第二話 小さな花を見つけた日

私が一体何をしたというのだ?


王宮の廊下で、ばったり、レジーナ将軍に行き遭った。

礼をしたら、ものすごい勢いで睨まれて、

廊下のど真ん中で、言葉も交わさずに睨み合ったまま、今に至る。


将軍の部下達は、なぜか、私を見るなり慌てだし、どこかへ消えてしまった。

だいたい、上官の様子がおかしいというのに、さっさと逃げ出すなど。

あのボサボサ頭の集団は、軍人としての自覚があるのか!


「レジーナ! いい加減に、今日こそはっきりさせよう。

私に対して、何をそんなに怒っているんだ!」

思わず、言葉がきつくなりそうなところを、辛うじて抑える。

「ヴィンセント隊長……」

私の配下の騎士が、背後から恐る恐る声をかけてくる。 私は、後ろを振り返りもせずに、片手をあげて彼の言葉を制した。


だが、やはり、返事は返ってこない。

彼女の紅色の髪が、彼女の怒りを表しているようにも見え、

強い光をもつ水色の瞳は、まっすぐに私を睨みつけたままだ。


私が、何か、お前の機嫌を損ねるような事をしたのか?

全く心当たりがないんだが。


王宮で会うたびに、このような事の繰り返しだ。

先日は、王への謁見に訪れた彼女を、王へ取り継ごうとしただけで、ものすごい勢いで睨まれた。

それも、一瞬なんて生やさしいものではない。

王の部屋の扉が開くまでの間、延々と睨まれ続けた。


私はラクロス王国、近衛騎士隊の隊長だ。

相手が将軍とは言え、見下されるような立場ではないはずだ。

近衛騎士隊は、武術、知能、家柄、更には容姿まで精査され、初めて入隊を許される。 私も、この若さで隊長に任じられているのだ、それなりの自負はある。

伯爵家の次男で、家柄も問題ない。

母ゆずりの、金髪碧眼のこの容姿については……まあ、そう悪くはないのだろう。

この見た目のおかげで騎士隊に入れたのだろうと、影口を叩かれるほどだからな。


だが私は、所詮、近衛騎士にすぎない。

お前のように、数千数万の敵を相手に、華々しい戦果を上げることはない。

戦場でのお前のように、純粋に実力で、出世を遂げる機会も与えられない。

日頃から鍛えている剣も、弓も、王宮で使うことはない。


だと言うのに、なぜそれほどに、私が腹立たしいのか!


「レジーナ将軍!」


レジーナの部下達が、ようやく戻ってきたようだ。

血相を変えた様子で駆けてくるのは、ああ、クライドだな。

副官のくせに、髪も髭も伸び放題で、相変わらずむさ苦しい奴だ。

おまけに、親父殿まで連れてきたのか。


彼らの後に続いて姿を見せたのは、ガスト大将軍親父殿

その昔、戦場では、敵味方を問わず恐れられた大将軍だ。

前線を退いた今でも、王の戦略参謀として、その能力を遺憾なく発揮している。

すでに、私の父親とも呼べる年齢のはずだが、一向に衰えは見られず、

鍛えられた身体から放たれる威圧感は、もう半端ない。


「レジーナ! お前、またヴィンセントの前で、固まってるのか!」


親父殿は大声で笑いながら、固まっているレジーナの背後に立った。

そして、大きな両手でレジーナの肩をがしっと掴んで、その身体を持ち上げるなり、そのまま思い切り背後へと放り投げた。

それを後ろで待ち構えていたクライド副官が、すかさず受け止め、あっという間にその場からレジーナを連れ去った。


人間の身体を、物のように放り投げるとは……さすが、親父殿?


