強すぎて支配しきれてないな。」


苦しむサミューラ。残っているのはもう頭部くらいで、ほとんどがナイフや銃口に変化している。


もはや甲冑すら崩れ始めていた。


「ぶん殴るか。」


「いや、『戦争』はサミューラの特性の『全反射』を引き継いでいる。お前が本気で殴ると、お前はともかく地球が耐えない。」


「じゃあ、サミューラを先に殺すしかないな。」


「俺が殺る。」


「じゃあ俺は下ね。」


2人は標的を決めると、足に力を込めて走り出した。


「撃てええええ!!撃ち殺せぇええ!!」


放たれる銃弾の大きさや威力はより一層強く、快斗はそれを剣で受け流す。


銃弾全てに『全反射』がのっているので、安易に切り裂くとしっぺ返しを食らう。


「当たれ当たれ!!当たれぇえ!!」


どう撃っても銃弾は真っ直ぐにしか飛ばない。スナイパーもマシンガンもミサイルも、全部真っ直ぐだ。流すのは簡単なんだ。


というよりそもそも、光の速度にすら到達できない銃弾が、この2人を捉えることなんてありえない。


「来たぜ、サミューラ。」


サミューラの目の前に立ち、快斗がそうこぼす。サミューラは既に銃口になってしまった目で快斗を見上げる。


「君には何が効く?」


「なんでも。人を傷つけるものならば。」


「じゃあ、これも効く?」


サミューラは笑った。その瞬間、快斗とサミューラの間の地面から、何本かのミサイルが飛び出した。


そこに書かれているマークを見て、快斗はため息をついた。


「核兵器か。」


視界が真っ白に染った。

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