第33話 温泉

 あの後、雷也たちと合流した俺たちは。

 バスに揺れ温泉旅館まで戻り、タオルなど諸々取り、早速温泉に入ることになった。

 

 どうやらこの温泉は香りがすごくいいらしい。


【日々の疲労が嗅覚と共に流され、とろけるような体験を】

 などと書かれているが、俺と雷也にはそんなこと見る余裕なんてなかった。

 そう、この温泉は電車で言っていた「混浴」があるところなのだ。もちろん俺たちがいるのは男湯ではなく、混浴。

 

「い、いいか? 開けるぞ? 開けるからな?」


 すっぽんぽんになった俺たちはゴクリとつばを飲み込み、楽園への扉を開け……。


「誰も人いないじゃん」


「…………翔太。俺たちは心に決めた女性がいる身。そんなガッカリするところじゃないぞ」


 お前が一番ガッカリしてるだろ。


「「はふぅ〜」」


 頭と体を洗った俺たちは、早速温泉の中に入った。


「さすが温泉。普段入ってるお風呂と全然違う。……ここに誰かがいれば完璧だったかも知らないけど。混浴なのに……。男のロマンが……」


 あまりにもガッカリしているのか、徐々に体が温泉の中に沈んでいってる。


 ……果たして彼女がいる雷也がこんな風でいいのだろうか?

 俺は知らない。何も知らない。


「実際のところ桜井様とどんな感じなの?」


 いつの間にか落ち着きを取り戻した雷也が、とろけた顔を向け唐突に場違いな質問をしてきた。


 こういう恋バナって夜やるもんじゃないの?


「沈黙はいい感じってことで受け止めるけど」


「……あのな。何度も言ってるかもだけど、そういう関係ではないから。普通に共通の話題で盛り上がる知人? かな」


「? が出てくる時点で、知人ではないと思う」


 鋭いところを突いてくる。


「俺にもよくわからん」


「ほう。つまり普通の知人ではないと、そういうことか」


「まぁ、普通ではないな」


 ネットを通じて片思いされてるし。


「とうとう翔太にも春がやってきたのか……」


「そんなことより俺は雷也のことを聞きたいんだけど。いつから付き合ってるんだよ」


 その後も俺たちは話に花を咲かせ、のぼせる寸前まで二人だけの混浴を満喫した。

 


  ▲▼▲▼



「一緒にお風呂に入りたかったらいつでも入るのに、なんで混浴にいるの」


 あの二人は気づいてないっぽいけど、混浴は女湯の隣りにある。なので、人がいないこともあってこれでもかというほど二人の会話が丸聞こえ。


 まさか朝比奈くんも混浴に行くとは思ってなかった。……今はそんなことどうでもいい。


「普通ではないってどういう……」


 朝比奈くんもそういうふうに見てくれてるってことなのかな?


 全然ハッキリしたこと言わなかったから、頭がモヤモヤする。

 二人っきりのときお礼だけじゃなくて、そこら辺詰めればよかった。


「ふぅ」

 

 欲を言うと、この温泉旅行でちょっとは今の関係から進展したいな……。

 

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