第2話 実はここまでがプロローグ
バリバリと世界が割れる。炎は熱くなく、2人はそのまま歩き続けた。
そして、炎も消え、学校の景色も消え、彼らは満点の星空が見える外へ出た。
否、それは地面もない、空気もない、上下左右すらない、宇宙のど真ん中だ。
「ふはー!!あっぶねぇよ快斗!!ホントに俺のこと忘れたのかと思ったぜ!!」
「はぁ……確かに危なかったな。」
空気のない空間に音が響く。その声を発しているのは、上下黒いジャージを来た少年、神風瀬太だ。
「ほれこれ!!大事な刀!!」
「おう。サンキューな。」
紫色の鞘に収まった刀を差し出す瀬太。快斗はそれを腰のベルトに差し込んだ。
「学校の風景めっちゃ懐かったな~。よく俺、実験器具ぶっ壊してたよな。」
「それで何故か、同じ班の俺が怒られるんだよな。管理不足だとか何とか……」
遥か昔の記憶だが、鮮明に覚えている。2人は学校なんてもう何年も行っていないというのに、行った気になるほどに思い出を語る。
と、楽しんでいる2人の後ろから、不協和音が響いた。
「おぉぉおぉぉまえらぁあ!!」
「あ、あれじゃんね?概念格。」
「あぁ、そうみたいだな。」
2人が振り返ったほうには、不気味な生物が存在していた。それは、巨大な脳みそがむき出しの人型の何か、否、『概念格』だった。
脳みそはひとつではなく、空洞の体のどこにでも詰まっていて、なんなら体からはみ出して木の枝のように広がっている。
それは、快斗にありもしない記憶を見せ、瀬太の存在を快斗の中から消そうとした敵。
「概念格、『記憶』。」
「お、お、俺の記憶ゥゥうう、私達の思い出ェェエエ……!!!!」
「随分と不安定だな。めっちゃ苦しそう。」
呻き嗚咽する『記憶』を見て瀬太が呑気に言う。脳みそが凄まじい速度で増えており、サイズも増してきている。
「あいつは『記憶』だからな。広がりつつある『この世』の全部の記憶をぶち込まれてんるんだ。」
「うへー。快斗が13人居てようやく出来る記憶処理を一人でやってんのか。」
「13人でも、怪しいけどな。」
過去の話はさておいて、その『記憶』を放置するのは良くない。このまま広がっていくと、『この世』の人間達の記憶が混濁、増加、果ては消滅してしまう。
「人類にとって悪。」
「ならば処すのみ!!」
快斗は刀を抜き、瀬太は拳を握る。
紫の刀身を持つ刀は光のない宇宙で淡い炎のゆらめきを放つ。『記憶』は増える脳を自ら引っ掴んで、
「お前らぁぁあ!!あんたらぁぁああ!!私の僕の俺の某の小生の吾輩のあっしのぉぉおおおお!!!!脳に脳に脳に脳に脳に脳に脳に脳に脳に脳に脳に脳に脳に脳に脳に脳に脳に脳に脳に脳に脳に脳に脳に脳に脳に脳に脳に脳に脳に脳に脳に脳に脳に脳にぃぃいいい!!なりなさい!!なれ!!死ね!!」
「断る。」
「やなこった!!」
脳みその間から腕や目玉が浮きでてきて、様々な色のエネルギー弾を放つ。
快斗はその光線を切り刻み、瀬太は空間を蹴飛ばして移動しながら躱し続ける。
「逃げるな!!」
「おっと。」
なんにも無いところから、巨大な手が出現した。瀬太を丸々握り潰そうと迫る手の握力は、惑星もペシャンコにできるほどの力。
「かっる。」
それを、軽々瀬太は押し返し、逆に握り潰してやった。
「潰れろ!!」
脳からはみ出た目玉が光る。すると巨大なゲートが出現し、その中からいくつかの星が放たれた。
地球よりも大きな数々の惑星。光よりも速く放たれたその星は、瀬太に様々な方向から迫り、今まさに衝突するという時、
「こんなもの、斬ってしまえばどうということは無い。」
千を超え億を超え、いや、この桁から始めては届かないほどの数の斬撃が、コンマ1秒もしない時間内に放たれた。
星は文字通り塵と化し、その大量のゴミを手で払い、それを成した快斗はさらにため息をつく。
「死ねって死んでよ死んでくれよ!!」
「俺ら殺すよりも、お前が死ぬほうがコスパいいって!!」
瀬太が空間を強く蹴り飛ばして接近する。光なんて余裕で超えた速さに、『記憶』は対応できない。
そして瀬太は、拳に力を入れて、脳みそをぶん殴った。
半数の脳みそが弾け飛んだ。
「うんぎゃぁぁあああああ!?!?!?」
『記憶』はあまりの衝撃と痛みに叫び散らかす。
「おら、もう半分もお留守だぞ。」
快斗が静かに刀を振り抜いた。明らかに振るった回数よりも何倍も多い斬撃が、残りの脳を切り刻む。
原子レベルにまで。
「はぁ!?はぁあ!?強すぎ強いよ強いって無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理無理ィ!!」
「そりゃそうだ。」
「おう!!なんたって俺ら、」
瀬太がニヤリと笑い、快斗は刀をさやに収めてため息をついた。
「「最強なんだぜ。」」
「んごっ」
瀬太の無慈悲なかかと落としが直撃する。『記憶』はもちろんのこと、耐えきれなくなった空間が割れた。
露出した空間の裂け目は、『この世』の引力により修復され、その凄まじいエネルギーによって、有り得ないほどの重力が生まれる。ブラックホールなんて、比にならないほどの。
「馬鹿、やりすぎだ。」
快斗がその裂け目の周りに半透明のバリアを形成する。中では裂け目が修復され、『記憶』の残骸はその中に吸い込まれていった。
「お前は手加減を覚えろ。」
「ごめんごめん。もうちょっと強いかと思って、力込めちゃった。」
「生まれたての概念格が、お前にかなうわけないってのに。」
「まぁでも、記憶には引き込まれたじゃん?」
瀬太が首を傾げて笑いかける。快斗はため息を吐くが、その顔は笑っていた。薄く、微笑んでいた。
「そうだな。手加減は無用、だったか。」
「だろ?よしっ!!じゃあ地球に戻るか!!」
「あぁ、そうだな。」
2人は宇宙を、この『世界』を。『この世』を。
全ての世界を歩き故郷へ向かう。
この『ストーリー』は、全てを制覇した、最強の子供達。その、少し面白かった思い出の、ほんの一部。
BFB ~概念狩りの子供達~
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます