第17話 3ーc】木星会戦:作戦会議

作戦会議)


 井坂技官の顔が仮想作戦会議室の中に出現した。

「皆さま。お待たせしました。ただいまより邪神船イタカ迎撃作戦のブリーフィングを再開します」

 フェルディナント将軍の顔が映ると思っていたところに、代わりに技術局の井坂技官の顔が映った。予想外の事態に艦長たちの顔に困惑の表情が浮かぶのを見ながら井坂技官は言葉を続けた。

「恐らくは邪神軍のジャミングの結果だと思いますが、現時点では旗艦アドラとの一切の通信が途絶してしまっています。そのためフェルディナント将軍との会話が不可能となっています」

 全員の顔に隠しようのない安堵の表情が浮かんだ。

 艦長全員で組んで将軍を弾劾しようとしていたのだ。そうなれば将軍に従う各艦の管理AIと艦長の間での闘争が始まってしまう。この時代でも航宙船での反乱は死刑以外の判決は無い。


「そういうわけで通信が回復するまでは本作戦の最上位指揮官は次順の士官に移譲されます。つまり現在の本艦隊の指揮官は戦艦オー・ライド搭乗のサント・ギリアヌ中将ということになります」


 サント中将はこれも現場からの叩き上げだ。下士官時代から一貫して海賊退治で昇進してきた。猛将サントとして有名な人物だ。

 スクリーンの一つが注意を惹くかのように軽くフラッシュした。その中で一人の男が椅子から立ち上がった。年齢は七十を越えているが細胞賦活剤を使用しているので見た目は若々しい。

「ご紹介に預かったサント・ギリアヌです。では先任将校として指揮を引き継ぎます。

 続いて、技術局の井坂技官、君に作戦権限の一切を任せる。こちら側の戦術を皆に解説して貰えるだろうか?」

 予めの打ち合わせ通りの進行だ。井坂技官は背筋を伸ばした。

「わかりました」

 戦艦ブラッケンのリトリア艦長がそこで手を挙げた。

「井坂技官。ちょっとすまない。私は先ほどフェルディナント将軍から解任の通告を受けた。まだこの会議にいてよいものだろうか?」

 井坂技官は躊躇わずに答えた。

「戦時宇宙法では、この宙域を統括する通信ネットワークハブから地球の本部に通達が発信された段階でその決定は法的な効力を持ちます。具体的には木星採掘ステーション・ガンマの中央主通信レーザー施設がそのネットワークハブに相当します」

 一気に説明してから井坂技官はすまなさそうな顔をリトリア艦長に向けた。

「現時点ではこの通信ハブは宇宙局の出張支局であるこのイシュタールの権限下にあります。

 実に残念なことですが、現在ネットワークの地球へ向かう全通信容量は優先される大量の情報によりパンク状態です。この通信に比べれば、艦長への辞任命令通達の優先度は遥かに低く、現在の状況次第ですが恐らくは地球に向けて発信されるのは数日後になると思います。

 遺憾ながらそれまでは現職務を引き続き続けていただくことになります」

 井坂技官は深々と頭を下げた。

「技術局よりこの混乱と遅延を深くお詫び申し上げます」

 日本人はお辞儀が好きだなと思いながらも、リトリア艦長は胸を撫でおろした。それは他の艦長たちも同じであった。

 誰も口にはしなかったが、井坂技官はできる男だなと艦長たちは思った。規則よりも実務を優先するのは現場で生きてきた男たちの特徴だ。



 宇宙科学技術局が太陽系全域の航宙船の全権を握るようになってから幾久しい。

 これには宇宙ならではの特殊な事情が関係している。

 地球の海での船舶の航行に関しては航行管制局の権限は大きくない。それは各港の補給物資などに大きな余裕があるからだ。だからあくまでも管制の対象は運航する船同士の衝突を防ぐのが主眼となる。

 だが宇宙基地や採掘ステーション、航行援助ハブなどの物資容量は大きくはない。そのため太陽系内での航宙船の航行には燃料食料酸素などの各種必須資材の厳密な管理が必要となる。

