第1話 一章 入学式が戦闘式!?
光暦2055年
4月9日午前8時3分
天候は晴れていて春先にも関わらず少し暑さを感じさせる気温である。
そんな気持ちのいい春模様の朝方に、中学生を思わせる白いセーラー服を着た一人の少女が、車道をおおよそ人の足では出せないような速度で走っていた。
その少女は元気さを体現したような明るさのある、可愛らしい顔つきで髪は肩にかかるほどの長さである。
その髪色はその元気良さを表しているかのような綺麗なオレンジ色をしている。
背の高さは平均的な中学生ぐらいであり、おおよそだが150cmほどの高さに見える。
そんな女子中学生は隣を走る車の速度に匹敵する速さで走る。
少女の顔は、苦痛に顔を歪めるような顔をしていた。
走る速さが増すたびに少女の顔は更に焦りを伴う。
『やっちゃった、やっちゃった!』
『どうして今日に限って寝坊!』
そう!本日は魔法士中等部学校の入学式。
晴れやかな春模様でピンクの花開く美しい景色の中、只ひたすらに少女は走っていた。
本来なら車に追いつくような速さで走る少女の姿は異様に映るのだが、すれ違う人々は特に気にした様子もなく平然としている。
要はこんな光景はこの世界では日常茶飯事なのである。
そんな全力で走る少女に警報を鳴らすかのように街中で警報音のようなアラート音が鳴り響く。
その音に反応するように街中にいた人達は慌てた様子で建物内へと逃げ惑う。
そんな逃げ惑う人達が入っていく様々な建物から、淡いピンク色の発光が包み込み目に見える形でバリアのようなものがはられていく。
人がいなくなった街中で先程車道を全力で走っていた少女はおもむろに足を止めた。
少女は首から下げていた白い小さな棒状の飾り気のないアクセサリーを右手で掴み勢いよく引きちぎった。
そのアクセサリーの鎖は少女の首に傷を与えることなくその場で砕け散る。
砕け散った鎖は魔力で編まれた実体なき虚構の鎖であり、其処にあると認識はできるが同時に無いとも認識されるほどの高位の魔法であった故に簡単に着脱可能となっていた。
右手に持つアクセサリーを頭上に掲げて少女は高らかに名を名乗った。
「浅井遥!行きます!」
その名乗りとともにアクセサリーから光が溢れて遥と名乗る少女を包み込む。
「人々を守る正しき力!」
光は魔力を文字として変換させ少女の着る服を魔法士用の魔法衣へと変換するプロセスを実行する。
「正しき心にて邪悪を滅する!」
光に包まれた少女の体は何人たりとも見ることは叶わず、変換プロセスの際に発生する魔法文字は魔法士の周囲を漂い術式を固定して魔法衣となり少女を包み込む。
「我は魔法士、浅井遥!」
そう宣言すると同時に少女の着ていた学生服は赤をベースにした戦闘服へと切り替わった。
ベースのセーラー服はそのまま、人類への脅威に対抗できるようにセーラー服の際肌が露出した部分が厚手のタイツや長袖になり保護されている。
これならばある程度の素肌に受けるダメージは防げるようになる。
魔法衣とは高圧縮された魔力を瞬時に衣服という形で出力し、魔力による膜を作り出し体を包み込む。
その純度の高い魔力の膜は物理的衝撃や魔法的衝撃を緩和する高い防御性を持つのである。
魔法衣を身につけると同時に、右手にあるアクセサリーは大きさが遙と同じ背丈ほどとなり、先端には赤い宝珠を付けた白い杖のような物に変換される。
それは魔法士が戦うために与えられる戦術型支援ユニットである杖であった。
その戦術型支援ユニットは魔法士の間では杖と呼ばれている。
杖は魔法士の練り上げる魔力に方向性を持たせて、現実世界へと干渉しやすくする為に開発された便利な魔法道具である。
本来魔法とは体内にある魔力を詠唱により魔法文字という形を取り、魔力を空間に刻みつけて方向性のない魔力を現象として定めて固定化する必要がある。
この戦術型支援ユニットには先端に宝珠型の超高性能演算ユニットが搭載されている。
杖の持ち手から流れる魔力を超高性能演算ユニットは随時魔法士の感覚的に扱う魔力を感知して音声にて識別する。
その後それに見合った術式をデータベース内に存在する膨大量の魔法に照らし合わせてオートで術式を編み出す。
編み出した術式を魔法文字という方法で魔法士の魔力を使い、空間に映し出し自動的に魔法という形へと変換する。
その後魔法士は魔力を込めて任意のタイミングで魔力講師することが可能になる。
この超高性能演算ユニット付き戦術型支援ユニットは正魔法士には一人一人に専用のものが与えられる。
それは個々により適正のある魔法があり、それを杖の超高性能演算ユニットに学習させることにより瞬時に戦闘行為に使用できるようにする為である。