「はは! ヴィンセント、まあ許してやってくれ。

そもそも、お前が、美男子イケメンなのがいけない!」


何事もなかったかのように、楽しそうに笑ってますが、

私には、何を仰っているのか、さっぱりわかりません……親父殿。


「お前を探していたら、レジーナがまた面倒なことになってると、騒いでいたんでな」

「私を探していたのですか?」

「ああ、警備のことで、少し話がしたいんだが、今から時間はあるか?」

「ええ、大丈夫ですよ。訓練が終わって休憩に入ろうとしたところで、レジーナに捕まっていただけですから」

親父殿は、また豪快に笑った。

「お前やレジーナが、一緒に訓練していた頃が、ついこの間の事のようだな」

「そんな、昔のこと…… 」


まだ若かった頃、私は親父殿に憧れて、軍に入った。

真っ先に志願したのは、もちろん大将軍親父殿直轄の部隊だ。

周囲からは、貴族の身で、何故そんな危険な真似をするのかと、散々反対されたが、私に迷いはなかった。

ただ、親父殿のように、強くなりたかった。

前線で活躍し、大好きなこの国を、自分の手で守りたかっただけ。


入隊を果たし、年の近い少年達と訓練に明け暮れた日々は、希望に満ちていて、

初めて戦に出た時も、仲間と共に戦えることが誇らしかった。

そしていつしか、親父殿のような将軍になりたいと、夢を持つようになった。


「ちょっと、この壁を見てみろ」

私が、親父殿に連れて来られたのは、王城内で王族の住まう一画だった。

確か、この辺りからは、王女殿下の宮殿が近いはずだ。

「これは、また凄いことになってますね」

目の前に広がる壁は一面に蔦が生い茂り、随分と見苦しいことになっていた。

「ここを見てみろ」

親父殿に促され、目を凝らして、はっとした。

鬱蒼と生い茂る蔦の所々が、不自然に乱れているのだ。

人の足跡にしては、少し小さい。動物が、絡み合った蔦を足がかりに、壁を登り降りしたのだろうか。

「確かに。動物が這い登れるのであれば、いずれ、この壁を越えようとする不審者が、現れるかもしれませんね」

「だろう? こういうものは、早いうちに片付けておくに方がいいと思ってな。で、お前はこういうの得意だったろう?」

親父殿がニヤッとする。

どうやら、親父殿は、今でも、私のつまらない能力のことを覚えていたようだ。


この国では、貴族の血を引くもののみが、魔力を持って生まれてくる。

家の血筋によって、使える魔力の量や種類は様々だ。

私の力は……


壁に向かって、両手を差し出し、指先に力を込める。

身内に、蔦の生命力が伝わって来て、心地よさを感じる。

熱を帯びた指先を、音楽を奏でるように動かしてゆけば、無秩序に這っていた蔦が、そろり、と動き始めた。

私は、目を閉じて、美しく整えられた蔦の風景をイメージする。

伸びすぎた箇所は刈り込み、もつれている箇所は、間に隙間を作る。

枯れた葉や茎が地面へ落ちてゆき、若葉は陽を求めて立ち上がる。

程なくして、辺り一面は、すっきりと美しい風景へと様変わりした。


「おお、相変わらず見事だな」

「まあ、これで動物はともかく、人間の体重を支えることはできなくなったでしょう。こんな力でも、役に立ててよかったです」


そう、私の魔力は、植物を操る力。

成長を速めることも、花を咲かすことも、植物ならなんでも自由に操れる。

私は、この魔力が嫌いではない。

魔力を放出している間、植物のエネルギーを感じる瞬間は素晴らしい。

だが、欲を言えば、このような女々しい力ではなく、もっと騎士らしく、戦いの役に立つ魔力が欲しかった。


私が、騎士ではなく軍人を目指したのは、この魔力のこともあったからだ。

