討伐:1

 4人が屋敷に到着した頃には、すっかり夜になり吸血鬼のキバも並んで歩いていた。

「やっと着いたな。」

「アンタ、ほとんど寝てたじゃない……」

「しょうがないだろ。それにしても、相変わらず名前が気に入らない屋敷だ。」

「それは、同感。」


この鬼ヶ島で唯一の建物である十字型の屋敷、その名も【十字屋敷】である。2階建てで南に入り口があり、北側にはキッチンと東西には部屋がある簡単な建物である。ただし人間と魔族が兼用で使うためか、ところどころ大きめな所もあった。特に玄関は大きく、キュクロもやすやすと入ることができた。玄関も兼ねた大広間は暗く、小さいランプの光が1つ浮かんでいた。

「ねえぇー!誰かいないのかしら?」

マミがキョロキョロしながら、つぶやいた。

「よく見ろ。乾燥した眼球で見えればだが。」

声が聞こえた暗がりに四人が顔を向けると、鱗が見え出した。

「なんだ、ドラゴか。驚かさないでよ。」

「お前らが勝手に驚いただけだろ。」

「昔からアンタ、冷たいわよね。」

「リザードマン差別か?」

「ケンカしないの。せっかく会えたのに。」

リリムがマミとリザードマンのドラコの仲裁に入る。ドラコはソファに腰を掛けると、机の紙を指さした。

「全員がそろったが、まずは指示に従えよ。」

リリムが紙を取り、ゆっくりと読み上げる。

「えっと、『到着した者は、衣服以外の荷物は全て所定の位置に置くように。』と。」

周囲を見渡すと大きめの箱があり、既にいくつか入っていた。

「全てって、財布と電話もかしら?」

「知るか。気になるなら入れとけよ。」

「アンタには聞いてないわよ。」

「……………………」

リリム・マミ・キバ・キュクロは、それぞれ指示通りに荷物をしまった。全て入れ終わると、キバはドラコに質問した。

「そういえば全員と言っていたが、あいつは?」

「アイツ?」

「ウルが居ないが。」

「敵対勢力が気になるか?」

「種族の仲と俺達の仲は、無関係だ!」

「ウルなら今、狼男の嗅覚で探ってもらっている。」

「何をだ?」

キバの疑問に、ドラコは叫んだ。

「何かって?俺たちが20年ぶりに、この島に来た理由を忘れたのか???」

ドラコはそう言うと、胸のポケットから手紙を取り出した。他の面子も手紙を取り出した。同じ紙と同じ文面。


【20年前の真実を知っている。暴露されたくなければ、誰にも言わず一人で島に来い。】


「やっぱりコレよね………………」

「誰かのいたずらでしょ?遊びたいからみんなを集めるための口実に。」

「俺たち以外で知っている奴は、いないはずだし。」

「ドラコだと思っていたが、違うのか?」

「俺がやるなら、もっと手が込んだことをやる。」

「ウルは、いつ出かけたの?」

「少し前だな。そろそろ戻るだろう。」

全員が広間のソファに腰掛けた。20年ぶりに会う者もいるので、それぞれ近況について話し始めた。

「キュクロは、いま何してるの?」

「俺は、建設現場で働いてるよ。この巨体を生かせるし!」

「素敵ね!」

「サイクロプスらしい、ブルーカラーワークだな……」

「ハハハ…………………………」

ドラコの言葉に、キュクロは乾いた笑いを出すだけだった。代わりに、マミが噛み付いた。

「そういうドラコは、どうなのよ?」

「オレか?」

「リザードマンらしく、剣でも振って戦士ヅラしてるの???」

「剣は剣でも、権利の権さ。弁護士としてガッツリ稼いでるよ。」

「どーせ、汚い事してる悪徳でしょ?」

「フッ、汚い格好のヤツに言われたくないな。」

「なによ!」

今度はキュクロが、間に割って入る。

「まぁまぁ、落ち着いて。この間、ファッションショーで歩いてるの見たよ。」

「モデルの仕事!」

「モデルもデザイナーも、両方やってるの。」

「それは、凄いわね。」

「リリムは?いま何してるの???」

「わたし?」

