2「突破口」

(頭を回せ。なぜ貴族や騎士なんて身分の奴らが、奴隷を買おうとしている?貴婦人の方は乗り気じゃないけど、仕方ないてな感じ。女の子は、普通に仕事だからって様子だ。仕事で奴隷を買うってなんだ?取り立てとか危険な仕事をさせるための、使い捨ての奴を手に入れたいのか?

 でもそれだと文字が読める貴重な人材を探すとも思えない。普通にガタイのいいおっさんで良いだろ。そもそも体裁を気にする貴族が、奴隷を買おうってのがおかしい。文字を読める奴を探しているってことは、事務なり雑用なりでも、仕事を手伝える人が欲しいんだと思う。文字が読めれば書類の整理位は出来るだろうし、外に出す必要もない。

 でもなぜ、普通に人を探すんじゃなくて、文字の読める奴隷がいる?正規に雇えない理由があるのか?表に出せない仕事をやらせたいのか?)


 安い奴隷は労働力として使い潰されるか、魔法の人体実験に使われるのが普通だ。

 良くて精々、戦場で肉壁に使われるくらい。まともな武器も防具も貰えないので、99%以上は配属されてすぐに死んでしまう。俺だと99%じゃなくて100%死ぬ。


 とにかく安い奴隷を買う理由は、使い捨てるためだ。しかし金貸しが文字の読み書きができる奴を探しているとなると、事情が変わってくる。


(そもそも必要にかられた雇用なら、貴婦人が乗り気じゃない理由が分からない。だいたいあのテーブルに置いてあるダードの契約書……文字は読めないけど、ダードの値段の桁が数百Gになってる!ダードは50Gとかそんな値段の筈なのに、パプキンの野郎ボッタくってやがる!)


 パプキンが得をするのはどうでもいいけど。とにかく数百万円出す気なら、あの2人は安さを求めている訳じゃないらしい。

 ならなぜ?不明を妄想で埋めるのは好きじゃないけど、スパイやインサイダーになり得ない、世俗に柵のない人物を探しているのではないか。


(それだったら筋も通る!)


 金融の仕事をしているのなら、敵対会社のスパイが入り込んできてもおかしくない。日本なら法律で律してくれるが、この世界に企業スパイに対する処罰なんてない。つまりやられ放題だ。

 この2人が直近でスパイに痛い目に遭ったのならば、裏切る術もない奴隷を買って、そいつに仕事をやらそうと考えてもおかしくない。


(あの2人は人を雇わないといけない。けど正規の方法だと、またスパイが入ってくるかもしれない。ならどうする?きっと赤髪ポニテが、奴隷を買って働かせることを提案したんだろう。貴婦人は奴隷なんて従業員として使えないと乗り気じゃないけど、他に手がないから仕方なしに提案を受けるしかない訳か)


 普通に信用に足る従業員を募集して探せばいい?そう言う世界じゃない。

 農家は生まれながらにして農家だし、商人は生まれながらにして商人だ。家業を継ぐのが当たり前で、新卒や転職という概念は無い。


 商人が人を雇いたい時は、縁故採用や丁稚奉公などが主なルートになる。ただ一度そこにスパイが紛れ込んだのなら、新しいルートを開拓しなければいけない。


 従業員に混じったスパイを追放したなら人が減る。人が減ったら、採用して補充しなければならない。しかし新しい採用ルートを開拓するには時間がかかる。

 だから都市から離れたこんな場末の奴隷商人から、身元も分からない奴隷でも買うしかないのだろう。


(とにかくあの2人はリクルートをしているんだ!この機会を逃す訳にはいかない!)


「きみきみー、オデが羨ましいのかは知らないが、邪魔はしないでくれよー。こいつらは、文字を読める奴隷を探してるんだぜ」


 だっていうのに、ダードが眠たい事をほざいてくる。


「バカダードは黙ってろ!この人達が探しているのは、文字が読める奴隷じゃねぇ!ある程度学習能力があって、しがらみで裏切らない人材だ!本質で語れないなら、口を開くな!」

「な……?ななな!?字を読めるオデがバカ!?」


 なにを言われたのか意味が分からなかったのだろう。真っ赤な顔をして、ダードはぎゃーぎゃー騒ぎ始めた。

 ただそんなどうでもいい事に、気を割いている暇は無い。


 貴婦人がほんの僅かに、俺の声に反応したのだ。

 それでもこちらを振り向く様子はない。なら、俺が求める人材だと思い知らせてやる。


「赤髪のねーちゃん!俺に金を貸さないか!」

「え?私に話しているのか?」


 赤髪ポニーテールの女の子に声を掛けると、メチャクチャ驚いた顔をされた。女の子はどうしたものかと、貴婦人の顔色を窺う。

 貴婦人は何も言わないし、表情も変えない。喋れない訳ではないなら、試しているという印象だ。


「え~……と……」


 貴婦人が何も言わないので、女の子はあきらめた様子。俺の方を向いて、一応という風に聞いてきた。


「いくら貸して欲しいんだ?」


 やっぱりだ。

 こういう聞き方をするのであれば、恐らく赤髪ポニテは貴婦人の下で働く従業員。だったら俺が間違えるはずがない。


「俺はムラマサ!よろしくな。俺の値段は30Gらしい。だからそれを買える金と……いろいろ遊びにも行きたい!なあ、俺にいくら借りて欲しい?」


 ああ、30G。日本円で30万円ってのが、俺に付けられた値段だ。

 ちょっといい猫位の値段。ふざけ切ってやがる。

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