軍隊では、魔力の有無など問題にならない。なぜなら、兵のほとんどが平民出身で、魔力を持たないのだから。

軍隊では、強くあれば、その力故に認められる。

だから、私は、常に全力を尽くした。

強さが全てだと。

そして、遂に、最年少で小隊長に選ばれたのだ。


だが、その喜びも長くは続かなかった。

私は上からの命令で、近衛隊へと移動になった。


伯爵家の息男が、たかが軍隊の一兵卒というのは外聞が悪い、そう言っていた父が、私を近衛騎士に推薦していたのは、知っていた。

だが、決定打となったのは、王女殿下からの指名だったと、後になってから聞かされた。 伯爵家の次男として出席した場で、殿下が私を見初めたのだ、という話だった。


見初めたと言っても、当時まだ十才にも満たない王女殿下にとって、私は、ただ少しばかり見た目の良い青年の一人に過ぎなかっただろう。

美しい花や宝石を、その身に纏うのと同じように、ご自分を護衛する騎士にも、美しいものが欲しかった、ただそれだけのことだ。

そんな理由で、私の夢は途絶えたのだ。


久しぶりに魔力を使ったせいか、苦い記憶を思い出し、気が沈んでしまった。

顔には出さなかったつもりだが、親父殿は気づいているのだろう。

でも、親父殿は、何も言わない。

ただ、節くれだった大きな掌で、無造作に私の髪を掻き乱しただけだ。

昔よく、そうしてくれたように。


その後、私はすぐに騎士隊に戻り、王城の警備を強化するよう、指示を出した。 私自身も、警備報告を読み直してみたが、今のところ、不審者が侵入したという報告は上がっていない。

ただ、少し気になるのは、ここ最近で、獣の姿を見たり、唸り声を聞いたという報告が、 数件遭ったことだ。だが、今のところ誰も、その獣らしき物の姿を、はっきり見た者はいないらしい。


気になったことは、まず自分自身の目で確かめてみる。それが私の信条だ。

だから、今夜は私自身も王城の巡回に加わることにした。

宵闇が広がる時刻になると、私は軽く武装し、部下達と合流するため、王族の宮殿へと足を向けた。


今夜は、月が厚い雲に覆われているせいか、見慣れているはずの王城の道も薄暗い。 少し風が出てきたか、道の両側に繁る木々が揺れ、葉音を立て出す。

ふと、風に乗って、微かな唸り声が聞こえたような気がした。

何やら、嫌な予感がして、歩みを速める。


暗闇の中、突然、人の叫び声が響き、獣の咆哮が重なった。

私は声のする方へと走り出し、目の前の茂みを飛び越える。

そこで私が目にしたのは、巨大な獣の姿。


っ! なんだ、あれは……狼⁉︎


王城内にいるはずもない、狼のような大型獣の姿。

全身がどす黒く、動くたびに揺れる尾の先が二股に割れている。


魔獣か!


血に塗れたその姿は禍々しく、裂けた口から鋭い牙をのぞかせ、人を襲っている。だが、魔獣を相手にしている者は、怯むことなく、剣を持って応戦しているようだ。

その者が、鋭い剣先で魔獣の体躯を貫き、勢いよくその剣を引き抜いた。

魔獣の体躯から赤黒い血が噴き出す。

血だらけの剣を手にして、魔獣を見下ろしているのは……


レジーナ!


その時、すぐ横から別の獣が現れ、牙を剥き出しながら飛び掛かってきた。

その濁った目の玉が、私の顔のすぐ近くまで迫ってきたところで、その腹を思い切り膝で蹴り上げる。

体躯のバランスを失った獣の牙が、兜にぶつかって鈍い音を立てた。

すかさず、獣の顔面に拳を喰らわせ、地面に叩きつけ、そのまま力任せに剣で串刺しにする。

すぐさま顔を上げれば、まだ別の獣が唸り声を上げながら、近づいて来る。

その上、背後からもまた新たな獣が飛び出してきた。


いったい、どこから湧いて出てくるんだ!

