第1話 (3)

「よーし。それじゃ準備しますかー」 


 明日は物資の補給とツキの母親に関する情報収集をしなければいけない。

 どちらも大事なので準備は怠らない。

 

 この準備は一人で行う。本当は二人でやろうかと思っていたんだけど、アイは慣れない体で一日中移動していたせいで疲れた様子だった。フラフラとおぼつかない足取りで動くもんだから止めて窓際近くのベットで休むよう誘導する。


「何故ですか?私はまだ動けますよ?」

「いいからいいから……あとは任せてよ」


 自分も準備をしようと抵抗していたアイだけど、いざベットに入ってみたら案外居心地が良かったみたいだ。表情は動いてないけど感動しているのが伝わってくる。


 アイは元々体を持っていなかったから今日は新鮮だったと思う。

 俺ちゃん達が無意識に行っている体を動かすという行為を彼女は一から学ばなければいけなかったのだ。歩けているだけで十分すごいと言える。

 

 ベットで横たわるアイと話をしながら一人で明日の準備をしていると、窓の外にフラフラ宙を舞う白い埃のようなものが映った。


 興味をひかれた俺ちゃんは準備を中断して窓に近づいた。

 カーテンをちょっとだけ開いて曇る窓を服の裾で拭って、よく見たら白い埃のようなものは雪だった。

 この辺りで雪が降るなんて聞いたことがない、少なくとも俺ちゃんが昔来たときは降っていなかった。 でも、何百年も経てば気候も変わるか…。


「どうしたんですか?準備は終わったんですか?またサボりですか?──」


 何故か、急にアイがガミガミ言い出した。 

 たぶん、話が途切れたのを不審に感じたんだろう。俺ちゃんの予想だとむすっとした顔で起き上がっているはずだ。


 いくぞ!確認するために振り返るぞ!準備はいいか?俺ちゃんはできてない。


 背後でまだガミガミガミガミうるさく騒ぐ相棒を窘めるために勇気を出して振り返る。

 アイは影が落ちた顔でこちらを見ていた。鋭い眼光がこちらを覗いているが…よしよし…まだお怒りゲージが半分行ったぐらいの怒り具合だな。とりあえずごまかすためにクシャッと笑ってみせた。


「少しぐらいいいだろー。そんなことよりさ見てくれよ雪だぜ」


 素早く窓の方を向き直り、背後でガミガミガミガミうるさく騒ぐ相棒にも見えるようにカーテンを全部開いて見せた。

 アイが鳴らすガミガミ音が止まった。


「………きれい」


 アイは初めて見る雪が気に入ったのか、雪の一つ一つをじっくり見ている。雪の動きに合わせて体が少しだけ動くのを俺ちゃんはかわいいなと思った。


「どうだ?初めて見る雪は?」

「…記録では知っていましたが、本物はこんなにも綺麗だったのですね」

「そうだなー。あーツキにもこの景色を見せたかった」

「そうですね……きっと喜ぶことでしょう。ですが、途中で起こしてしまうのも可愛そうです」

「確かに、こんなにぐっすり眠っているなら起こすのはダメだな」

 

 寝ているツキの顔を見て二人でほほ笑んだ。起こさないようにひそひそ喋っていたけど一向に起きる気配無くぐっすり眠っている。


「ツキが起きている時にも雪が降って欲しいです」

「そうだな」


 隣のベットで眠っているツキの頭をアイはぎこちない手の動きで、傷つけないよう慎重に優しく撫でていた。

 それにしても昼間はあんなに暑かったのに雪が降るなんて不思議なことが起こるもんだ。別に気温が低いわけでもないし…おかしいな。


 しばらく雪を堪能した後、アイは静かに横になった。

 俺ちゃんもしばし一面真っ白の雪景色を堪能した後、窓から視線を外した。


 準備を再開しよう。


 今日は昨日以上に忙しくなる。

 アイと相談しながら予定を決めていく。

 慣れない街で買い物をして情報を集めて……そうだ!買い物はアンチョビおっちゃんの所で済ませよう。あの人の所だったら安心だ。

 あの人はこの辺りでもちょっと有名な行商人らしいから、俺ちゃん達が欲しい物資もきっと売っているはずだ。


 そうと決まれば早速準備に取り掛かるぞ!お──!。

 俺ちゃんは決意新たに腕を天に掲げた。


──ガッッシャン!。


──ゴロゴロゴロゴロ……。


──おい!待ちやがれ!……。


 その瞬間、外から男達の怒声のような音が聞こえた。

 すぐ反応して外を見る。宿屋の目の前にある道路で小さな女の子が三人の大人の男達に追いかけられていた。


「おいおいおい…」

 

