第 一 回 ②
草原乱れてジョルチ
族長
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時は過ぎ、季節は
テクズスとはフウの
その誓いは、
さて、ムウチはゲルの外に出てみた。風もなく、空にはひっそりと月が浮かんでいる。その優しい光が風景を青く照らしている。
「なぜだか今夜は悪い予感がしていたのだけれどきっと気のせいだわ。こんな静かな夜に何もあるわけがない」
戻ろうとしたところ、突然遠くに馬蹄の音を聞いた。はっとして彼方を窺えば、一騎息せき切って駆けてくるものがある。何ごとかと身構えていると、それはフウの従弟ツウティであった。彼はフウに従ってテクズスの婚礼に行っていたはずである。
「どうしたの、お前は
そう聞いた顔が心なしか青ざめていたのは、何も月の光のせいだけではなかっただろう。ツウティは下馬するや、ムウチの前に平伏した。肩が大きく揺れている。
「どうしたというの」
しかしツウティは息が切れて即答すべくもない。とりあえずこれを助け起こしてゲルに入る。落ち着くのを待って事の次第を尋ねると、唇をぶるぶると震わせ、目には涙を浮かべつつ、絞り出すように言うには、
「……う、裏切られました!
ついにその目から大粒の涙が溢れる。ムウチはそれを聞くや、あっと声を挙げて気を失ってしまった。ツウティはあわてて人を呼び、これを介抱した。
また、フドウ氏の
「何と卑劣な!
おおいに怒ったが、ハクヒが制して言うには、
「お待ちください、叔父上。
老将の
「何と恥知らずな! それでもフドウの民か!」
オラジュイは今にも卒倒せんばかり。ハクヒは両手を広げて告げた。
「聞いたであろう。我が
これを聞いて心中穏やかなるものはなかったが、ともかく旅装を整えるため各々ゲルへと帰っていった。ハクヒとツウティは
「大兄、早くも逃げたものがおりました。今後も用心せねば、逃げ出すものがあとを絶たないでしょう」
ハクヒは眉間に深い皺を寄せて、
「お前の言うとおりだ。しからばツウティ、ここはよいからみなの準備を督促して回れ。逃げ去るものあらば追いかけて、事の次第によっては
「
ツウティが剣を引っ
「ご夫人、しっかりしてください。まもなく移動しますぞ」
肩を揺すって声をかけたが答えるでもない。
「しかたあるまい、あまりに突然のことであったからな。夫人は大切な身体。そっとしておくがよかろう」
オラジュイが言うので、ともにそこを辞してあとを従者に任せ、自身も準備を整えるべく己のゲルへと向かった。
半刻もせぬうちに移動の準備は整った。その間に逃亡を企てて斬られたものは十数人にも及んだが、いちいち
「ひとまず西へと向かう! メンドゥ河を目指すのだ!」
フドウの一群は数多の家畜を追い立てつつ、一斉に移動を開始した。ムウチを車に乗せて先頭に立て、ハクヒ自らがこれを護る。最後尾にはツウティを配して引き続き逃亡に備えさせ、オラジュイは壮丁を率いて家畜を守る格好とした。
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