第4話 第三次世界大戦
「~~~~~ッ!!」
大きな背中の男達が、2人の少年に酒を渡してくる。
「なんて言ってんの?」
「酒飲めってさ。」
「え、いいの!?」
「いいわけねぇだろお前は。」
酒の入ったジョッキを持って目を輝かせる黒髪黒瞳の少年、神風瀬太はその魅惑の水を飲もうとしたが、割って入った天野快斗に止められてしまった。
「なんで!?俺と快斗は年齢一緒だし……この国は21歳から飲めるんじゃないの!?」
「そういうことじゃなくてだな!!お前が飲んで酔っ払いでもしたら、ここにいる人間全員この世から消え去るって話だ!!」
外見的には、快斗と瀬太は高校生ぐらいの子供だが、実年齢ははるかに、外見から想定できるそれを超えている。普通の人間ではたどり着けない程度には。
「飲めって言ってんなら別に良くない!?」
「ジョークに決まってんだろ。なぁ?サミューラ。」
快斗はとなりの小柄な男に聞いた。
「うん。君達は未成年だろ?だから飲まない方がいい。彼が言っているのは本当にジョークだからね。」
サミューラという、快斗と瀬太と見た目が大差ない少年は笑いながらそう言った。
ここは海外の軍の基地。日々鍛錬を積み、来るべき戦いの日に向けて銃やナイフなど、人を殺すことに特化した動きを学んでいる。
瀬太と快斗がここにいる理由は、仲間からの依頼があったからだ。
遡ること2週間前、
「俺が察知した概念格の出土は、海外の軍基地だ。」
「軍基地……なんとなく、概念格も想像つくね。」
秋葉原の飲食店の中、武玄、瀬太、魅琴、快斗の4人は概念格の処理のための話し合いをしていた。
「概念格を呼び出すなんかがいる……それを炙り出すために、潜入調査をしろってこと?」
「そうだ。」
海外の軍基地ということは、言わずもがな言語は英語だろう。この中で英語をネイティブと渡り合えるほどに流暢に話せるのは快斗と武玄だ。
「だが俺では力不足だ。」
「だから、快斗が行くってこと?」
「まぁ、消去法だな。」
概念格のレベルも、軍基地ということもあって少し警戒した方がいいくらいには高い。普通の人間の武玄には荷が重い。
「諸々、手続きは鳴香瀨に頼んである。」
「面倒だな。あいつは何かと恩を着せる。瀬太、俺の代わりにあいつの相手になってやってくれないか。」
「いいよ。でもその代わり、俺も行かせてよ。相手強いんだろ?最近はみんな弱くてうずうずしてるんだ。」
「お前がうずうずするってことは平和ってことなんだがな。」
ともかく、世界を揺るがす危機である概念格の処分の方向性は、たった20分の会議で決まったのだ。
そして、現在に至る。
「俺はともかく、瀬太にしてみたら、お前がいてくれてよかったよサミューラ。日本語を話せる奴がいるなんてな。」
「ハハ。自慢なんだ。評価してくれる人が現れるなんて嬉しいね。」
少し訛りがあるものの、サミューラの日本語は日本人と大差ない。気軽に話せる仲間ができて良かった。
「~~~~ッ!!」
「ねぇ快斗。あのおっさんなんて言ってる?」
「ひ弱なガキは便器で寝てろってよ。」
「んだとォ!!」
新人歓迎会。快斗と瀬太の所属を祝って開いてくれた宴会なのだが、瀬太はずっと煽られっぱなしだった。反応が面白いらしい。
瀬太が激昂する度に、男達は笑っている。
すると、他の男達より一回り大きなマッチョの男が、テーブルに肘をつき、手を差し出した。
「~~~!!」
「なんて?」
「腕相撲で勝負だってよ。」
「~~~!!」
「今のは?」
「お前みたいなもやしにはスプーンだって持てねぇだろ、だとよ。」
「んだとォ!!」
ずっと同じ反応ばっかりの瀬太。英語が分からない彼はいちいち快斗を経由して悪口を理解する。
差し出された手の前に肘をつき、手を組む。
瀬太はイライラしたまま相手の顔を見る。ニヤついている。誰が見てもわかる。舐めていた。
「殺すぞ!!」
「手加減しろよー。」
快斗が瀬太にそう促す。サミューラは快斗も瀬太を煽っているのかと勘違いした。
男達はニヤニヤ笑っている。どうみたって腕の太さが違うのだ。木の枝と鉄骨くらい耐久度が違うように見える。
二人の間に別の男が立ち、腕を振り上げた。
開戦の合図だ。
それが放たれて、男は動こうとはしなかった。瀬太が力を込めたって、動かない自信があったから。
でも、実際は違った。
「ふん!!」
「ちょ、馬鹿!!」
瀬太が動き終わるのと、快斗が叫んだのは同時だった。
瀬太の相手をしている男は何が起こったのか分からなかった。自分は動いた感覚は無いのに、瀬太の手が下がりきっていたからだ。
が、視線を落とした気が付いた。周りの男達も、声を失っていた。
男の腕は、肘から先があらぬ方向に無理矢理ねじ曲げられ、骨がひしゃげて外れていた。
簡単に言うと、肘から先が、『腕』ではなく、『腕の形をした肉』になっていた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~