 女の子は息も絶え絶えの様子で必死に走っている。その後ろを一定の距離を開けて男達が走っていた。

 子供と大人であれば脚力に差があるはずだ。いくら女の子の足が速くても限度がある。今だに追いついていないということは、襲う機会を伺っているのだろう。

 男達に追いつかれたら何をされるか分からない。もしかしたら、言葉にするのも恐ろしいほどの惨劇が待っているかもしれない。


 だけど、俺ちゃんは正義の味方じゃない。

 ヒーローのように困っているかもしれない人をむやみやたら助けるほど善良じゃない。人の事情というものは気まぐれに首を突っ込んでいいものではないのだ。

 俺ちゃんみたいに人ではないのなら、なおさら首を突っ込んだ時にややこしくなるだろう。何百億年も生きてきた俺ちゃんが培ってきた知恵だ。


 わかってる。


 もう学んだ。


 何度も助けて何度も裏切られたことがある。


 善良だと思った人がそうではなかった時の衝撃は一生消えない傷として俺ちゃんの心を蝕んでいる。


 だけど……。


 襲われそうになっている女の子がツキと重なる。


 ツキとそう変わらないだろう年齢の子が今にも暴漢どもになぶられようとしている。この現場を見つけて黙って見ているほど冷酷になれなかった。


「よいしょ」


 窓をガラガラと全開にして窓枠に立つ。


 風がビュービューと強く部屋に入ってきた。


 生暖かい風が涼しかった部屋をぬるま湯のように息苦しくしていく。


「行ってらっしゃい」


 その言葉に振り返るベットで寝ているアイが俺ちゃんのことを無表情で見ていた。腕は天高く上げられ手は親指を突き出したサムズアップの形をしている。

 表情を変えることが難しいならせめて、体で表現しようとしたのだろう。アイが纏う雰囲気は頼りがいのある相棒のそれだった。


 自分でも分からないが何故か笑みがこぼれた。なんだかんだ言って長年連れ添ってきた仲だ。俺ちゃんの行動を雰囲気だけを見て予測するのなんて造作もないことだろう。

 

 慣れない体に慣れない土地、不安がないは嘘になる。それでも送り出してくれたアイに俺ちゃんは最大の感謝を思った。


「あとはよろしく」


 窓枠を蹴って外に出た。


 え?何も装備しないで男達を追跡するのって?。


 大丈夫だ問題ない。

 この体は元の身体よりは装備も出力も落ちてるけど、その分身軽に作ってあるし、ちゃんと格納していた外装を付けて肌を守っておくから安心してほしい。


 足についた反重力装置でフワリと地面に着地する。地面に敷かれていた雪がフワリと舞い上がった。


 青黒い外装が鱗のように体中を覆っていく。最後に頭が覆われれば完成だ。

 角が頭部に生えてて西洋の甲冑を着た騎士に見える風貌だと思う。

 チョット禍々しいけど、そこは気にしないでほしい。誰にだって中二病の時期があるだろ?この外装はその時期に作ったものだから…。一度ぐらいドラゴン騎士になりたいと思うだろ?そういうこと。まあドラゴン騎士と言うよりメイド服と合わさってるからドラゴンメイド騎士だな。うん…属性盛りすぎ。


