第13話 2-B】来訪者

〔 太陽系近傍:垂直軸上方向:約2億キロ 2076/5/11 〕


 それは静かに水素収集ネットを閉じた。核融合炎を最小限度にまで絞っての長い長い減速工程がやっと終わったのだ。


 マイクロブラックホールを使った動力の方が効率が良いのだが、船体の大きさに制限があるため使えない。低効率の核融合では加速に制限があるので時間がかかってしまう。

 危うく手遅れになる所であった。


 すでにここへ至るまでの行程で集めた情報だけでも、太陽系で何が進行しているのかは十分に分かっていた。ここより先は積極的に情報を収集するフェーズだ。

 手持ちの材料を使ってきわめて細いワイヤーを創り出し、船体表面から繰り出す。最終的にそれは直径10万キロに及ぶ巨大な蜘蛛の巣を作りだした。

 ワイヤー自体は単分子鎖でできていて極細なので、星の光を背景にしてもその存在を見つけ出すことは難しい。

 蜘蛛の巣の狙いはあらゆる電磁放射波だ。それは太陽系を隅々まで監視できる性能を備えている。

 そうしてそれは大きな聞き耳を立てた。自分自身は存在の一切の証拠を残さずに。


 人類軍と邪神軍の最初の戦闘をそれはつぶさに観測した。

 人類側が明らかに不利だ。だが、まだ彼らを手助けすることはできない。それは極めて慎重に行わねばならない。邪神軍にこちらの関与を知られてはならないのだ。



 この船には三つの武器がある。

 一つ目は卓越したステルス機能。

 邪神軍ですらこの船は容易には見つけ出せないだろう。だがもし見つかった場合にはただちに自爆しなくてはならない。

 二つ目は内部に携えて来た莫大な科学技術情報。

 これが役に立つかどうかは人類の行動に依存する。

 三つ目は超新星化デバイス。

 だがこれは最終手段だし万能の解決法ではない。


 訪問者は小さな隕石に偽装した通信カプセルを地球目掛けて射出した。

 ここから先はいよいよ積極的にコンタクトを始める段階になる。


 この種族に未来はあるのだろうか?

 その問いの答えはこれから見つけ出さなくてはならない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る