第19話 3】木星会戦:総力戦:発火

 〔 木星宙域:2078/10/08 〕


1)


 カウント・ゼロ。待機している各艦に警報が鳴り響いた。


 交戦開始距離五千キロ。前回と同じだ。人類側の大型レールガンの射程に合わせて設定しているのでこの部分は変わらない。


 相変わらず邪神軍の先陣は邪神船イタカ一隻だ。球形子船のヨグ=ソトホートと超巨大母船アザトースは遥か後方に構えている。

 イタカは左右に大きく帆膜を張り、機体のほとんどを占める棒状の巨大荷電粒子砲をピタリと前方に向けて進む。数百機のハチだけが周囲を護衛している。全体を隈なく覆う鱗状の装甲が暗い虹の光を放つ。船体から飛び出た眼柄の先の目玉が周囲を油断なく見張っている。

 それが進む先は木星採掘ステーション・ガンマだ。


 その前方に展開しているのは人類軍だ。

 人類軍のどの戦闘船も艦形は三角錐をベースとしているのは同じだ。戦艦の方がその幅が広くずんぐりして見える。

 この単純な形は被弾傾斜をつけて装甲の深度を上げる、ただそれが目的だ。

 宇宙での長距離航行時の標準速度は秒速100キロ。そのときのデブリとの衝突から船体を守るための設計である。

 デブリとの衝突の際の衝撃は核爆発レベルになるのでこれは必須である。

 実際の航行時にはさらに船体に追加装甲とアブジュレーション吸収体をつけるので、最終的な艦形は先端がギザギザになった矢じりの形になる。ただし今回のような狭い宙域での戦闘ではこれらの余分な重荷は外してある。


 輝度補正した光学映像ではいくつもの大きな楔が宇宙空間に浮いているように見えている。数十本の小さな楔が迫りくる巨大な邪神船イタカに挑もうと並んでいる。そう見えた。



 会戦の口火となる初弾は今や要塞と化した木星採掘ステーション・ガンマの大型レールガンの役目だ。

「レールガン。スタンバイ」リューダイ基地司令が命令を発する。

「オール・グリーン」火器担当のナイジャルが返す。「エネルギー・フルです」


 本来ならば宇宙戦は大型レーザーによる初撃がセオリーだ。最も速く届き、しかも強力だ。特に要塞防衛戦では大量のエネルギーを扱える要塞側が極端に優位になるのがこの種の武器の特徴だ。だが邪神船イタカに対しては超高磁力による周波数干渉のためレーザーは役に立たない。


「よし、レールガン順次砲撃開始」

 リューダイ基地司令は淡々と命じる。何か格好の良い決めゼリフでも叫べればいいのにといつも思うが、言えた試しがない。

 ナイジャルが兵器管制システムであるファイア・オルガンの上に指を走らせる。

 木星採掘ステーションの仕事の一つは豊富な水素を使ってのエネルギー生産だ。基地周辺の軌道にずらりと並ぶ大型核融合炉がそれの担い手である。今それらが作る膨大な電力は惜しみなくレールガンに送りこまれていた。

「第一陣投射」

 大型レールガンの周囲につけられた巨大コンデンサーのバタシターがパンプアップし、放電の光が弾ける。太陽系中から集めた大型レールガンの数は全部で二十基。砲弾は次々と撃ちだされ、過熱で停止するまでに百発の砲弾が撃ち上がった。全長五十キロはある大型レールガンの砲身がそれ自身が産みだした熱で赤く燃える。

 撃ち出された砲弾列はどれも秒速二十キロ、つまりマッハ58で飛ぶ。この速度なら約四分で邪神船イタカに到達する計算だ。恐ろしいことにどれも命中すれば人類軍の戦艦ならば半壊させる威力がある。

 使用している砲弾は対荷電粒子対策に特化してある。劣化ウラン芯の周囲に単純な超電導コイルが巻き付けてある仕組みだ。その周囲を保護しているのがアブジュレーション用の保護樹脂被膜だ。単純だが、それでも衝突してくる荷電粒子をある程度無効化することができる。