いくら獣相手といっても、次から次へと湧いて出て来られては、体力的にまずい。そう、焦りを感じ始めた、その時、


「何事だ!」


甲高い声がして、宮殿から走り出てくる騎士達の姿が見えた。

状況を察したのか、数人が剣を抜いて、こちらへ駆けてくる。

あれは、王女殿下の宮殿を警護している女性騎士達だ。

先頭を走っている、金色の短髪は……ゾラか。


「おらあ、喰らえ‼︎」


ゾラは、女性らしかぬ雄叫びをあげながら、高く飛び上がった。

地面へ落ちてゆく勢いを利用して、まず一匹目を串刺しにする。

すかさず走り出して、再び飛び上がると、飛びかかってきた獣へ、水平に剣を滑らした。

二匹目は、空中で一直線に切り裂かれ、飛び散った。

その勢いのまま、今度は、レジーナへと牙を剥いている獣に背後から飛びかかり、一気に剣を切り下げた。

三匹目も、盛大に血飛沫をあげて真っ二つになった。


残りの魔獣を片付け、ようやく落ち着きを取りもどした頃、厚い雲が薄れてきた。

月明かりが辺り一面を照らし始めると、誰も彼もが、魔獣の赤黒い血に塗れ、まるで幽鬼の群れのようだ。


「大丈夫ですか……てっ、隊長……⁉︎」


私を見るなり、ゾラは身を縮めた。

彼女は、王女殿下付きの女性近衛騎士。

近衛隊では五本の指に入るほど、その戦闘能力は高く、剣を持てば人が変わったかのように、その狂犬ぶりを発揮する。

だが、実際の彼女は、ひどく人見知りで、普段はおどおどしてばかりだ。

隊長の私を相手にしても、ろくに会話が成立した試しがない。

はっきり言うと、剣を離せば、ただの役立たずだ。

だが、心根は真っ直ぐだし、騎士としては得難い戦力なので、長い目で成長を見守ることにしている。

いや、成長してくれることを心から願っている。


しどろもどろのゾラに代わり、別の騎士からの報告を受ける、

「王女殿下の宮殿の庭に、突然黒い影が次々と現れ、壁を飛び越えて行ったんです。 慌てて、影を追って外へ出てみれば、隊長達がこの獣に襲われていたところでした」

「内側から、壁を越えて外に出たと言うのか?」

あの蔦に残っていた足跡は、壁を登って侵入した跡ではなかったのか。

では、あの魔獣はどこから来たのだ?


「うへっ、臭い」

突然、傍から気の抜けたような、情けない声がした。

顔を向ければ、レジーナが袖についた魔獣の血の匂いを嗅ぎながら、顔を思い切り顰めていた。

「まいったよ、ほんと……あっ!」

レジーナは私を見るなり、血相を変えて駆け寄って来て、

「血が出てる!」と叫ぶなり、私の腕に噛みついた。


え?


一瞬、頭の中が真っ白になった。


ちくっとした痛みを感じて自分の腕を見下ろせば、レジーナが私の腕にしがみつき、何度も傷口に口をつけては、血を地面に吐き出していた。

私の傷口から、毒を吸い出しているのだと気づいて、慌てた。

「おい! 傷口から、毒を吸うかもしれないだろ!」

思わず、声がきつくなる。

「口も濯いだし、私は慣れてるから、多少の毒くくらいは大丈夫」

袖口で口を拭いながら、レジーナは笑った。


その無邪気な笑顔は、昔と少しも変わらない。


軍にいた頃は、レジーナとよく剣の稽古をした。

負けず嫌いで、私に打ち負かされるたびに、悔しそうに涙目になって。

涙に潤んだ瞳に、少し見惚れてしまったこともあったな。

ヴィンセントと、私の名を呼ぶ、その明るさが眩しかった。


レジーナは、止血処理を続けながら、礼を言ってきた。

「貴方やゾラが駆けつけてくれなかったら、流石に私も危なかったよ」

「いや、それは謙遜だろう……十分強かったぞ」

「はは! 貴方こそ。さすがは、ヴィンセント麾下の騎士だな。貴方達は強い上に、剣捌きが美しい。鬼のヴィンセント隊長に扱かれてるからかな」


なんだろう、この違和感は……

え…… レジーナが私に話しかけている⁉︎


王宮で会えば、無言で睨みつけてくるばかりなのに、なぜ、今は平気なのだ?