だが遙の杖は正式採用型の戦術型支援ユニットではない。
ゆえに専用の超高性能演算ユニットは搭載されていない。
だが魔法士自身が予め組み込んだ術式を魔力を通じて杖に読み込ませることにより簡易的に術式を展開することが可能である。
これは戦術用の杖ではなく、工業用に該当する簡易的で利便性のある作業用の一般魔法を本来行使するためのユニットである。
遥は国からの承認を得て準魔法士の杖として登録しているようで緊急時には使用の許可が出るようになっている。
遥の変身が終わると同時に空より異形の怪物が降り注ぐ。
それは1つ2つではなく、数える事のできない程の数であった。
目視した遥は持っていた杖の先端を異形に合わせる。
「ターゲットロック、ミドルシュート!」
その言葉と共に杖の先端が淡いピンク色を発する。
それは遥かの生成する魔力に反応し予め組み込まれた術式を読み込む動作であった。
凝縮された魔力は杖の先端より拳だいの塊となって光の粒子を纏い遥の直線上に放たれた。
放たれた光の粒子は驚異的なスピードをもって異形に直撃する。
それは空より降り注ぐ異形の群れの1つに当たる。
魔力の塊が直撃した爆発によりその周囲に煙が出て異形の様子が確認できない。
だが空中より無防備に降り立つそれは一切の回避行動をするような素振りなく、直撃しているであろう事はその状況によりほぼ確認できると思われる。
遥はその爆発を凝視する。
だが爆発の煙から無数の影が燃え尽きながらも落ちていく。
それは明らかに生命活動を終了したとは思えない動きをしていた。
まだ終わりじゃない、遙はそう確信したのか脚に力を入れる動作をする。
左足を地面にしっかりと踏み込み、身体を大きく前へと押し出した。
次の瞬間遥の身体は大凡人の出せる速度を超えた速さで先程の爆発地点へと駆け抜ける。
瞬時に両手で掴んでいた杖を遥は左手に持ち替える。
杖の先端には先程まで無かった淡いピンク色をした剣のような形状へと杖はなっていた。
そして大きな声を上げて遥は魔力を杖に込めて
「ソードフォーム展開!」
との掛け声とともに爆発地点に着いた遥の目の前には、先程の砲撃で仕留めそこねたと思われる異形がその場で蠢き震えていた。
その姿を確認した遥は杖を両手でしっかりと握りしめて正面へ構える。
そして浅く息を吸い込み目の前にいる異形へと踏み込みながら杖を横に振るい切りつけた。
蠢き震える異形は自身にとっての脅威がそこに近づいていると気が付かずに遥の振るう剣先に両断される。
そして異形達は一斉に遥を視認する。
それは人の形をしていているが、身体中から形容し難い茶色い液体が滴り落ちる。
手は項垂れるようにあり、脚は細長く頭部もまた縦に細長く、とてもソレが人間には見えずこの世ならざる魔の物であることは容易に想像ができる。
見る人が見れば余りにも不快さと気持ち悪さで気を失うか、その場で発狂でもしそうなものである。
たが遥は数え切れないほどの異形に一斉に視認されても特に気にした様子はなく、むしろ堂々としていた。
「多いなぁ」
心底面倒くさそうにため息をつきながら遥は呟いた。
「ソードフォームからガンフォームへ移行!」
そして手にした杖を先程の剣から筒状へと変更させる。
「面倒くさいから纏めていくよ!」
遥はそう宣言すると先程の位置から大きく後方へと跳躍した。
距離にしておよそ10メートルぐらいだろうか。
異形と距離を保ち杖の先をそちらへと向ける。
「私の魔力は誰よりも多いから、加減が難しいけど!」
杖の先端が淡いピンク色を発しながら膨大な魔力量により周囲の空間を歪める。
「30%でいくよっ!シュート!」
そして杖の先から直径5メートルは在るであろう魔力の塊がピンク色の光の粒子を纏い遥の直線上に発射された。
その砲撃は無数の異形を包み込み消し去ろうとする。
そしてその恐ろしいほどの魔力の塊は街そのものを震わした。
魔力の振動は周囲の建物にも伝達し軋む音がする。
「せーの!」
遥は掛け声とともに杖を自身の頭上へと掲げた。
まだ空にいる異形達も包み込む。
そしてその遥の膨大な魔力量に耐えきれず杖が軋みを上げる。
次の瞬間杖全体にヒビが入り手元から砕け散った。
「あっ!」
そして、杖からの魔力供給が無くなり魔法衣は解除され魔力を纏わない元のセーラー服に戻った。
「嘘でしょー!」
そんな絶望を感じる遥の叫び声が市街地に響き渡るのであった。
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