 その措置がどれだけ効果があるのかはこの時点では未知数だ。

「行け! 行け! 行け! あいつらをぶっ飛ばせ!」

 リューダイ司令は展望窓から宇宙を睨んだ。熱で輝くレールガン砲弾が見える気がした。その飛来する先にある邪神船の巨体も。



 戦艦ベーダは巨大な電磁環を展開してスリング・サポートを行っていた。高速で飛来するレールガン砲弾の軌道を調整する役目だ。

 戦艦本体はイタカの航路前方にステルスモードで浮いている。船体表面を漆黒の無反射被膜で覆っている。さらには少量のイカスミも散布してそのどでかい船体をうまく隠している。機動噴射も行わないので、高精度の観測機器で集中走査しない限りはそこに居ることはばれないはずだ。

「来たぞ」

 アーダイン艦長は誰に言うでもなく呟いた。

 戦艦ベーダのブリッジに詰めかけているのは十人ほど。全員が大人しく席についている。どの席も緊急時の衝撃緩和カプセルに化けるので、戦闘中は基本的に席を立ってはいけない規則になっている。

 敵のすぐ鼻先でレールガン砲弾の軌道の最終調整を行う。その存在が邪神船イタカに知られたら、真っ先に撃墜の対象とされる。極めて危険な任務だ。

 邪神船イタカは全長十キロメートルあるが、棒状なので正面から見ると意外と見える面積は小さい。スリング・サポートが無ければ命中は難しい。

 戦艦ベーダの無数の計測機器が迫って来るレールガン砲弾の軌道を計測し、電磁環の出力を調整する。レールガン砲弾は電磁環を潜るとわずかに軌道を変え、正確にイタカの先端に照準を定め直す。

 レールガン砲弾の運動量が変化した分だけ電磁環に反動が走り、それを受けた戦艦ベーダがその大質量にも関わらず、わずかに身震いする。

 アーダイン艦長はスクリーン上の輝点を食い入るように見つめる。

 邪神船イタカを傷つけることのできる二種類の武器の内の一つ。いま自分はそれに関わっているのだ。



 先制攻撃。

 迫りくるレールガン砲弾に気づいてここまでただ静かに進むだけだった邪神船イタカは初めて反応を見せた。

 ハローを噴き出しながらイタカの全長を構成する超大型荷電粒子砲身が活動を開始する。

 すべての電磁周波数帯に数十億ボルトの叫びをあげながら青く輝く光の道が邪神船イタカから伸びた。それは漆黒を背景として神が光の筆で描いた線のようにも見えた。青の光の先端が居並ぶレールガン砲弾の列に届くと、そのまま一筆書きですべての砲弾の軌道を一気になぞりあげた。

 超高エネルギーの連続放射3秒。人類軍が遥かに届かない科学技術の極み。

 砲弾が作り出す防御電磁界にビームが弾き飛ばされる。大量のエネルギーが宙に散逸して美しい華をそこに咲かせる。だが砲弾の抵抗も空しく、その防御を越えて続く荷電粒子の奔流が砲弾本体を洗う。重粒子により加熱された弾体が呆気なく蒸発して金属の蒸気へと変わる。

 数発の砲弾だけが完全には蒸発せずにまだ飛んでいる。だが軌道は元のものからずれ、結果としてそれは邪神船イタカを大きく外した。


 人類軍初撃。すべて迎撃されて終わる。


 観測艇イシュタールの船内で歓声が上がる。

「対ビーム措置は効き目があるぞ!」叫んだのは井坂技官だ。

 デュラス技官がうれしそうに手をすり合わせた。

「きっとイタカも慌てているぞ。これで次は砲出力を上げざるを得ないぞ」

「ボールボール」とライズ技官。いつもの呟きだ。

「ボールボールって何?」レイチェル技官が訊ねた。

 それに答えたのはライズではなくて、デュラスだ。

「三匹の山羊の兄弟という物語に出てくる兄さん山羊の唸り声だな。古いおとぎ話だよ」

 それを聞き井坂技官が呆れた。

「凄いな。どうして知っているんだ?」

「前に集合知性AIを使ってネオ・ウィキで調べておいたんだ」デュラス技官は答えた。

 横でライズ技官が頷く。


 井坂技官が指でコツコツとテーブルを叩く。それに反応して、たったいまイタカが行った迎撃ビームの計測結果が出る。数値はそれがギガトンクラスの核爆弾に匹敵する今までで最大の出力であることを示している。

