第4話 1-B】潜航

〔 地球 衛星軌道:2072/3/01 〕


 それは羽ばたきを終えると、宇宙空間中で静止した。

 その体を構成する素材のほとんどは透明であり、ごく一部の透明にできない器官と機関は完全吸収体で真っ黒に塗られている。

 ほんのわずかの赤外放射だけがその存在を示す鍵となる。


 眼下に見えるは豊かな水と生命に恵まれた青い惑星。そして周囲には自分と同じ存在が二十体ほど到着しているはずだ。

 時間は充分にあった。

 ここまで使用して使い切った栄養包と羽を素材として再利用し、収集器を形成する。透明な膜が大きく広がり、新しい構造を獲得する。


 辺りを無数の監視衛星が飛んでいたが、こちらに気づくものはいない。そもそもステルスに特化して作られているのだ。注意されない限りは簡単には見つかるものではない。

 それは体を蠕動させて姿勢を変えた。受信体は眼下の惑星に、放射器は虚空へと向ける。

 それには最初から高度な知性は持たされていない。だが自分の使命だけは理解していた。


 これからこの惑星を捕食するのだ。

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