 それを怠ると、戦艦などが寄港した際に補給物資が足りなくなる。そして宇宙では近隣には真空の宇宙空間以外は何もないので、補給物資が足りない場合は気軽に他の港に出航することはできない。出航すれば間違いなく遭難する。

 だからと言って艦艇がそのまま宇宙港に留まることもできはしない。宇宙港に新しく加わった人口を支えるだけの物資がないケースがあるためだ。


 有名な事件が戦艦ダブリン事件である。小規模宇宙ハブに寄港したはよいものの、ハブには十分な推進剤のストックが無かったため次の宇宙ハブに行きつくことが不可能になってしまったのだ。

 なにぶんその宇宙ハブの人口は通常で百人程度なのだが、そこに戦艦搭乗員四百人が追加されてしまった。その結果、新しく推進剤を作っている間に戦艦内の食料が先に尽きることになってしまった。戦艦内にも食料工場はあるが全員分を供給するには足りないことがそのとき初めて判った。

 その結果、ダブリンの艦長は苦しい選択を強いられた。

 つまり冷たい方程式である。物資が支えられる人数になるまで誰かが死ななくてはならない。

 最終的に宇宙ハブで働いていた全員が撃ち殺され、彼らの食料が略奪される結末を迎えた。

 ようやく必要な量の推進剤が溜まりこの地獄となった場所から戦艦が出航した後に、艦長が自殺することで宇宙軍の名誉はかろうじて保たれた。


 この事件以来、宇宙科学技術局には太陽系内のあらゆる情報が集められるようになった。航宙船の軌道計算から始まり、物資の補給、運搬制御、備蓄までの膨大な作業を一手にこなすようになったのだ。


 だがほどなく次の事件が起こる。

 宇宙港や宇宙ハブに取って航宙船の寄港は重要な収入源である。そのため、備蓄物資量報告を過大に行うケースが頻出していたのがその背景にある。ウチの港は使い易いですよという謳い文句だ。

 あるときエンジン故障のため駆逐艦が予定にない緊急寄港をしたときにそれが最悪の事態を引き起こした。

 またもや冷たい方程式である。

 今度は宇宙港は先手を取り、油断している駆逐艦を爆破して事件は終わった。だがこれは宇宙軍の恨みを買うことになった。元々はその宇宙港の偽報告が悲劇の原因なのであるから。

 二か月後その宇宙港が宇宙海賊に襲われ援助を求めたとき、なぜか近くを航行中の宇宙軍艦船の多くが故障を起こして急行ができなかったという始末に終わっている。


 長い長い議論の末に、最終的に技術局は各宇宙ハブに自らの人員を配置し、独自の情報網を築くことにした。そして技術局としての備蓄を各地に構築するようになった。

 その結果、宇宙航行のすべて、そして宇宙での作戦行動のすべてが技術局を通さないと不可能であることが明確になり、技術局の権限は宇宙軍よりも上になったのである。

 その結果が、この木星会戦が技術局の主導下で行われることに繋がっている。



「では今回の戦術について解説します。まずは邪神船イタカについてこれまでに判っていることをお浚いします」

 井坂技官はイタカの映像を出した。

「まず攻撃力。イタカの武器は二つ。一つは超がつくレベルの荷電粒子砲です。確認されている最大射程は千キロ。威力は大型核爆弾で例えるとメガトンクラスから場合によってはギガトンクラス。これは航宙艦の特殊装甲外殻二枚と内装船殻二枚を撃ち抜くのに十分な威力です。

 ビームの速度は光速の約1%、つまり秒速3000キロです。これを射程と組み合わせると、イタカは射程内の敵を0.3秒で攻撃することができます。これは我々の駆逐艦の最大機動でも回避は困難という予測を引き出します。