 さて、昨日通った道とは真反対の馬車専用道路に出た俺ちゃんは、少女と男達が通っていた方向を見た。

 風が強くなったことで、ただの雪が降っているだけだった天気が豪雪へと変わっていた。

 降り続ける雪のせいで見えにくい視界の倍率を変えて凝視する。


 見つけた。


 少女を追いかけている男達の背中が雪景色の中薄っすらと写った。


 できるだけ彼らに音が聞こえないように最小限の接地で足に力を込めて飛ぶように道路をかける。

 弾丸のようなスピードで走っているので景色が流れるように過ぎていく。

 男達との距離が残り数メートルの所で違和感に気づいた。


「おいおい嘘だろ。あの男こっちに気づいてないか?」


 あの男達ただの人では無いようだ。

 赤黒い外套を着た大男が自身の後方をチラリと見ていただけだが、確実に俺ちゃんの存在に気がついてた。どれだけ目が良ければ豪雪の中にいる小柄な存在にきづけるのだろう。

 大男は慣れた手つきで懐から出した物を肩越しに後方に向けて投げた。


 コロコロコロ……。


 丸い物体が俺ちゃんの足元に転がってくる。

 

 キィーーン…


「これってばく──


 ヅン!


 それが爆発しその衝撃で道路がえぐれ舞い上がった黒煙と雪が更に視界を悪くする。

 強烈な音で道路脇に建てられた建物の窓が順番に点灯した。それぞれの裏口からお揃いの外套を着た人達がぞろぞろ出てくる。

 皆一様にびっくりした顔で道路に突如できた穴を覗いていた。


「あっぶなかったー」


 俺ちゃんは爆発の瞬間、反重力装置の出力を最大にして上に飛び上がり難を逃れた。あと少しでも反応が遅れてたら大破はしないけど、注目の的になっていたことは想像に難くない。


 あの大男には恨みができたので建物の屋上に着地したらすぐさま探した。


 目が熱くなるほど酷使することによって、やっと吹雪の向こうに大男が着ていた赤黒い外套がちらりと見えた。


「あいつ絶対捕まえてやる!」


 今度は邪魔されないように屋上伝いで追跡する。これならさすがの男達も爆弾を使うことはないだろう。この国の民を人質に取るような真似だけど、もし危害が加わりそうになったら、すぐ守るぐらいの覚悟はあるから安心してほしい。


 走り出したらすぐ男達との距離が戻った。奴らも脚力だけは常人だったらしい。まあ猿人に比べたら比べ物にならないほど早いけどね。

 あちらさんもこっちの存在に気づいてるみたいだ。建物に被害が及ばないように針状のものを投げてきた。

 

 それらをくぐり抜けて後方にいる三人の中では一番細長い男に肉薄する。


 あらかじめ腕に備えられていた拘束装置で男を捕縛しようとした瞬間、その間を大男が割って入ってきた。右腕で男をかばい左腕で俺ちゃんの腕を掴んだ。


「兄貴!」

「うるせぇ!早くやつを追うんだ。こいつは俺が食い止める」

「ぐ…わかったぜ」


 大男の片腕をガッチリと締め付ける拘束具はギチギチと唸っている。赤黒い外套でフードを深く被っているので表情や体型はわからないけど、この拘束具が唸り声を上げるほどの筋肉量は見たことなかった。


「おいおいまじかよ……」

「ハッハッハ!生ぬるいぜ坊っちゃん。そんな鎧を着てちゃあバレバレもいいとこだ」


 大男は拘束具をバリバリと片腕の筋肉を膨張させただけで破壊した。字面だけでヤバさが伝わってくるでしょ?実際相対してみてほしい。ちょっと泣きたい気分になるぐらいには化け物だよこりゃ。


 腕をガッシリ掴まれた俺ちゃんは身動きが取れない状況になった。どんだけ馬鹿力なんだこの大男。


「この状況、普通ならお前さんをそのへんに投げ飛ばして終わるが、俺はイカれちまったからなー」


 大男の外套の隙間からボトボト爆弾が落ちてきた。こいつまさか自爆するつもりか?!。


 キィーーン…


「邪魔をするやつには容赦しねえ……ごめんな」


 爆弾が起動する寸前で大男は俺ちゃんを爆弾が落ちた地面に叩きつけて仲間の元へ走っていった。

 馬鹿力で地面に叩きつかれたから身動きが取りづらい。

 これは爆発に間に合わないと悟った。どうあがいても五体満足で助かることができないだろう。こんなことだったら、元の身体を家から呼んでおけばよかったとチョット後悔した。

 少しでも爆発の被害を抑えるために、近くのお店にある看板を下に敷いた。その上で片腕を看板の方に置くと被害が最小限で済むだろう。

 

 え?諦めないのかって?。


 この程度で諦めてたら俺ちゃんは家族失格だね。


 ヅン!


