第1話 二章

遥が遅刻しそうになりながら全力で走り続けていた頃に、さかもどる。

遥が通うことになる学校で入学式に参加する新入生を見守る人がいた。

赤髪で腰ほどまである長い髪は艷やかで、顔立ちはそれに見合うほど美しく、身長も高く170cmほどはありそうに見える。

それに見合うように手足も長くきれいな出で立ちである。

何処か儚げな印象もあるのだが、どこか力強さを持ち合わせているような安心感があった。

そんな凛とした人物が入学式が行われる講堂の入り口にて般若のごとく怒りの表情をして腕を組みながら仁王立ちしていた。

「遅い!」

周囲に聞こえるような大きな声で怒りを口に出した。

美人な顔が台無しになるほどかなり苛々しているようで、周囲の人達もなるべく近寄らないようにしている。

「みんな怖がっていますよ、白井校長」

だがそんな人に果敢にも声をかける人物がいた。

見た目は先程呼ばれた白井よりも若く、まだ10代ではないだろうかと思えるほどの幼い顔つきで可憐で可愛らしい顔をしている。

髪色は紫色と赤のグラデーションカラーであり、髪型はその自身の幼さに合わせているのであろうか、狙ったような可愛らしいツインテールであった。

その髪を纏めるリボンは紫色の紐で雑に縛る程度であった。

身長は白石の脇下あたりに頭の先が来るほどである。

おおよそ150cm位であろう。

だがちゃんとしたビジネススーツを着ていて、見た目は先生と呼ばれてもおかしくはない形となっている。

「遥が悪い!あいつ今日に限って寝坊とは」

「白井校長の大切なお弟子さんでしたっけ?」

「べ、別に大切なんかじゃないが」

そんな二人のやり取りはここ最近出会ったようなそんな余所余所しいものではなく、長年お互いに慣れ親しみのある様な雰囲気であった。

少し照れた様子で白井は答えるがその顔は嬉しそうにしていた。

そんな矢先のことだ、耳を覆い隠したくなるほどの爆音でアラート音が鳴り響く。

そのアラート音にいち早く白井は反応する。

「こんな日によりにもよって!」

「どうしますか?」

白井は先程隣にいた人物に振り返り

「四宮!お前はここにいる生徒達と教員の保護を!」

四宮と呼ばれた人物は静かにうなずき、首から下げていた2つの剣の形をした小さなアクセサリーを引きちぎった。

「セットアップ!ザンバー!」

それは魔法士の杖であり武器であり防具であった。

アクセサリーは二振りの長さは60から70cm程度の刀へと変化し四宮の目の前に浮かび上がる。

「顕現せよ我は紫電の担い手、その剣たる雷鳴剣よ!」

光が四宮を包み込み身につけた衣服を分解する。

凝縮された魔法文字は先ほど分解した衣服を再構築する。

紫電の名に相応しく服全体の色は紫色をしていたが、腰辺りまでは赤色という何ともアンバランスなグラデーションカラーとなっていた。

だがそれは同時に美しくもあり、可憐さを持ち合わせた四宮にピッタリな魔法衣となっていた。

動きやすさを重視しているのか無駄な装飾品は一切なく、肩を出してノースリーブの様な上半身、下半身は腰回りに申し訳程度にある白い羽根に見立てた装飾品とピッチリとした膝丈ほどのタイツ姿であった。

「ここは任せてください隊長」

その声に反応するように白井は振り向き言う。

「今の私は隊長じゃない、校長だ」

白井の顔は晴れ晴れとした顔で一切の後悔なんてないようなそんな顔つきであった。

その顔つきに応じるように四宮は微笑む。

「そうでしたね、今は校長でしたね」

その言葉に振り返ることもなく白井は胸元の大きな剣のアクセサリーを右手で掴み引きちぎり空に掲げた。

「顕現せよ!赤き紅蓮の如く真っ赤に染まった私の剣よ!(つるぎ)」

その声に答えるようにアクセサリーは赤く光り輝く。

それは太陽のように神々しく、真っ赤に染まる身体を魔法衣が包み込む。

それは彼女を体現する真紅の出で立ち、赤色を基調に激しく燃え上がらんとする焔をあつらえたような服であった。

背中からは白い羽があり、その羽先は白から徐々に赤に変わるグラデーションカラーとなっていた。

「よし!」

そして変身が終わり白井は剣を掴む。

豪快にも掴んだ剣を肩へと担ぎ上体を後ろへそらす、軽く体を解すようにだ。

「では、私はあのバカを迎えに行ってくる」

白井はそう言うとその場で脚に力を入れるように勢いよく右足を大きく一歩踏みしめた。

「白井薫出る!」

その掛け声とともに白井の足元から真紅の魔法文字が現れる。

赤く燃え上がるごときそれは白井の足元に高濃度の魔力を集める。

その魔力の奔流は白井の足元を赤く染め上げ、まるでマグマのように発色する。

次の瞬間その高濃度の魔力は爆発する。

その反動で白井は空へと上がった。

それを見た四宮はその場で軽く敬礼した。

「口ではああ言いながら本当にお弟子さんが大好きなんですね」

自身の今の立場など放棄してまで安否を気にするほどの大切な存在が白井にはあった。

それはこの世界にとっても大変貴重な存在である。

それは未だ子供であり、保護される立場の存在である。

たが当の本人はそれを望まない、むしろ師匠のように強く逞しく、そして優しさに満ちた存在であろうと。

「どうかご武運を」

短く言葉にして四宮はその場を離れる、白井に託されたこの場を全力で守るために。


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