第1話 (1)

 あれから大変だった。


 具体的に何があったのか教えろって?そう焦らないでくれよ。


 最初は自己紹介から始めよう。

 名前は【RGN6 /01】見ての通り機械の体を持つアンドロイドだ。

 身長は235㎝体重は多分94㎏。好きだった食べ物はリンゴ。


 よし!それじゃあ自己紹介も済んだし、教えよう何があったのかを。


 あれは月がまん丸で綺麗な夜だった。


 まず、休眠カプセルを家まで運んだ。


 俺ちゃんの家は浜辺から近くの森の奥にある丘の上だ。


 円形木造二階建て煙突付き、徒歩1時間圏内に町が一つある。昔はもっと巨大な塔だったけど、今は長い年月が経ったせいで大部分が丘の中。


 カプセルを運んでる道中、少しばかり機械生命体アニマロイド達がこの少女のことを食べようと攻撃してきたけど、俺ちゃんの脚力と武装で難なく蹴散らせた。まぁ腕一本取られちゃったけど…


 当然、休眠カプセルには傷一つついていないはずだ。慎重に運んだしこの目で隅々まで確認したからね。


 同居人の人工知能【アイ】は俺ちゃんが急に人間を連れて帰ってきたもんだから、びっくりした声を出してたよ。きゃ!なんて、何億年も共に過ごしてきたけどあんな声を聴いたのは初めてだね。


 アイは俺ちゃんができないことをしてくれる人生の最高のパートナーさ。

 ちょーと何百年間喧嘩してたけど、仲直り前の険悪な雰囲気なんて、この少女を連れてきたことでスキップできた。少女様様さ‼


 休眠カプセルをアイに任せて俺ちゃんはサプライズパーティーの準備に取り掛かった。


『お前が持ってきたんだからお前が開けろ!』て?


 おいおい、不器用な俺ちゃんがカプセルを開けようとしたら中にいる少女に傷が付いちゃんだろ。

 それにただ開けるだけじゃない、少女が生まれた時と今は空気中の濃度とかウイルスが全然違う。体を調節するための検査やら手術なんて繊細な作業できるわけないだろ。

 もっと普段から思慮深くならなきゃ、世渡り上手になれないぞ。


 さあ!そんなことは置いといて、サプライズパーティーには何が必要だと思う?


 飾り付け?天才だな!


 仮装?またまた天才だ!


 豪華な料理?おいおい、君は神様か!全知全能すぎる。今予知能力に目覚めたんだろ?

 こんなピッタリ言い当てる奴がいるなんて、もしかしてサプライズパーティーをつかさどる神様なのか?


 まぁ当然、俺ちゃんも紳士だから常識通りその辺にあった物で飾り付けをした。

 使わないパイプを三角に折り曲げて壁に等間隔に付けたし、仮装はとびっきり気合を入れた。豪華な料理は…まぁまぁ何億年前の携帯非常食レーションが偶然、腐らずに冷蔵庫に入っていたからそれに蝋燭を刺した。

 蝋燭が刺さってたら味気ない携帯非常食レーションも高級料理に早変わりさ。


 準備が完了したらちょうど、アイから少女の検査と手術などが終わったと連絡が来たんだ。


 少女は今だ混乱しているらしいが、そんなこと関係なかった。


 楽しみで楽しみで仕方なかった俺ちゃんは少女が居る部屋までダッシュで駆け付けた。


 そして、勢いよくドアを開けたんだ。スライド式のドアが軋む音を出したが関係ない。


「誕生日おめでとー!!!!」


 パーーーン‼パラパラパラー


 手に持ったクラッカーを勢いよく引いて少女を心から祝福した。


 画面に映るアイの目を丸くして驚いた顔と混乱している少女の顔は今でも思い出すね。傑作だった。


 この時、俺ちゃんは思った。作戦は完ぺきだってね。

 そしたらどうだい。


 少女は目を回して失神したし、アイにはハチャメチャに怒られた。


─そんな恰好をしていたら誰でも気を失います!バカなんです?─


 なんて、当時の俺ちゃんには理解が出来なかったけど、今だったらアイが何を言っていたかは考えればよく分かる。


 俺ちゃんは気持ちが先走り過ぎて、どぎつい牙をはやしたピエロの恰好だったんだ。

 二メートルを優に超える機械が殺人ピエロみたいな恰好で見下ろして来たら俺ちゃんだってオイルをちびっちゃうね。本当に申し訳ないことをしたよ。

 

 幸い目を覚ました少女は、そのことをすっかり覚えていなかったからラッキーだった。


 俺ちゃんはアイと二人で混乱している少女に色々なことを教えた。


 今の世界のこと、少女が生まれた時代からどれだけ時間が経っているかを懇切丁寧に教えた。


 でも、少女はあまり理解できなかったようだ。


 まぁ無理もない、だって検査結果を見るにこの少女の年齢は4~5歳だ。

 こんなちっちゃな子に、あなたの住んでた場所は海の中だよ!あなた以外皆消えちゃったの!なんて教えたところで信じないだろ?