 爆発の衝撃が看板を伝って片腕へと移る。俺ちゃんの体は看板ごと空に吹っ飛ばされた。

 空中を回転しながら飛ぶ。これがフリスビーの気持ちだよ君たち、こんな拷問みたいなことよくできるね。


 いつもよりでかい月を見ながら遊覧飛行と洒落込む。


 お!追いかけられていた少女が旧国立公園に入っていくのが見えたぞ。大男も仲間と合流して中に入っていくのが見えた。


 片腕が崩壊していく。


 外装もどんどん剥がれていった。


 でも、被害はそれだけだ。看板が思いの外頑丈だったらしい。

 反重力装置を起動できずにバウンドしながら地面に転がり落ちた。最後の外装が剥がれ落ちてメイド服を着た状態に戻った。


 崩壊した片腕をかばいながら、大男が走っていった方向を走る。最初よりも遅いけど旧国立公園はそう遠くない距離にあるから大丈夫だろう。


 少女のかすかな悲鳴と男達の笑い声が聞こえた。


 だいぶ時間がないようだ。最速で現場につくように全速力で道路を走る。


 雪が俺ちゃんを惑わすように視界に纏わりついてきた。まるで邪魔をしているように感じる。もしかしたら、この先に行かせたくないのかもしれない。自然現象に意思など無いはずだが……一筋の不安が俺ちゃんの心を暗くした。

 だが、足を止めることはない。


「そこまでだ」


 旧国立公園の花畑に着いた俺ちゃんは足でブレーキを掛けながら男達を止めた。

 いつの間にか雪が止んでいる。豪雪だったにも関わらず花畑には雪一つ着いていない。


「ああ゛?何だお前さん。意外と根性あるな」


 さっき俺ちゃんに爆弾をこすりつけた大男が目の前まで来た。

 改めて見ると身長は俺ちゃんの元の身体と同じぐらいで、その顔はフードを深く被っているから暗くなっていて分かりづらいがガスマスクがちらりと見えた。

 奥にいる少女は二人の男に両腕をそれぞれ掴まれていて、身動きを取れない状態にされていた。白い外套を着ているので表情や体型などはわからないけど、荒々しい白い息と激しく上下する背中が少女が疲労しているのを如実に表している。


「その子を離してくれないか、痛がっているじゃないか」


 俺ちゃんの言葉を聞いた大男は鼻を鳴らすような仕草をすると、少女の方を一瞥する。


「お前さん外のもんだろ?俺達の事情を知らずによく首を突っ込めるな」

「ああ…知らない。もしかしたら複雑な事情があるかもしれない。が、そんなことは後から考える性格なもんで…ごめんね」

「はは!いい性格だ!ミミズぐらい気に入ったぜ!出会いが最悪じゃなきゃいい仲になってたかもな。仕方ない………その蛮勇に命じて引いてやるか」


 大男は少女の腕を掴んでいる男達に片手で合図を送った。その合図で男達が掴んでいた手を離して大男のそばに駆け寄ってくる。


「親分いいんですか?!せっかく捕まえたのに逃がしちゃって!!!」

『うるせい!もっと小声で喋れといつも言ってるだろ』

「すいやせん!」

「普通の声量で返事をするな!」

『すいやせん…』

『はぁーもういい。俺はお前たちが良いやつだということを知っているからな。今日だけは、そのいい性格に免じて許してやろう』

「ありがとうございます!!」


 何やらガスマスク越しにフゴフゴとやり取りしている。こちらまで話の内容が丸聞こえなんだが…そこまで悪い奴らでもないのかもしれない。何故か俺ちゃんの性格を気に入って引いてくれるらしいし、言えばなんとかなるもんだな。

 あまりにもあっさりしてるので怒りが冷めてしまった。

 

