第52話 6-c】月迎撃戦:教団本部

 邪神船イタカが撃破されて以来、邪神教団の会員の減少は留まるところを知らなかった。

 一縷の希望を求めて邪神教に入信した者たちはもうこの偽の希望に縋らなくてよくなったからだ。

 莫大な金額を誇った寄付も減少し、教団幹部の間には混乱が広がっていた。

 元よりこの根拠のない教義を心の底から信じるものは幹部の中でも三割程度しかいなかったが、金と権力を求めて参加していた連中が抜け始めると、教団自体の結束は逆に強くなっていた。

 要約すれば、邪神教徒たちは狂気の度合いを深めていたのだ。



「これが最後の計画になるだろう」

 教団教主トビリク・ザールは最高会議のテーブルに並ぶ面々を見ながら宣言した。

「ここ最近我が教団は何らかのサイバー攻撃を受け続けている。教団の力は日々弱まり、このままでは邪神様たちの期待に応えることはできない」

 苦渋の表情がその顔に浮かぶ。

「だから我々の総力を賭けた今度の作戦で大逆転を狙う。月で行われるヨグ=ソトホート様への迎撃を失敗させるのだ」

 空中にホログラフが浮かぶ。それは秘密裡に手に入れたロック級弩級突撃艦の姿だ。

「我々の標的はこの通りの巨艦だ。だがヨグ=ソトホート様に比べれば推定で質量比は400対1となる。象とアリの喧嘩だ。ヨグ=ソトホート様の勝ちは決定している」

 そこでトビリク教主は机を叩いた。

「だがそれでは駄目なのだ。ここは我ら邪神教徒の手でこの船を撃沈してこそ邪神様たちの歓心を買うことができる。でなければ我々もまた愚かな人類どもと一緒に処分されてしまうだろう」

 そこにいた全員がぶつぶつと呪文を唱えながら自らの顔を覆った。何らかの祈りだ。カルト教団というものはこの手の独自の儀式を編み出すのが通例だ。

「だが案ずることはない。我々の計画は進んでいる。このためにあらゆる資産を投じた。大勢の人間を買収し、大勢の人間を脅迫し、大勢の人間を誘拐した」

 大勢の人間を殺したとは続けなかった。行わなかったのではない。ただ単にそこまで言う必要を感じなかっただけだ。教団の教義の中心は人間の生贄なのだから。

 トビリク教主はそこで新しいホログラム画像を投影した。

 船と戦闘機、そしてミサイルの映像が映し出される。

「見たまえ。これが人類の新型戦艦を撃沈するための我々の計画だ」

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