BFB ~概念狩りの子供達~

快魅琥珀

第1話 作られた記憶の中

「おはよう。」


気がついたら、そこは学校だった。いや、登校したのは覚えていた。どうやら来てすぐに寝てしまったようだ。


誰かが言った声に目を覚まして、それが授業の開始直前であることに気づく。


「はぁ……」


退屈な時間が始まる。ため息をつくこの少年の名前は天野快斗だ。


快斗は教科書を取りに駆け足でロッカーへと向かう。


「急げよ。」


教科担任が快斗の背中に向かってそう言った。


「はい。」


適当に返事をして、彼は教室の外のロッカーに来て、中から英語をとった。


「戻ろ。」


そう思って振り返ると、そこに不自然なものを見た。


教室の入口近くに、黒いモヤがかかった人影がある。


バグのようにゆらゆらと揺れて、今まさに消えてしまいそうな人影は、快斗が近づくと手を伸ばしてきた。


気持ち悪かったので無視した。それは快斗にしか見えていないようだった。


「じゃあ、始めるぞー。」


授業が開始する。快斗の視界の端にはずっと、その黒い人影が纏わりついていた。


それからずっと、それは快斗に着いてくる。


「快斗くん。これはい。」


2限目、理科の実験中、班の女子が渡してきたガラス棒。それを受け取ろうと快斗が手を伸ばすより先に、黒い人影が女子の手を叩いた。


「きゃっ!?」


見えてはいないが触れはするようで、突然の衝撃に驚いてガラス棒が地面に落ちた。


「なんだよ……お前……」


快斗は人影を睨みつけた。


3限目、国語の音読の順が回ってき始めた時、快斗の1つ前の番の人が、やけに教科書を落としていた。


なにしてると思って見てみると、人影が、その人が教科書を拾い上げた瞬間に叩き落としていた。


4限目、数学の先生を足かけて、何度も何度も転ばせたり、チョークを割らせたりして妨害していた。


そして昼休み。4限目の終わりとともに、人影はいなくなっていた。


あれはなんなのかと考えながら、持ってきていた弁当箱を広げようとしたその時、耳をつんざく鈴のような音が鳴り響いた。


それは火災報知器の音だった。


「逃げるぞ逃げるぞ!!」


皆が逃げていく。どこが火事かも知らずに。


快斗もそれについて行くと、なんと出口が燃えていた。何人かの焼死体があり、何があったのかと周りを見回した。


「きゃぁあああ!!」


悲鳴が聞こえた。振り返ってみると、燃えた壁が倒れてきていた。


「快斗君!!早くこっちへ!!」

「快斗!!早く来い!!」


快斗の『友達』が呼んでくる。まだ火の手がかかってない場所から何人も手を差し出してくる。


快斗はそっち向かおうとして、盛大に転んでしまった。足が動かなかった。


振り返ると、炎の中から、黒い人影が手を伸ばし、快斗の足を掴んでいた。


「なんだよ、お前……」


人影を睨みつけた。顔面も蹴ろうとした。しかし人影は掴む力を強め、火の中に引きずり込もうとしてくる。


「何してんだ快斗!!」

「こっちに来て!!危ないよ!!」


『友達』が呼んでる。


「行かねぇと。『友達』の所に……」


その時、頭が殴られたかのような衝撃を味わった。


「とも、だち……?」


思い出しそうだ。何かを。


『バーカ。お前には友達なんていねぇだろって。』

「………。」


声が聞こえた。それは後ろの奴らではなく、目の前の人影のものだ。


記憶にひっかかるその声は、大好きな声だ。昔からよく聞いていた、愛おしい声。


「………あぁ、そうだったな。」


燃え盛る炎が爆発的に広がって快斗を飲み込んでいく。


後ろの『友達てき』は皆で快斗を連れ戻そうとしてくる。


そして、快斗は迷わず目の前の人影、否、『親友』と一緒に火の中に飛び込んでいく。火に焼かれて、人影の黒いモヤが消えていき、その顔が顕になった。


満面の笑みだった。


「よっしゃあ!!やっと目ぇ覚めたな!!」

「ふ……おう。」


2人の『親友』は目覚める。


作られた記憶の中から。

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