第7話 終結
真っ白な世界の中で、耳鳴りがうるさく響いた。
だんだんと白が色を取り戻し始めてきた頃、サミューラは乾いた笑いを零した。
自分の半身すら吹き飛ばすほどの自爆特攻。それは全く目の前の敵に効いていなかった。
もっと言えば、その攻撃によってダメージを受けたのは、サミューラだけだった。
「なんだい?それは………」
「『消滅』。俺の能力だ。」
半透明の白いドーム。それが核兵器とサミューラを囲んで展開されていた。
それは森羅万象全てを消し去る最強の力。何者もその防壁を突破することは出来ず、何者もその攻撃を防ぐことは出来ない。
当然、サミューラの特性である『全反射』も機能しない。
核兵器の爆風を全て消し去った。影響があったのは、その中にいたサミューラだけなのだ。
馬鹿げた能力だと呆れて、サミューラはぼやけた視界に快斗を捉えた。そこにいる快斗は、サミューラの知っている快斗とは似ても似つかない、白髪を持っている少年だった。
「言い残すことはあるか?」
「全く、これほど人類の本気を見せても、君達は傷すらつかないのか。」
「俺はこの力があるからそうなっているだけだ。瀬太なら生身で耐えるだろう。」
「なんで、なんだい?」
「知らん。ただ言えることは、あいつは俺らの中でも突出して強いぞ。」
「どれくらい?」
「俺を力を『1』と例えるなら、」
快斗は少し考えてから、
「あいつは『2億』だな。」
「はは………もう想像もしたくないな。……役目は終えた。殺してくれよ。」
「そうかよ。」
ドームが縮まって、サミューラを飲み込んだ。ドームに触れた部分が、まるで元々そこになかったかのように消え去った。
そして、サミューラはこの世から存在を消されてしまった。
「GOOOOOOOOOOOOO!!!!!!」
その瞬間、大爆発するように『戦争』が動き出す。
兵器で出来た腕で快斗をなぎ払い、その都度大量の銃弾を放つ。髪を少し弄りながら、快斗は『戦争』から飛び降りて銃弾全てを切り裂いていく。
空間を斬る手前の威力に留め、億を超える弾丸を1発残らず消していく。
「お前の相手は、俺じゃないんだろ?」
地面にゆっくりと落ちていく快斗はそう言い残して今回の戦闘から離脱する。
「GAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!!」
「っしゃあぁあ!!!!来いよ『戦争』!!!!」
兵器の波を蹴っ飛ばして突っ切っていく瀬太。その速度は音を超え光を越えて、その足だけで『時間』を踏みしめる。
大量に投下される核兵器。大陸一つ、声明全てを葬り去ることが出来るほどのそれは、瀬太に当たることは無い。
重力になんて縛られない最強生物には、自然落下は遅すぎる。
「無駄だ!!届かねぇよ!!」
駆け抜ける疾風。地面を蹴る前に、その威力が強すぎて足が『空間』を踏む。
前に進むための力を足に込めると、前に進むと同時に耐えきれなくなった『空間』がひび割れて、大きく損傷した。
それを『世界』が修復しようととんでもない引力を発しながら直していく。その引力に、全ての核兵器が吸い込まれていく。
「DAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」
振り下ろされる大腕。核兵器が埋め込まれ、落ちながら大量の銃弾を放つそれを、瀬太は蹴り上げる。
まるで快斗の『消滅』でも使ったのかと錯覚するほど、あっさりとその大腕は消し飛んだ。
瀬太の蹴りの威力が強すぎて、原型すらとどめられなくなった兵器達は吹き飛び、たった今海に落ちていった。
「終わりだぜ、『戦争』。」
最後の一歩。地面が崩壊する力で駆け出した瀬太が踏みしめた回数は1回のみ。
『ハハハハハハハ!!!!』
狙うは『戦争』の胸。そこから聞こえる気色悪い嗤い声を目指して、瀬太は拳を突き出した。
それを妨害するべく放たれた銃弾も、核兵器も、全部無駄。それがわかっているから、『戦争』は最終兵器を露出させる。
それは、水素爆弾。
今まで放たれていた原爆には比べ物にならないほどの威力の爆発が、瀬太の拳の前で放たれた。
そして、
「ちゃっちいな。」
その爆風も、核も、『戦争』の全力も全て、無に帰した。
突き出された拳によって全てが撃ち抜かれ、『戦争』の体に巨大な風穴が空いた。威力はとどまらず、空を覆っていた雲を吹き飛ばし、今日の天気を晴れに変えた。
戦争は、終結した。
「ふぅ。」
瀬太は自分が開けた穴によって死んだ『戦争』を見上げて、瀬太は満面の笑みを浮かべた。
もう、あの気色悪い嗤い声は聞こえなかった。
「瀬太。」
「ん。快斗、お疲れ様。」
「お前は、疲れてなさそうだな。」
「当然。ただ走って蹴って殴るだけ。疲れることなんてないさ。」
「化け物め。……まぁ、いいか。」
ちょうど日の出の時間だったようで、『戦争』の風穴から陽の光が差し込んだ。汗が滲む快斗と、なんの変化もない瀬太。
珍しく地平線から上がってくる太陽を見れたことに瀬太は喜んだ。
と、快斗のスマホが震えた。
画面を見てみると、魅琴からの着信だった。
「はい。」
「大丈夫?なんか凄い威力の衝撃波が空を飛んで行ったけど……」
「あぁ、問題ない。それは瀬太の放ったものだ。『戦争』も無事討伐完了。任務完了だ。」
「ちなみに何人死んじゃったの?」
「ざっと500人くらいだと思う。辺り一帯の住宅街にまで被害があったからな。」
振り返ると、軍基地の先のボロボロの住宅街が見えた。
死体もいくつか転がっている。軍基地の異変に気がついた住民が外に出た時、流れ弾に当たったのだろう。
まぁ、外に出なくとも、家を破壊するほどの弾丸が降り注いだので、どちらにせよ死んだだろうが。
「そっか。お疲れ様。快斗君達にしては被害が大きいね。」
「今回は少し面倒な刺客がいたからな。まぁそれは日本で報告する。」
「あ、今私は日本に居ないから、武玄さんを探して報告してね。鳴加瀬さんのところにいると思う。」
「分かった。じゃあな。」
「うんっ。ばいばい。」
電話を切り、瀬太に振り返ると、瀬太も会話を何となく聞いていたようで、「帰るか!!」と言ってきた。
「そうだな。」
「じゃあ、また飛行機に乗るか!!」
「翼にな。」
2人の最強は、登ってくる朝日を背景に笑い合い、そして飛んでいく。
世界の危機がまた1つ、根絶やしにされたのだった。
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