 案の定、少女は親を探しだした。


 起き抜けでまだ力が入らないだろうに、家の中を這いずり回って探していたよ。

 それは少女の力が抜けるまで続いた。どれだけ止めても何度説明しても疲れるまで止まらなかったんだ。


 だから、俺ちゃんはこの時思ったね。


 この子の親探しを手伝おうって。


 この子の親はたぶんいや絶対死んじゃってるだろうけど、それでもこの子が納得するまでとことん付き合うと決めたのさ。だってほっとけないだろ?


 それからはあっという間だった。


 警戒心が強い少女のそばに俺ちゃん達はずっと寄り添った。


 寂しくて涙を流した夜。


 家を抜け出して森にいる機械生命体アニマロイド達に襲われたりもしてたな。


 少し打ち解けて畑を作った朝。


 そうそう、初めてお花を育てたよ。生き物を育てるのは難しいんだな。


 初めて蕾から花開いた時は三人で抱き合うほど喜んだ。もちろんその夜はパーティーさ。


 ちなみに、この時に俺ちゃんの名前が決まった。

 花開いたキクイモモドキから名前を取ってモモちゃんだった。アイが笑いながら提案して、それを少女が賛成したんだ。

 ちょっと俺ちゃんの外見とは色が違うけど、まぁ気に入ってる。


 そういえば、少女は自分の名前を憶えていなかったんだよ。だから、三人で朝から晩まで考えた時がある。

 考えに考えた結果、最終的に俺ちゃんが考えた【ツキ】になった。

 由来は恥ずかしいけど彼女が生まれた時、月が綺麗だったから。この理由を言ったらあの二人可笑しそうに笑ってよ!まったくひどいもんだ。


 この間にツキはすくすくと成長した。


 もう七歳になる。


 そろそろ、一緒に町に行くのもいいころだろうと思って昨夜、ツキが寝る前に約束したんだ。


「ツキ、街に興味ある?」

「うん!」

「実は…明日、三人で街に行こうかなーと思って」


 俺ちゃんが言い終わる前にツキが抱き着いてきてさ、俺ちゃんの顔を見上げて「行きたい!行きたい!」なんて言うもんだから、かわいくてかわいくて俺ちゃん泣いちゃった。


 町に行く約束を指切りげんまんしてツキは眠りについた。


 俺ちゃんとアイは眠る必要ないから二人で準備をしてたんだ。


 時間が経って気づいたら朝になってた。


 俺ちゃんが朝食の準備をしている時に二階からドタドタと走る足音が聞こえてさ。

 俺ちゃんは素早く階段の下について駆け下りてくるツキを抱きしめた。


「おっはよーー!!アイちゃんモモちゃん‼」

「おう!おはようツキ」

『おはようございますツキ。さぁ、こっちに来てください。身だしなみを整えますよ』

「ハハハ!はーい‼」


 幸せな朝はこういうものだったんだな……ほんと──


「──めっちゃ可愛くね?俺ちゃんの家族最高だろ?…それから」

「お~い、モモちゃんいくよ!」


 俺ちゃんが話していると後ろからツキに呼ばれた。

 どうやら、街に行く準備ができたようだ。


 椅子から立ち上がって二人のところまで歩く。


 二人は家の外で待っていた。


 ツキは白のワンピースに麦わら帽子で動物のような耳としっぽを付けている。おいおい、天使ちゃんかよ…


 アイは人工知能で体がないから、俺ちゃんが作った。

 身長はツキより少し高いぐらいで、顔はクールで大人っぽく、髪はベース黒で差し色の水色がポイントのウルフ。

 服は旧時代使用人メイド服を着ていて、もちろん耳としっぽが付いている。


 我ながらめちゃくちゃ綺麗にできたと自画自賛するよ。アイのことを考えて一晩で作ったからな!


「ツキ。ちゃんと耳としっぽ付けた?」

「うん!でも何でネコさんみたいに耳としっぽ付けないといけないの?」

『今から行く町が獣人が住む街だからですよ。同じ姿をしていないと警戒されるんです』

「へー分かった!」


 耳としっぽを付けた理由はまともだっただろ?変態じゃないことが証明されたところで俺ちゃんも体を変えよう。


 別にこの体で耳としっぽを付けて「にゃーん」なんて言ってもいいんだが。アイが凄まじい剣幕で睨んでくるから仕方ないんだ。


 身長はアイより少し高くして、顔は性格を反映した勝気で活発、髪はベース黒で差し色にピンクがポイントの高めのポニーテール。

 服はアイとおそろいの旧時代使用人メイド服で、もちろん耳としっぽを付けている。

 おいおい、俺ちゃん可愛すぎないか?これはモテちゃうな~


 体が出来たので早速、体を変更して二人に見せた。


「へへーん、どうだ!」

「モモちゃんかわいい!」

『…なんで私とお揃いなんですか?背筋がぞくぞくします』

「ふーん?素直にかわいいって褒めればいいのに!アイはかわいいなー」

『なっ‼ちが─』

「それじゃ!しゅっぱーつ!」

「おー!」


 三人並ぶと、どこかのお嬢様を護衛する双子のメイドみたいで映える。

 アー最高だ!いつか家族と旅行に行く夢がとうとう叶うんだ。


 俺ちゃんは幸せが溢れて過ぎてスキップしていた。

 

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