第31話 ズルい

 海で数時間過ごしたあと。

 俺たちは近くにあった海鮮丼屋で昼食を取りひと休憩し、ある場所へ向かった。


 そこはキラキラ光り、様々な音が鳴り、とても見覚えのある場所。


「やっぱゲームセンターって言ったらレースゲームでしょ!」


 ウキウキでレースゲームをしようと100円玉を投入し、早速遊ぶ雷也。

 

「お、おぉ〜夢ちゃんなかなかやるね」


「今までやったことないけど、意外と私これ才能あるかも」

  

 桜井さんとその友人はエアホッケーで遊んでいる。


 俺は特に何もしてない。

 呆然と雷也のレース画面を眺めながら、なぜ温泉旅行にまできていつでも行けるゲームセンターに来ているのか考えている。


 もちろん、よくわからん。


「なぁ雷也。なんでゲーセンなんだ?」


「ちょちょ今話しかけないでくれ! もう少しで逆転で一位に……よっしゃ!」


 レースゲームを終えた雷也は、やれやれと呆れた様子で立ち上がりエアホッケーをしてる二人に目を向け。


「あのな。実のところ、行くところがないんだよ」


「……温泉旅行じゃなかったっけ?」


「温泉は時間を逆算すると、夕方くらいから色んなところに入った方がいいんだよね。夕食、みんなで食べるしさ」


 たしかにその通りだな。


「まぁ近くに水族館があることにはあるけど、あそこは明日行く予定だし……。あっ、もし桜井さんと一緒に別行動取りたくなったら取ってもらって構わないからな。後で一緒に温泉入る時間、連絡しておくし」


 雷也はそう言い残し、エアホッケーに勝ったらしくウキウキしてる彼女とプリクラがある方へ消えていった。


「才能ないじゃん。ボコボコじゃん」


 俺も。いや、俺たちもせっかくだしゲームセンター楽しむか。


「桜井さん。一緒にクレーンゲームの方行きません?」


「っ! 負けないよ!」


 クレーンゲームに勝ち負けないと思うんだけど。



  ▲▼▲▼



「すごくお金がもったいない気がする」


 早くも両替機に1000円札を投入した桜井さんは、至って冷静なことを言いながらも100円玉に両替えしていた。


「あの、やめません?」


「でもあの大っきいクマのぬいぐるみ、可愛かったよ?」


 最初は勝負するめに始めたが、もう忘れてる。


 クレーンゲームに夢中になってる桜井さん、結構絵になってたけど。


「可愛くても、俺たちで合わせて2000円分使ったのにとれないので諦めましょうよ。そもそもあのぬいぐるみ、持って帰れなくないですか?」


「……たしかに」


 桜井さんは手に持っていた大量の100円玉を財布に入れ、悲しげにとろうとしていたぬいぐるみに目を向け。

 雷也たちと合流するため歩いていたが、ずっと欲しそうにチラチラ顔を動かし。角を曲がり、ようやく落ち着きが戻ってきたとき桜井さんの足が止まった。

 

 正面にあるのはキーホルダーが景品の、小さなクレーンゲーム。

 その景品は、最近やたらよく見るネコのキーホルダーだった。


「やるしかないでしょ」


 謎の義務感を感じる言い方だったが、桜井さんは躊躇わず財布から100円玉を取り出し、早速クレーンを動かした。


 もちろん上手くいくはずがなく。


 両替したはずの100円玉は「う、うぅ」と悲しげな声と共に消えていってしまった。


「…………」


 無言で。

 その一部始終を後ろで見ていた俺へ、すがるような顔が向けられている。

 両替機に行くのなら早く行けばいいのに。


 な、何なんだその目は。

 一言も喋らないのズルすぎる……。


「やった! やった! 朝比奈くんさすが!」


「たまたまですよ」

 

 心が折れたが、1回でハートが特徴的なネコのキーホルダーを2つもとることができた。


 色々思うところはあるけど、ずっと悲しそうだった桜井さんの顔が明るくなったしまぁいっか。


「これでお揃いだね」


 桜井さんは俺の有無を聞かず、キーホルダーを手渡してきた。


「とってくれてありがとっ!」


 満面の笑みを向けられ、直視できなかったものの。


 その後やけに上機嫌な桜井さんを連れ、再び雷也たちがいる元を目指す……はずだったが。


「あのさ、朝比奈くん」


 途中、後ろから裾を引っ張らた。


「どうしたんですか?」


「あの……よ、よかったらでいいんだけど、その、ふ、二人でここ抜け出さない?」


 噛み噛みで、目を合わせてこない。

 やけに初々しい乙女な誘い方だ。


 こんな誘い俺が断れるわけがないじゃん。

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