 要約すると、イタカは半径500キロメートルの距離内に入った人類側の艦船をすべて撃墜できるということです」

 仮想会議室内に緊張が走った。敵の脅威が再認識されたのだ。これが本物の会議室なら人間が放つ恐怖のフェロモンが色濃く匂っていたことだろう。

「もう一つはイタカの装甲の下に配備されている無数の生体艇です。前回の戦いでは千を越えています。恐らくはもっと多くの生体艇がイタカには収納されています」

「だが一つ一つの生体艇は強くはないとうちのパイロットたちが言っていたぞ」

 そう発言したのは巡洋艦アルバマバードの艦長ファイドだ。この巡洋艦は今回の戦闘における戦闘機隊の統率を一手に担っている。

「それは間違いありません。生体艇はこちらの戦闘機よりも脆弱な上に武装も弱いです」と井坂技官。厳しい指摘にもまったく怯まない。

「これは設計思想の違いです。我々の戦闘機はパイロットの養成に大変な金額と時間がかかります。そのため戦闘機は重武装重装甲で作らざるをえません。しかし彼らの生体艇はあくまでも大量生産の使い捨てです。これを見てください」

 スクリーンにハチが数体映る。

「同じハチでも大きさがそれぞれ異なるのです。彼らはサイボーグですが生体としての特徴の方が強く、恐らくその生産は普通の生物の成長と同じ形で行われています。推定ですがその成長速度に反比例するかのようにその寿命は短く、これが彼らの生体艇の戦術に影響しています。どの生体艇も自爆を厭いません」

「ひどい軍隊だ」誰かが吐き捨てた。

「その通りです。彼らは大量に産まれ、すばやく成長し、大群で襲い掛かり、すぐに使い果たされて死ぬのです。戦闘機というよりは使い捨てのミサイルだと認識してください」

 井坂技官はコムを操作した。

「では次にイタカの防御力についてです」

 イタカの表面がアップになった。

「この鱗に見える装甲板の強度は我々のものを遥かに越えます。中型クラスのレールガン砲弾を受けても傷一つつきません」

 どう見ても鱗にしか見えない装甲板がスクリーンの中で虹色にぬめった。まるで表面に油を塗ってあるかのようだ。

「基本的にイタカの周囲には強力な磁場が形成されているため我々のレーザー、粒子ビームの類は効きません」

「となると残るは核搭載ミサイルだけか」サント中将が指摘した。

「いえ、それ以外にも大型レールガンだけは効くと推測しています。その証拠に前回の戦いではスリング・サポート船が真っ先に狙われています」

「しかし防御は恐ろしく硬く、攻撃は超絶的に威力がある。果たして我々にイタカを倒せるものなのだろうか?」

「可能です」

 井坂技官は真面目な顔で答えた。

「可能なのか!」大人しく聴講していた艦長たちの間に緊張が走った。

「恐らくです。彼らの軍事技術は我々に比べると超越と言えるレベルにあります。しかしそんな彼らも克服できていない物理法則が一つあります」

 その場にいる艦長たちが耳を澄ました。

「それは熱力学です」

 観測艇イシュタールの中で、井坂技官の隣の椅子に座っているデュラス技官が呟く。

「熱力学は偉大なり。熱力学を称えよ。あやあ。あやあ。

 熱力学の父ロベルト・マイヤーを称えよ。あやあ。あやあ」

 井坂にはレイチェルがデュラスの脇腹を突くのが横目で見えた。デュラスが盛大に咳き込んだが、イシュタール船管理AIのアイはこれらすべての映像を正しくカットした。

 気を取り直して井坂技官は続けた。

「つまるところ、敵の弱点は過熱です」

 また難しい議論になるのかと身構えていた艦長たちの顔に安堵の表情が広がった。

「我々の兵器もそうですが、超高エネルギーを使う彼らの荷電粒子砲は大量の排熱を作り出します。それは彼らの動力炉の中で大型の核爆発が連続しているようなものです。イタカはそれらの熱を熱超導体を通じて帆膜へ流し込みそこで放射しています」


 映像は帆膜を熱で輝かせるイタカの姿に変わった。

「我々が狙う過熱は二種類です。まず砲身の過熱。これには敵にビームを無駄撃ちさせることが必要です。撃てば撃つほど砲身は熱を帯び、最終的には過熱と冷却を交互に行いながら撃つことになり、射撃回数が激減します。

 もう一つは船体全体の過熱です。彼らの動力は恐らく反物質か縮退炉だと推測されていますが、どんな動力源でもそれからエネルギーを得るためには熱を外に捨てることが必要です。それができない限りはエネルギーは産み出されません。つまりこちらの狙いはイタカの帆膜です」

 白く輝く帆膜が拡大された。

「この帆膜も大変に丈夫です。しかし中型レールガンの砲弾で撃ち抜けることが分かっています。帆膜が損傷すれば船体の過熱を防ぐ方法はなくなります」

「可能なのか?」またもや誰かが言った。

「可能です。どうやってこれだけの熱に耐えているのかは不明ですが、それでも限界はあります。過熱して行ったどこかの先で、イタカの砲身は爆発するし、船体は動かなくなります。それからゆっくりとイタカを撃っても遅くはありません」

 映像は作戦図に切り替わる。

「もちろんイタカも馬鹿ではありません。できる限り熱の発生を抑止しようとします。

 つまりできるだけ効率的に射撃をするということです。

 こちらの戦略は、イタカに攻撃を抑止した状態では我々の猛攻を防ぎきれないと思わせることです。過熱が進みイタカの動きが鈍くなってからが我々の攻撃の本番となります。そのため我々の最初の戦略は欺瞞と回避が中心となります」

 井坂技官は作戦の説明を開始した。

「ステルス探知技術については邪神軍も人類軍も技術に差はありません。その部分だけ彼らの技術に穴が開いているようなものです」

「その理由は?」サント中将が訊ねた。

「不明です。彼らはカクレンボ遊びが嫌いなのだと考えるしかないのです」

「分かった。続けてくれ」

「イタカには後方に大きな死角があります。荷電粒子砲のビームは発射時点で電界をかけることで曲げることができますが、曲げた時点でエネルギーが電磁波の形で放出され散逸してしまいます。つまりビームを曲げれば曲げるほど威力が落ちます。前回の戦いで判明した情報ではビームの最大湾曲角は十五度程度です。つまり一度イタカの横を抜けて後ろに回りこめばこちらが一方的に撃てるはずです」

「だがそううまく行くのか?」

「もちろんかなり難しいです。なにぶん射程距離が大きいので背後に回りこむ間に撃たれます。またイタカの後方は直衛生体艇の密度が大きくなっています。簡単には近づけません」

