第51話 6-b】月迎撃戦:秘密作戦

〔 地球近傍域:2082/08/05 〕


 地球近傍に高度ステルス機能で浮かんでいるのは邪神軍が設置したマナ収集装置だった。これもサイボーグ体で大部分が光学的にも電磁的にも透明な素材でできている。

 全体はタコに類似している。武器の類は一切ついていない。あくまでもマナの収集に特化している。

 それは広げた外套膜を地球に向けたまま静かな眠りについていた。

 本体は休眠状態のままマナ収集の自動機能だけが生きている。地球に棲む人類という種族が一喜一憂するたびに地球の周囲に漏れ出て来るマナを収集し、細いマナの流れに変えて邪神母船アザトースへと送出している。

 邪神軍の侵攻が始まってから十年の間に集めたマナは莫大な量に上るが、それの本当の出番はこれからになるはずだった。

 眼下に見える地球の上に住まうすべての人間が絶望の中に悶え死ぬとき、今までのものとは比べものにならないほどのマナが放出される。それをすべて捉えて母船に送るのだ。

 それだけがマナ収集装置の生きる目的であった。目的を果たした後には破棄される予定である。

 そのために十六匹の収集装置が地球の周りに潜伏している。

 そのどれもが今は静かな微睡みの中にあり、やがて来る輝ける瞬間を待ち望んでいる。


 眠りの中でふと体に何かが当たる気がした。文明を持った惑星近傍は宇宙開発の結果である小さなデブリに覆われている。そこで何かに衝突するのはさほど珍しいことではない。

 一応正体を確かめておこうと外部センサーを起動した瞬間にそれは意識を失った。


 漆黒の宇宙空間を背景にしてその中から現れたのはこれもステルス化された小さな作業船であった。

 マナ収集機それ自体は高度なステルス機能を持っているが、逆にステルス探知機能は持っていない。必要がないからだ。だからこの接近には気が付かなかった。

 一方で作業船はマナ収集機のことは良く知っている。

 どこにどう攻撃を加えれば意識を断てるのかも。

 どのようにその意識を改造すべきかも。

 作業船から出現した細身のロボットたちはマナ収集機に対して手早くロボトミー手術を行った。元の頭脳に対して拡張された生体頭脳をいくつも追加する。

 自己認識を改造。

 周囲感知を改造。

 状況認知を改造。

 一瞬の遅滞も無く次々と新しいプロトコルを埋め込んでいく。

 同時にその体にも改造の手を加える。

 ここまで運んで来た装備をマナ収集機のマナ送信アンテナの横に慎重に設置する。それはかなりの大きさの長い棒で根元にコブがいくつかついている。

 まるで出来の悪い男根のオブジェだ。

 残りの細かい処理を完了させるとロボットたちは作業船へと戻り、次のマナ収集機へと向かった。



 ・・マナ収集機は眠りから目覚めた。

 今何かをしようとしていたはずなのだがまったく思い出せない

 外部視覚を使って自分に新たに加えられた装備を眺めるが、それが何であるのかも何故そんなものがあるのかも、追加された無意識に妨害されて意識には上らなかった。

 すぐに定期連絡の時間が来た。

 邪神母船アザトースに向けて問題無しの報告を送った後に、マナ収集機はまたもや浅い眠りについた。

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