訳がわからないまま、思考を巡らせてみる。

今夜はたまたま兜を着けていて、顔の半分が隠れているし、全身は魔獣の返り血で血まみれだ。

だからって、私だとわからないのか⁉︎

私以外の騎士とは、普通に話せるのか?


もやっとする。


「将軍は、ヴィンセント隊長を嫌っているのでは?」

「ええっ! そんなわけないじゃない!」


ん? そうなのか?


「将軍は隊長を見れば、ものすごく腹を立てて睨みつけるって」

「はあっ? 睨みつけるって、そんな風に見えるのか?じゃあ、ヴィンセントには、 随分と不快な思いをさせているんだろうな」

レジーナは、ため息をつくと、ぽつりぽつりと話し出した。

「ヴィンセントは、私が軍に入隊した頃、よく面倒を見てもらった先輩なんだ。 よく、剣の稽古相手にもなってもらった。ものすごく厳しい先輩で、めちゃくちゃ扱かれたよ。

でも、自分にはもっと厳しい人で。人が見ていないところで、人一倍努力をするのに、人前ではなんでもない振りをして、格好つけて……ふふ、あれ、きっとバレてないと思ってるよ」


なんだ、これは?

レジーナが、私のことをものすごく語っている⁉︎


「きっと、今でもそうなんじゃないかな。独りで肩肘張ってがんばってるんだろうって、 そう声をかけたいんだけど、顔を見ると、だめなんだよね」

「何故です? 隊長の前だと緊張するとか?」

「緊張というか、ヴィンセントの顔を見ると、随分前に亡くなった大切な人の顔が 重なってしまって……少し、雰囲気が似てるからかな」


あっ。


私が近衛に移動して間もなく、昔の上官が戦死したと、人伝に聞かされた。

その上官の横で、幸せそうに笑っていた、花嫁姿のレジーナを思い出す。


彼が亡くなった後、彼女がどうなったのか、私は知らない。

私が、この安全な王宮で、安穏と過ごしていた間、

お前は、血反吐を吐きながら、戦場を這いずり回っていたんだな。


「いろいろ話したいこともあるのに、顔を見ると胸がいっぱいになって、結局何も言えないんだよ。あっ! こんな話、絶対ヴィンセントにはするなよ!」


まったく……私には絶対言うなって、なんだ、それ。


レジーナは、振り返って、ゾラにも大声で念を押している。


「はっ、今まで通り、これからも絶対、隊長には言いません!」


おいっ、ゾラ、お前はいったい誰の部下なんだ?

っていうか、お前はレジーナの事情を知ってたのか!


私から漂う不穏な空気に気づいたゾラが、更に小さくなってゆく。

「でも、隊長はきっと、誤解してますよね」

「うん、でも私だって、いつかはヴィンセントと直接話せるようになりたいんだ。伝えたいことがあるから」


伝えたいこと?


「ほら、彼っていつも眉間に皺が寄ってるだろう? 大変な事がいっぱいあると思うんだ。だから、いつか、きちんと伝えたいんだ、いつも応援してるって。

私たちは、新兵時代を共に過ごした仲間だから」


応援って……


レジーナの言葉の一つ一つが、じわっと胸の奥へと染み込んで、自分でも気づかなかった、心の柔らかい部分に触れてゆく。


自分がここに在ると、見つけてくれた人がいる

私は、黙ってその想いを噛み締めた。


夜が明けるとすぐ、私は、昨夜の現場へ向かった。

早朝の清々しい空気が漂い、昨夜の出来事が嘘のようだ。

ふと、周辺の壁を這う蔦から、幾つも新芽が出ているのに気づいた。

近づいて、そっと指先で若葉に触れると、その葉の下に、小さな紫色の花が咲いていた。


この花は、小さくて、葉の影に隠れてしまって、誰の目に留まらないのに、

それでも、精いっぱい咲いている。


私は、大きく伸びをして、自分自身に気合を入れ直す。

さあ、今日も新しい一日が始まるぞ。



END


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