 艦長たちの顔が険しくなった。

「さて、以上述べたことを勘案して技術局が立てた作戦がこれです」

 戦略スクリーンに配置図が出る。三次元に配置された各艦の名称とクラスが表示される。時間軸ごとに変化する配置が手に取るようにわかる。

 最初の配置を見てサント中将の顔が曇った。

「イタカ前方に戦艦と巡洋艦を総力配置するのか。これではアホウ・・いや、フェルディナント将軍の案と変わらないのでは?」

「全然違いますとも」井坂技官は微笑んだ。「サント中将。戦艦の一番の特徴は何でしょう?」

「それは攻撃力に優れ、防御力に優れるところだ」

「そうです。そしてその攻撃力に注視したのがフェルディナント将軍の案でした。ですが技術局のこの作戦は戦艦の防御力に注目したものです」

「というと?」

「戦艦の皆さま方にはある重要な役割をしてもらいます」

「うん?」

「つまり囮になって貰うということです」

 一瞬間が空いた。

「囮になって撃たれろと? しかしイタカのビ-ムは戦艦の装甲を撃ち抜けるのだろう。一撃で沈んでいては囮にも何にもならんぞ」

 サント中将が抗議した。

「大丈夫です。前回の戦いの教訓から、戦艦の装甲には対荷電粒子処理が加えてあります。少なくとも一撃では装甲が蒸発するだけで船体内殻は耐えることができます」

「ということは一撃は防げると?」

「いいえ、二回です。一撃受けた後は船体を回転させて無事な側の面をイタカに向けるようにするのです。それで二回まではイタカの砲撃に耐えられます」

「ずいぶんと無茶な話だな」

「無茶は承知の上です。他に方法がありません」さらりと井坂技官は答えた。

「ではそうやってイタカが限界に達した所で戦艦全部が反転して撃つという話か?」

「いいえ」井坂技官はニヤリと笑った。

「我々が持つ中でイタカに本当の意味で損害を与えることができる武器は現時点では二種類しかありません。

 その内一つは採掘ステーション・ガンマに設置された大型レールガンですが、これはイタカも警戒しており、攻撃が成功する可能性は皆無でしょう。レールガン砲弾を当てるためにはビームでの迎撃が不可能な距離までイタカが近づくのを待つ必要がありますが、残念ながらイタカの荷電粒子砲の射程の方が長いのです。

 射程内に入り次第、イタカは基地のレールガン砲列を破壊するでしょう」

 再び画面が切り替わる。そこにずんぐりとした物体が映る。

「これがそのもう一つの武器です。ただし製造が極めて困難なのでわずかな数しか製造ができませんでした。そこで我々の切り札は駆逐艦となります」

「駆逐艦だと!」

 艦長たち全員の目が大きく見開かれた。


 その後も井坂技官の説明は続いた。すべての説明が終わると会議室は静まり返った。

 その沈黙を破ったのはサント中将だ。

「教えてほしい。井坂技官。宇宙技術局はこの作戦の成功率をどのぐらいと見ているのかね?」

「シミュレーションでは成功率は・・」井坂技官は言い淀んだが、意を決して続けた。「2%です」

 仮想会議室がざわめきで埋まった。

「それもすべてがうまく行った場合の話です」

 アーダイン艦長が立ち上がった。

「だが、ゼロではない」

「そう、ゼロではありません」井坂技官が頷き返す。

「2%か。それならばやる価値はあるな」とサント中将。

「はるばる木星まで来て手ぶらで帰るわけにも行きませんからね」戦艦ブラッケンのリトリア艦長が軽口を叩く。

「よしやろう」

 そこにいた全員が頷いた。



 その夜、井坂技官は緊急通信で起こされた。

 通信映像に映ったのはブルマン准尉であった。皺の刻まれた顔がアップになる。

「ミスター・イサカ。頼みがある」

「はい、ブルマン准尉。何でしょう」

「実はな・・」

 その内容に井坂は驚愕した。

「本気ですか。ものすごく危険ですよ」

「承知の上だ。早く行ってやらないとあちらで酒盛りしようと待っている仲間が焦れてしまうからな」

 顔の皺をゆがめてブルマン准尉が笑うのを見て、井坂は決心した。

 元より今回の作戦に対する保険がもう一つ欲しかったのだ。今やすべての人類の命運がかかっているこの会戦で一つ二つの命を惜しんでいるときではない。1%でも2%でも作戦の成功する確率が上がるならば、掛け金としての命はいくつ積み上げても足りないのだ。

「分かりました」

 手元のキーを叩く。

「TRー243工廠に戦闘機を運んでください。到着次第作業に入ります。二時間ほどで装備できます。でも扱いには気をつけてください。操作マニュアルは今送ります」

「助かる。そして有難う」

 通信は切れた。

 眠れなくなった井坂はコーヒーを一杯いれた。

 再びコールがあり、井坂はコムに手を伸ばした。

「どうしました。ブルマン准尉?」

 そこまで言ってから相手が違うことに気が付いた。テロップに所属が出る。

「バーンズ少尉。何か用でしょうか?」

「済まないがお二人の会話を盗聴した。准尉の様子が変だったもので、盗聴器を仕掛けておいたのだ」

「違法ですよ」

 バーンズ少尉はその指摘を無視した。

「俺も頼みがある。ちょっとした細工だ」

 強引な人だな、と思いながらも井坂技官はその先を聞いた。結局その頼みも聞く羽目になった。

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