「そう!」

「私は……」

「???」

「ただの事務員よ……」

「あれ、記者になるって話は?」

「……………………」

リリムは黙り込む。俯いて、表情は分からない。マミとキバ、キュクロは深く聞かなかった。ただ、ドラコだけは話を続けた。

「優秀なおまえが、諦めたのか?」

「……そんなんじゃないわ。」

「じゃあ、なぜやらない?」

「………………れない……」

「えっ?」

、平気でいられないからよ!」

「………………………………」

リリムの怒りの滲んだ言葉に、流石のドラコも静かになった。



いつの間にか、1時間が経っていた。さすがに遅いと感じた全員で、とりあえず屋敷の周囲へ探しに行くことになった。建物の周りは森になっていて、薄暗く気味が悪い雰囲気だった。屋敷の中にいた5人は、とりあえず固まって探す事にした。

「ウルー!」

「どこにいるのー!」

「オイ!ふざけてないで、出て来い!」

「みんな来たよー!」

「ねぇ、ウルー!」

おのおの叫ぶも、返事はない。呼びかけながら歩いていると、遂には一周してしまった。もう一度、屋敷の外周を探してみる事になった。


「居たぞ。だが、様子が変だ…………」

ドラゴが指さす先を見ると、森の中に毛の塊のようなものが落ちていた。ピクリとも動かない物体に、キバがゆっくり近づきながら声をかける。

「おい!ふざけてないで帰るぞ!!!」

「………………………………………………」

全く返事が無い。怪しむ一同のうち、キュクロが気になることを言い出した。

「なぁ?」

「ん、なに?」

「ウルの毛に……赤色なんて入っていたか…………」

「無い。狼の毛だぞ。」

昔から赤毛は無かった。しかしよくよく見ると、赤いところが確かにあった。キバは気にせず、毛の塊をひっくり返した。確かにウルだった。しかし正確には、ウルだったものであった。キレイな穴が、左胸に小さく開いていた。驚き後ずさりするキバと入れ違いで、ドラゴたちが駆け寄る。胸に耳を当てたり口に耳を近づけたり、目をのぞき込む。しばらくして、ドラコが立ち上がった。

「完全に、死んでいる……」

「嘘でしょ。狼男が簡単に死ぬ訳ないじゃない!」

「どう考えても、アレだろ?」

「アレ?」

「…………銀の弾丸ってことか。」

「狼男も弱点を突かれれば、死ぬか。」

4人が話をしている後ろで、キバが叫ぶ。

「警察だ!警察を呼ばなきゃ!!!」

自身の衣服をまさぐり通信機器を出すも、圏外であった。他の面子の顔を見る。

「みんな使えない……」

「どうして???」

「屋敷に何かあるだろ。」

「落ち着いてないで、探しに行くぞ!」

ドラゴを突き飛ばして、キバは屋敷へ走り出す。残り面々も後を追うように、駆け出した。


全員が屋敷に着くと、何も無かった。荷物を探したが、入れ物ごと姿が消えていた。何も見つからず、屋敷にある電話も使用できなくなっていた。

「やはり外部と連絡は取れないか。この島は無人島になってからソコソコ経っているから警察も常駐してないし、電波もなければ電話線も切られている。」

「じゃあ、どうするのよ!」

「どうしようもない……」

「なんとかしてよ!」

「出来たらしてるよ!!!」

「喧嘩するなよ!」

ドラゴとマミが言い争い、キバが仲裁に入る。その横で、リリムはキュクロに小声で話を切り出した。

「やっぱり、復讐よ……アイツが生きていたのよ…………」

「警察発表じゃ、死んだのは間違えないだろ。」

「……人間同士で、手を組んでいるのよ。」

「否定はしきれないが、無いだろうと思いたい。」

キバが頭を抱えながら、唸りもだえる。

「うーん、分からない。状況のせいで凄く混乱してきた。整理しないとダメだ。」

この言葉を聞いて、全員で話をすることにした。

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