第35話 旅行先でのチャット
夕食を食べ終えた俺たちは、それぞれの部屋に別れた。
と言っても、後は寝るだけ。
部屋には布団が敷かれている。
いつもだったら「恋バナをしよう!」と言い、なかなか眠らせてくれなさそうな雷也はというと。
「俺は……ロマン……男のロマン……ごめんなさい……」
よほど彼女から説教されたのか、布団に包まりブツブツ呟いている。
めちゃくちゃ怯えてるんだけど。
本当に何があったらこんなふうになるのやら。
まぁ、そのおかげで面倒くさそうな雷也が封じられているので何も見てないことにしよう。
「ふぁ〜……」
布団に転がりスマホをいじっていると、あくびが出てきた。
あんま疲れてないと思ったけど、疲れてたのかな。
明日は水族館に行くとか言ってたし備えないと。
そう思い、スマホを消し横になろうと思ったとき。
「ん?」
夢さん……いや、ドリームからのチャットの通知がきた。
内容は今日旅行中に撮っていた画像だ。
海、ゲームセンター、豪華な料理。
ところどころガラスに反射して夢さんが映っているが、指摘するべきではないか。
ドリーム:定期的に画像送れなくてごめん。もしかしてさみしくて泣いちゃったかな?
相手を煽るためだけに創られたであろう、あざ笑うネコのスタンプか送られてきた。
ショウ:別にさみしくて泣いてなんてないし。……そんなことより、この画像いい感じじゃん
ドリーム:抽象的だね
ショウ:いやいや。本当にいい感じ。SNSにあげたら伸びるんじゃない?
ドリーム:ショウのために撮ったからSNSはいいかな。でも、それくらい良く撮れてたんだ。うれし
文字だけだからわからないけど、スマホ画面を前に口角を上げている夢さんが容易に想像できる。
ショウ:旅行楽しい?
ドリーム:すんごい楽しい
コピペしてあったかと思うほど即答だった。
ショウ:なら俺とチャットしていいん?
ドリーム:ショウとのチャットも楽しいから
ショウ:とか言いつつ?
ドリーム:一人ぼっちの人に自慢したかった
ショウ:おいおいおい
ドリーム:言わせたほうが悪いでしょ!
「ふははっ」
絶対本心から思ってたことでしょ。
ドリーム:でも、そろそろ一緒の部屋にいる人が帰ってくる頃だからおちる
ショウ:おう。旅行楽しむんだぞ
ドリーム:おつ
「随分楽しそうじゃん」
ちょうどチャットが終わったとき。
すっかり元に戻った雷也がニヤニヤしながら話しかけてきた。
「なんだよ」
「いや別に。温泉でも言ったけど、とうとう翔太にも春が訪れたんだなぁと」
「いや。これは生きる上での楽しみ的な?」
「そういうことにしとくか」
事実を言ってるだけなのに、なんで裏があると思ってるんだ……。
その後、思い込みが激しい雷也に散々振り回され。
見当違いなことを色々質問され続け、雷也が満足して布団に戻った頃には寝るのにはいい時間になっていた。
このまま寝てもいいけど、せっかくだし夜の空気を味わいたい。
俺はすぐ寝ついた雷也を起こさないようそっと動き、バルコニーに出た。
「きれいだな……」
今日は雲ひとつなく、満月がよく見える。
一人で見る夜空は格別だ。
置かれていた椅子に腰かけ、ゆったりしようとしたときだった。
「ん? 朝比奈くん?」
壁で仕切られた隣のバルコニーから夢さんの声が聞こえてきた。
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