第38話 旅行の終わり 桜井side

「ふぁ〜……」


 隣からあくびが聞こえてきた。

 時間は昼過ぎ。お昼ごはんを食べてちょうど眠くなる時間。

 水族館でダブルデートをし終えた私たちは、帰路についている。

 帰るには早いかもしれないけど、明日から学校だから家で疲れを取るためにも致し方ない。


「もぉむりぃ……」


「えへへそこはダメ……」


 正面の席に座るカップルはお互いに寄りかかって、寝言を言ってる。

 

 付き合ってることを知ったときはどうなるのかと思ったけど。こうしてみると、この二人はお似合いのカップルだ。


 私も朝比奈くんとこういうカップルになりたいな。


「この二人が別れるところ想像できない……」


「ね。別れてほしいわけじゃないけど、あんなイチャイチャされて幸せなオーラ出されると妬いちゃうよね」


「最終的にダブルデートというより、デートについてきた友達みたいになってたし」 


 いつかこのメンツで本当にダブルデートをできる日が来てほしい。


 そのためって言うわけじゃないけど、この旅行で距離を縮めたくて結構頑張った。


 やっぱり一番は、割合をいじったお願いルーレットという強行手段をとったことだけど……。

 なんかずるしたみたい。 

 まぁ、命令じゃなくてお願いだし。今も続けてるってことは、朝比奈くんの意思でしてくれてるってことだよね。


 ……改めてそう思うときゅんきゅんするんだけど!


「ふぁ〜……」


「さっきから眠そうじゃん」


「誰のせいだと思ってるんだ誰の」


 そういえば昨日私が寝落ちしたとき、なにか言ったみたいだけど……何も覚えてない。


「で、なんて言ったの?」


「そんな聞きたい?」


「うん」

 

 朝比奈くんは即答した私を見て頭を抱えてしまった。

 

 なんでそんな言いづらそうにしてるんだろう。

 私が朝比奈くんを前に言うことなんて、たかが知れてる。

 ……いや、普通に考えて言いづらいことはたかが知れてることじゃないのか。


 熟考してる私をよそに、朝比奈くんはアイマスクをつけてしまった。


「ちょっとちょっと待って。私はなにを言われてもいい覚悟できてるから、言いづらくても言ってほしい」


 ぐっと力強く朝比奈くんの目を見たけど。

 一度上げたアイマスクを元の位置に戻し、リクライニングを倒してリラックスし始めた。

 

 もう諦めるしかないかな。

 これだけ言うのを拒否するってことは、とんでもないことは間違いない。

 

 モヤモヤが払拭されず、気晴らしに朝比奈くんのアイマスク姿を眺めていると。


 閉ざされていた口が突然開いた。


「好きだよ」


「……へ?」


 この人いきなり何言ってるの!?


「そう、言ってた」


 「好きだよ」だなんて言葉、もう告白じゃん。


 なに言っちゃってるの寝ぼけてた私……。

 

 というか、なんで朝比奈くんはそんなこと言われても普段通りにしてるの?

 もっと動揺してほしいんだけど。


 たしか昨日の夜はバルコニーの椅子に座ってた。

 その前にしてた会話ってなんだったんだろう? 

 

「ねぇ、それより前に話してたことは?」


「…………」


 寝てる。

 

 私の失言のせいで寝不足だったらしいから、叩き起こすのはさすがにできない。


 肝心なところを聞けなくてお預けなんて……。

 

 もしかして朝比奈くんもこんな感じだったのかな?


 その後私も寝ようとしたが、気になって寝付けず。

 到着するまで、一人電車の窓から変わりゆく景色を楽しんだ。


 後味は悪いけど。

 人生で最高の旅行になったのは間違いない。




【あとがき】

 いつもありがとうございます

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