人間狩り

 20年前:鬼ヶ島

「暇だな〜」

「バカンスって、そういうもんでしょ?」

夜更けの砂浜で、専用の椅子に寝そべる二人がいた。両方とも人間に近いが、男は毛深く歯が鋭かった。女は黒い羽と尻尾があった。

「ウルは、どうすんの?」

「何が?」

「今後の進路とかよ。」

「うーん……とりあえず弟の面倒を見ないといけないし、世の中次第かな?」

「そう。」

「リリムは、アレでしょ?記者の見習いになるって。」

「そ!夢だった記者になって、バンバン世の中の悪事を暴いて見せるわ!!!」

「楽しみだね。悪魔が種族問わずに悪を暴いていくのは。」

リリムとウルが楽しそうに話している所に、走ってマミがやってきた。表情は耐水性の包帯で見えなかったが、焦りの様子は見てとれた。

「ウル!リリム!」

「どうしたのよ、マミ。」

「キバとドラコを、なんとかしてよ!」

「二人がどうしたの!?」

「アイツら、イカれてるのよ!とにかく来て!!!」

マミに連れられ、二人は少し森の中に入っていく。すると、キバとドラコ、そしてキュクロも居た。さらにその先には、見知らぬ人間らしき存在がいた。

「……やるのか?」

「やっちまおう。」

「放っておこうぜ。」

何やら三人で話している所に、リリムが口を挟む。

「『やる』って、なにを???」

「お前ら、来たのかよ……」

「来たら、困るの?」

「チッ……あそこに人間が見えるか?」

「見えるけど、なに?」

「あのヤローを、ちょっと脅かしてやろうと思って。」

その言葉に、ウルは驚いた。

「脅かすって、それはマズイんじゃ…………」

「別にからかいの範疇でとどめるよ。」

「【人間狩り】扱いされたら、どうするんだよ……」

「知るかよ。そもそも、オレ達魔族が人間を襲うのが罪なら、人間が今まで魔族を襲ってたのも駄目だろ!」

「だから、お互いの種族が襲い合うのを犯罪にしたんでしょ。」

ドラコとウルは、揉め始めた。リリムは記者の勉強で学んだ【人間狩り】について、思い出していた。


《魔族が人間を襲う行為。人間の生命を悪戯や遊び、弄ぶ様な事は、特に厳罰とされている。犯した者は、最低でも追放される。》


厳しい厳しい、魔族と人間の共存のためのルールだった。長いこれからの寿命を考えれば、若いリリム達にとってリスクしかなかった。しかし、若いからこそ血気盛んで怖いもの知らずな所もあった。

「勉強の憂さ晴らしに、少し驚かすだけさ。」

「人間からしたら、恐怖しかないわよ。」

「ヘッ……勝手に魔族の領地に侵入しておいて、無事に帰れると思うなよ。」

「やめなさいって!」

「おい、キュクロ!そこの石を、あの人間の近くに投げろ。」

「ええぇ……」

「早く!」

「分かったよ、ドラコ……」

そう言うと、キュクロは近くの石、見方によっては岩を持ち上げ投げた。ドスンッと重い音を立てて、地面に落ちた。それを見て、人間は驚いてすぐに駆け出した。

「見ろ、逃げたぞ!」

「やっぱり、魔族の領地と知って忍び込んでやがったな。」

「チョット、止めなさいよ!」

「これ以上は、不味いって!」

「コラーーー!!!」

キバとドラコは、急いで人間を追いかける。リリムとマミ、ウルは二人を止める為に、後を追いかけた。しかしリザードマンとヴァンパイアに、悪魔とミイラと人間態の狼男では追いつかない。


「ウバァー!」

「きゃああああ!!!」

ドラコが叫びながら茂みから飛び出すと、人間は負けじと大声で悲鳴を上げる。すぐに方向転換して、走って逃げる。

「しゃあああ!!!」

「うわーーー!!!」

キバもドラコに負けじと、驚かす。人間はまたも悲鳴をあげて、逃げる。ドラコとキバと人間を見失ったリリムたち三人は、手分けして探す事にした。ウロウロと森を彷徨っていると、マミは人間に出くわした。

「大丈夫ですか!?」

「うぎゃーーー!」

「待って!」

動くミイラを見て、人間は走り出す。人間からすれば、魔族は魔族。襲われた後に助けが来ても、判断がつかない。リリムも、同じように出くわした。

「待って下さい!」

「ひゃー!悪魔ーーー!!!」

「あっ!!!」

リリムを見ても、驚き叫んで人間は逃げてしまう。しばらく音沙汰が無かったが、リリムは、マミ達5人が集まっている所に合流した。全員の目線の先には、崖側で木の枝を持って警戒する人間の姿だった。

「あーあ、怯えてる怯えてる。」

「どうすんのよ!」

「ハッ……ほっとけよ。」

「私まで、驚かせてる事になってるのよ!」

「知るかよ……」

「僕が行くよ。見た目が1番、人間らしいし。」

「ウル……」

「そうすれば、誤解も解けるし安全でしょ。」

そう言ってウルは一歩、踏み出した。その時、足元の枝を踏んでしまった。辺りに、パキッという音が広がった。その音は6人にとっては、ただの物音だった。しかし、人間には恐怖の塊だった。耳に入った瞬間、泡を吹いて気を失ってしまった。それだけなら良かったが、そのまま崖から落ちてしまった。

「「「「「「!?!?!?」」」」」」

魔族6人、すぐに茂みから飛び出して崖下を覗いた。そこには人影は全くなかった。しかし、崖下の岩にベッタリと血が付いていた。

「…………………………」

「まさか………………」

「まずいまずいまずいまずいまずい!!!」

「ヤバイって!」

「どうすんのよ!!!」

「いっ、急いで助けを呼ばなきゃ!」

リリムは、急いで走ろうとした。だが、ドラコが引き止める。

「待て!」

「なんで!?」

「………………いいか、コレは事故だ。」

「そんな訳、無いじゃない!」

「あの人間は、勝手に落ちた。」

「その前に、やらかした事があるでしょ!」

「オレ達のせいなら、ここにいる魔族は全員、共犯だぞ!」

「…………………………」

ドラコの言葉に、リリム達は全員、黙るしかなかった。

「将来の事を考えるなら、ここは全員で秘密にするしかない。」

「そうだな…………」

六人の魔族は、何事も無かったとして浜辺に戻る。そのまま一夜を過ごし、変わらぬ日常へと戻っていった。しかしこの事で段々と疎遠になり、離れていく者もいた。トラウマになり、夢を諦める者もいた。

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