「困るんだ。そういうことをされてしまっては。」
「すまない。」
「ソーリー……」
今、快斗と瀬太がいるのは、軍基地の指導権を持つ指揮官のいる官長室だ。
2人が誤っているのは他でもない。昨夜の『腕飛び事件』についてだ。
右腕を失った男は病院に搬送され、腕からの大量失血により死にかけたが、なんとか一命を取り留め、今は寝ているのだそうだ。
彼は期待の星だったらしく、損失はかなり大きい。なので今こうやって怒られているわけだ。
「君らの上の人からは、面倒事は起こさせないと言っていたんだがね?」
「申し訳ない。これに関しては謝罪しきれない問題だ。」
「ったく……上からの指示で入れたが、これ以上損失を生むならば、君らは即刻解雇だ。次は無いからな。」
「あぁ、慈悲深い判断に感謝する。」
「はーい。」
釘を刺すように言ってくる指揮官に、快斗は丁寧に謝罪して、瀬太は適当に行って部屋を出ていった。
快斗もその後を追って部屋を出ようとしたが、指揮官が「いいか……」と切り出した。
「日本のような小国など、本気で攻めれば一瞬で破壊できるのだぞ。君、いや、貴様の後ろ盾は思っているよりも薄く脆いということを、忘れるな。」
「……もし、あんたらがうちの国を攻めてくるんなら……」
快斗は振り返って指揮官を見た。今度は謝罪の念はなく、あるのは純粋な憐憫だった。
「それ以上の力で、あんたらの存在は音もなく消えるってことを、覚えておくといい。」
「ッ………!?」
快斗はそう言い残し、部屋を出ていった。
最後の言葉には、少しだけ殺意が紛れていた。その小さな殺意は、戦闘慣れしたベテランを芯から震え上がらせるほど、強く鋭いものだった。
命を、握られている。
指揮官はあの瞬間、そう感じた。
~~~~~~~~~~~~~~~~~
星が綺麗に輝く晴天の夜。
快斗と瀬太は消灯時間となり、静まり返った寮の中で、小声で話していた。
「快斗、感じるか?」
「あぁ、準備は出来てる。」
「どこにどんなやつが出るかな。」
「出たとて、お前には勝てない。」
「快斗にだって勝てないさ。」
2人は2段ベッドの上と下で会話していた。もちろん瀬太が上、快斗が下だ。
「2人とも、なんの話しをしているの?」
同室のサミューラが話しかけてくる。
「なんでもないさ。ちょっとした世間話だ。」
「そそ。気にしないで寝てくれ。」
快斗と瀬太の2人のその言葉を最後に、この部屋も静かになった。
~~~~~~~~~~~~~~~~
少しづつ朝が近づいてきた夜3時。
軍基地内に、凄まじいほどの警報音が鳴り響いた。
「瀬太!!瀬太!!起きて!!」
「うわォ!?」
サミューラにベッドから引きずり下ろされ、瀬太は驚いて目を覚ました。
「警報だ!!何かが起こったみたい!!」
「んー?何かって、何さ。」
「分からない。こんなのは初めてだ!!とにかく、避難しよう。快斗はもう行ったみたいだ!!」
「えーマジ?」
振り返って見てみると、下のベッドに快斗の姿はなかった。
「んじゃあ行くかぁ……」
「僕はみんなを起こしてくる。君は出口に向かってくれ!!」
そう言い残してサミューラは部屋を飛び出して行った。
警報音はうるさく鳴り響いている。そんな中、瀬太は思いっきり伸びをして、思いっきり欠伸をしたあと、ドアではなく窓から外へ出た。
壁を踏み、摩擦力で駆け上り、軍基地内でいちばん高い司令塔の上に登る。
「おう、起きたか。」
「うい~~。」
そこには刀を腰にさげた快斗が待っていた。
「出た?」
「あぁ、指揮官が殺られたみたいだぞ。」
「たった一人死んでこの警報?誤報もいいところだぜぇ……」
「お前が起きたくないだけだろ?それに、今から本体が現れる。」
瀬太は目を擦り、もう一度欠伸をしたあと、拳と拳をぶつけ合わせて笑う。
寝間着を脱ぎ捨てる。下には既に、いつもの黒ジャージを来ていた。
「よし!!どっからでも来い!!」
周りを見渡す。警報で皆が慌てて出口に向かっている。軍人でも逃げる時は逃げるらしい。
と、逃げていく人々を見ていたその時、地響きが起こった。
それは基地内の人々をさらに混乱させ、焦燥感を生む。
「どこから来るかな?」
「分からない。東西南北。もしくは地面の下。あるいは……」
言い切る前にそれは来た。
快斗と瀬太はその場から即座に離脱。立っていた司令塔が、銃の塊に押しつぶされた。
「上だ!!」
基地内の上に、ゲートのような円が出現。大量の銃や戦車が落ちてきた。
誰も使っていないの銃が乱射され、戦車が砲弾を容赦なく放ち、ヘリコプターは捨て身のように基地に突っ込む。
破壊して破壊して、生まれるのは一部の富と大部分の痛みのみ。そんな厄災が、言葉の通り降ってきた。
「概念角の正体は……」
「『戦争』か!!」
第三次世界大戦。その前哨戦が、開幕した。
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