「なんかわからんけど、とりあえずありがとう」

「お…おう、お前さんも俺の想像より何倍も素直だな」


 大男は一瞬だけ目を見開いて驚いた後、歩き出した。大男達は俺ちゃんの横を通り過ぎるとき順番にバシッと肩を叩いてきた。


「まぁ頑張れよ。お前さんが突っ込んだ穴は存外深いぜ」

「「頑張れよ!」」


 部屋で考えてきたみたいな捨てぜりふを吐いて去っていく大男達を少女はつまらなそうな顔で見ていた。


 なにはともあれ無事に少女を守れたことを喜んでおこう。不穏な終わり方だったけど……。


 白い外套を着た少女は外套についたホコリやら土やらを叩いて落としていた。追いかけられていたはずなのに妙に落ち着いている。

 一通り落とし終えた少女は俺ちゃんの方をじっと見つめてきた。


 何だ…?。


 疑問に思った瞬間、彼女はクスクスと笑い出した。それを見て俺ちゃんの頭の中は疑問符が溢れ出してきた。

 

「フフ、ほっんと!最高だわ!あなたとっても素敵よ」


 少女は流した涙を拭ってフードを脱いだ。

 金色に輝く長髪が川のようになびき街灯に照らされ闇を照らした。昔生息していた猫のような目を細めて懐かしそうに笑っていた。

 一連の彼女の行動は絵画の一枚のように神秘的な光景だった。


「あーそれはありがとう?」


 褒められたら即感謝が俺ちゃんの辞書の第一行目に書いてある。だから、とりあえず感謝しといたけど…なんだか変な気分だ。


 頭の中で疑問が錯綜してる。この子のおかしな点を挙げればキリがない。

 まず顔が違う。今この星を支配してる猫人の、どの顔にも当てはまらない。その顔は旧人類であり俺ちゃんの生身の体の時と同じ猿人のそれだ。

 目も瞳孔が白く濁っている。

 特徴的な長髪は風が吹いていないのにフワリフワリ動いている。それが彼女の神秘性をより一層引き立てていた。


「あなた名前は何て言うの?」


 ボーとしてその場で突っ立っている俺ちゃんの顔を真っ直ぐ見つめている。その顔はさっきから浮かべている微笑みと同じものだったけど、何か…何か悪戯っ子のような表情に見えて仕方なかった。

 俺ちゃんは動揺を隠せないでいた。


「名前?俺ちゃんの名前は…RGN6っ!」


 失態だった…。本当の名前を口走ってしまった。

 同じ人間なのかもわからない存在に安易に名前を教えそうになって、慌てて下を向いて口をふさぐ。

 どうか聞こえていないでほしいと一筋の希望を内に秘めて彼女の顔を覗き見た。

 

 あーダメっぽい。


 目がらんらんと輝いているもん。


 なーんか笑みがどんどん玩具を見つけた子供のようなものに変わってるもん。


 それに距離が近い。顔の距離が近いよ。いつの間にここまで近づいてきたんだろう。


 やっちまったー……。


 獲物を見つけたネコ科のように彼女の体がうずうずしているのが目で見て分かる。終わったよみんな…。


「あなたあーるじーえぬしっくす?て名前なの?すごく変わった名前ね!この辺りでは聞かない名前だわ!」


 彼女のうずうずが頂点に達したようだ。顔が近すぎて俺ちゃん仰け反っちゃってる。みんな読んでないで助けてくれ!。


「私の名前はビリーよ!よろしくアル!」


 アルですか?これまた懐かしい名前を呼ばれたもんだ。何百年前に旅をしていた時は行く先々でアルって呼ばれてたっけ。

 懐かしい思い出を見ながら現実を逃避していると、ビリーがより顔を近づけてきた。花のようないい香りが俺ちゃんの鼻を刺激する。

 やがて、効果音ならニヒッとなりそうな子供のような笑顔で彼女は口を開いた。


「アル!私と友達になりましょ!きっとすっっっごくお似合いだわ!。私達」


……え?。


「へ?……」

「フフン」


 一陣の風が吹き花畑の花びらが舞い上がった。その中で太陽のように笑う彼女の目に映る月は、今日も綺麗だった。



 


 

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【今夜も月は綺麗です】100億年生きたロボットが家族を拾いました。 鳥ノスダチ @hitujinosige

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