「やはりレールガン砲弾には警戒しているな」

「運動エネルギーは偉大なり。ニュートンを崇めよ」

 デュラス技官が混ぜ返す。その横でもうどうしようもないとレイチェル技官が肩をすくめる。


 戦況を示すスクリーンの右上には数字が出ていて、今は2の数値が輝いている。

 表示されているのは人類側の勝利確率を示す数値だ。現在の情報から高度に戦術シミュレーションした結果から出る数値だ。人類側の行動の結果で戦果が挙がった場合は数値は増え、邪神軍の戦果では逆に減る。

 これがゼロになったときには速やかに撤退命令を出すと井坂技官は決めていた。


「よし、次が始まるぞ」井坂技官が指摘する。



2)


 邪神船イタカの前方に展開していた戦艦群が行動を開始していた。

 ビヒモス級戦艦は全長612メートル、重量980キロトンの人類軍最大の艦だが、邪神船イタカと比べると長さですら二十分の一でしかない。

 総数百隻の戦艦は壮観な眺めのはずだったが、俯瞰図の中では帆を張った邪神船イタカという巨象の前に散らばった小石にしか見えない。

 相手と比べて自分たちの卑小さに苦しむことになるとは、戦艦の艦長たちは想像もしなかった。いつもの戦場では戦艦の威容で周囲の艦を圧倒する側なのだ。


「パラソル展開」全艦に指令が飛んだ。

 戦艦の前方に回転するドラムが撃ちだされた。ドラムが分解すると内部から完全黒体のシートが展開される。それは激しく回転しながら遠心力でどこまでも広がっていく。

 あっと言う間に直径数キロメートルの巨大な円盤がいくつも広がり、戦艦の姿を邪神船イタカの目から完全に隠した。

 薄さマイクロメートル級の特殊素材の傘だ。あらゆる電磁波を吸収し、戦艦の姿はこの巨大な傘の背後に隠される。

「どうだ。イタカ。お前の光学系がこちらと大差ないのは知っているぞ。何も見えまい」井坂技官がつぶやく。


 頃合いよしと見て戦艦たちが攻撃を開始した。

 ミサイルが次々に投射される。小型ミサイルがほとんどだが、中型ミサイルもいくつか含まれている。それらは母体となる戦艦の周囲で戦隊を組むと遮蔽パラソルを迂回して邪神船イタカへと向かった。

 続いて戦艦艦首のレールガンが射撃を開始した。

 戦艦の中心軸を通る四本の艦載レールガンの砲弾はそのまま遮蔽パラソルを撃ち抜いて突き抜ける。余りにも薄いため遮蔽パラソル自体は砲弾に対して何の障害にもならない。ただ通り過ぎた後に小さな穴が開くだけだ。

 予め周辺にばら撒いて置いたステルス観測装置からの計測結果を貰い、パラソル越しでも正確な射撃ができる。レールガン砲弾は邪神船イタカの前面にガンガンとぶつかり火花を散らして蒸発する。それでもやはりイタカには傷一つつかない。

 邪神船イタカの砲身が次の射撃を行った。青の輝線が遮蔽パラソルを貫く。パラソルは燃え上がったが、その背後にはすでに戦艦はいない。遮蔽パラソルの背後でランダムに位置を変えていたのだ。

 戦艦アリストテリアのブリッジではライト艦長の額を冷や汗が流れ落ちた。

 今のはやばかった。逆の方向に転進していたら直撃だった。邪神船イタカの砲撃はこれだけの距離に関わらずに恐ろしく正確な上に、何より威力が桁違いだ。井坂技官の言では戦艦ならば二発までは耐えられるとの話だったが、実際には一発で戦闘不能になりそうだ。こうして間近で見るとその恐ろしさがよく分かる。

 自分たちが踊っているのは死の舞台だ。一歩でも踏み間違えれば命はない。それが改めて理解できた。



 邪神船イタカの帆膜が少しづつ熱を帯び始める。同時にその船体から生体艇が次々と這い出して来ると飛び上がった。

 無慮数百というハチが新たに湧き出して来る。

 トンボがその中に十数匹混ざっていた。どれも自分の足の間に何か大きなものを抱えている。

 彼らの目的は明確だ。

 遮蔽パラソルの反対側に出て人類軍の戦艦の位置を観測するのだ。


 すべて井坂技官の想定通りの行動であった。

 いったい何手先まで正しく予想できるだろうかと井坂技官は考える。その結果の先に人類の未来がかかっている。



「来たぞ。野郎ども。用意はいいか!」

 戦闘機隊隊長のアルマン中尉が通信機に向けて怒鳴った。

「ハチどもはパラソルの背後に出てこちらの戦艦の位置をカンニングするつもりだ。一匹たりとも通すな」

 集合通信機の中に繋がっている全員の雄叫びが一斉に入る。


 それを聞きながら、特殊作戦小隊のブルマン准尉は素早くスイッチを叩き、自分の小隊と通信を繋ぐ。

「バヌート。ファズ。準備はいいな?」

「行こうぜ。おやっさん」とバヌート少尉。

「ヤー。大丈夫であります。サー」こちらはファズ少尉。

「お前たち。もし生きて帰れたら、俺の部屋に一本だけ秘蔵のワインが取ってある。それで一杯やってくれ」

 この任務の内容を知っているだけに、誰もそれに異を唱えない。どのみち自分たちも生きて帰れる保証はない。それぐらい彼らの任務は危険なものであった。

 誰よりも邪神船イタカに接近しないといけないのだ。群れなす敵のハチのど真ん中を抜けて。

「湿っぽいのは無しですぜ。おやっさん」バヌート少尉が指摘した。

「違いない。俺も湿っぽいのは嫌だ。楽しくやろうぜ、クソったれども」

 そう言い返すと、ブルマン准尉はBGMのスイッチを入れた。デスメタルが流れ始める。

「ちょっと古いが俺の趣味だ。こう見えても昔はバンドを組んでいたこともあるんだぜ」

「いいね。おやっさん。陽気に行こう」バヌート少尉が返す。

「ありったけ撃ちましょう」とファズ少尉。


 頼もしい野郎どもだ。ブルマン准尉はそれを聞きながら思った。こういう奴等の中で生きるのが良い。こういう奴等と一緒に死ぬのが良い。俺は幸せだ。

 発進ボタンを叩きこんだ。大音響のBGMを圧するエンジンのエキゾストノートがすべてを圧した。



 ブルマンたちが戦っている戦域の反対側では別の戦闘機中隊が激戦を繰り広げていた。


 クラフト少尉の戦況スクリーンはハチのマークで埋まっっている。倍率を調整して周辺スクリーンを左目で捉える。右目はメインスクリーンを睨んだままだ。

 すでに僚機の姿は見えない。激戦の中で逸れてしまったようだ。従属ドローン機だけが忠実にもついてきている。

 戦闘機のコックピットは完全自閉式だ。直接外部を見ることはできないし、そもそもこの速度ですれ違う物体を視認できるほど人間の視力は鋭くない。すべて戦闘AIの補助が必要だ。

 従属する四機のドローン戦闘機に命令を出す。一番ハチの群れの濃そうな宙域に向けて増設ミサイルポッド内の対空ミサイル全弾を投射する。それは小さな火花の集団となってハチに襲い掛かった。

 対空ミサイルには低レベルのAIが搭載されていて、最初に指定された目標をどこまでも追跡する。ミサイルに搭載されているのは物騒なIECM爆薬だ。核兵器を除けば人類が持っている中では最大の爆発力を誇る。これが命中すればハチ程度はひとたまりもない。


 クラフト少尉の機は複雑な軌道を描きながら残りのハチに向かう。こちらに気づいたハチたちが尻を向けてそこに埋め込まれている艦載レーザーを発射する。

 ハチの針の代わりにレーザー銃を装備するとは変な奴らだ。ちらりとそう思った。

 人類軍の戦闘機の装甲表面は鏡面化してある。これはレーザーを反射するので、長時間レーザーを同じ所に当てられなければさほどの被害にはならない。さりげなくカバーに入った従属機が身代わりにレーザーを受ける。

 もう一機が攻撃中のハチにスマート弾を撃ち込んだ。それはハチに命中するとその体内を掘り進め始めた。恐らくは痛いのだろうか、ハチがデタラメな動きで宙を転がり回る。戦術AIが素早くその個体をマークし、脅威度が低いと記録し、攻撃対象から外す。

 その代わりに次に近づいてきたハチに素早くレーザーを撃ちこみ、そのまますれ違う。反転はせずに、勢いに任せて次の群れに向かう。

 敵の生体戦闘艇の戦術はわずかだが解析されている。致命傷を負った個体は敵に貼りつき自爆しようとするのだ。そういったヤツらは近づかずに放置するのが最善策だ。

 正面にワイバーンの姿が現れた。ワイバーンは大型戦闘プラットフォームと分類されている。足に何か大きな砲のようなものを抱えている。この大きさはつまり艦船を直接攻撃するためのものだ。

 従属全機に命令を下した。

 前方ワイバーン。全機一斉攻撃。相手が完全に死ぬまで撃て。



3)


 体内に無数に存在する脳がお互いにお喋りを止めない。

 止めようもなく興奮しているのだ。

 観測脳は突き出した眼柄を振り回しながら敵の姿を探し求めているし、戦術脳は報告された敵艦の位置から優先目標を判断しようとしている。

 特に体内メタボライザ脳は必死だ。

 戦闘時は爆発的なエネルギーの生産と熱の放射が行われる。

 威力は大きい代わりに荷電粒子砲は熱の湧き出てくる火山のようなものだ。砲身が過熱爆発する前にすばやく放熱しないといけない。全身を駆け巡る熱循環流体を砲身に流し込み、数万度になったそれを放熱帆膜へと送り込んで冷やす。これの繰り返しだ。船体の温度が上がれば上がるほど実効率は低下し、冷却か爆発かの瀬戸際に追い込まれる。


 中央統率脳は苛つきながらそれらのお喋りを聞いていた。

 本心を言えば、後方遠くに構えているヨグやアザトースが羨ましかった。

 イタカは突撃砲艦だ。突撃砲艦は高速で敵に突っ込み、誰彼構わず撃ちまくり、敵中に大混乱を引き起こした頃にはすでに戦線を離脱しているという形の運用に特化して作られている。

 つまりは敵陣ど真ん中に居座って戦い続けられるようにはできていないのだ。明らかに母船からの指示は突撃砲艦の戦術としては間違っている。

 だがそれも戦略上では仕方のない事情がある以上、愚痴を言ってはいられない。あまり文句を言っていると次のメンテの時期に戦術脳ごと自我を入れ替えられてしまう恐れがある。

 邪神子船イタカは数千年に渡り戦い続け生き延びてきたことに密かな自負を持っている。それが臆病を理由に破棄されるなどあってはならないことだった。今まで何万隻の敵を屠って来たのだ。役立たずとして破棄されるような不名誉なことにだけはなりたくない。


 前方の敵の布陣を見る。直上に展開するのは大型艦百隻。これが人類軍の全艦隊なのだろうか。大型艦とは言ってもイタカ本体に比べれば長さで二十分の一というところか。敵艦隊の全質量を合わせてもイタカの千分の一にも及ばない。技術格差を考えれば差はさらに開く。

 とは言え、実際には何が起こるのか分からないのが戦場と言うものだ。

 前の星での戦場もそうだった。絶対有利の状況からひっくり返ったのだ。

 各種族が発展させる科学には差がある。その中にはどうしてこんなものが発明できたのかと驚かされることも少なくはない。

 だがそのすべてを滅ぼして来たのが自分たちなのだ。そしてその中で最古参の突撃砲艦が自分なのだ。

 そう考えて、イタカは再び自信を取り戻した。

 改めて前方に布陣する人類軍を睨む。今度もそれらすべてを滅ぼして見せよう。

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