第29話 旅行の始まり

 ドリーム:私用で悪いんだけど、土日チャットできなくなる

 ショウ:そっか。どこか遊びにでも行くん?

 ドリーム:そうそう。友達と旅行に行くんだ。暇で友達がいなそうなショウにはかわいそうだから、定期的に画像送ってあげる

 ショウ:友達くらいいるし!


 そんなやり取りをしたのは昨日の夜。

 昨日はドリームが明日に備えるため、チャットはすぐ終わった。

 その後俺も旅行の支度をし、早めに寝るつもりだったが。


「ふぁ〜……」


 あまり寝付けず、こうしてまだ待ち合わせの40分前だというのに近くの公園のベンチに座り、あくびを漏らしている。

 

 寝付けなかったのは小学校の遠足以来だ。


 最初こそはこの旅行に乗り気じゃなかった。けど、友達と泊まりで旅行なんて一度も行ったことないから、結局のところわくわくしてる。


 ダブルデートということになってるところだけ、意味わからないけど。


 ブーブー


 目を覚ますためリュックサックから飲み物を取り出そうとしたとき、スマホから音が鳴った。


「え」

 

 鳴った理由は桜井さんからのライン。


 桜井夢:もしかして朝比奈くんも準備済んでどこかで時間つぶしてるんじゃない?


 監視カメラで見られてるのか?

 

 朝比奈翔太:暇です 

 桜井夢:やっぱり。朝比奈くんも旅行とか行かなそうだから、わくわくしちゃって暇を持て余してるだろうと思った


 ニヤァといやらしい顔のネコのスタンプ。

 

 このスタンプ、ラインにもあったんだ。抱きまくらを買ったときは知らなかったけど、結構人気あるんだな。

 

 俺がそんなふうにどうでもいいことを考えていると。


 一枚の画像が送信されてきた。


「…………ぅ」

 

 変な声が出た。


 画像には、おそらく桜井さんのものであろうキャリーケースに頭をスリスリするネコがいる。


 桜井夢:可愛いでしょ

 朝比奈翔太:野良猫ですか?

 桜井夢:うん。待ち合わせ場所の駅に向かおうとしてるんだけど、この猫がずっとつきまとってきてて全然前に進めてない

 朝比奈翔太:暇なんで助けに行けます

 桜井夢:猫はどんなことしても無罪。……先に言っとくね。私、遅れるかも

 

 頭スリスリは生粋のネコ好きにはたまらないものなこか。


 だ、大丈夫大丈夫。まだ集合時間まで40分……はいないけど、余裕がある。

 遅れるわけ無いよな。



  ▲▼▲▼



「はぁはぁ……」


「まじっまじっあぶねっ」


 一人だけ集合時間になっても現れなかったが、ぎりぎり予定通りの電車に乗ることができた。


 誘惑に負け、ゆっくり歩き真面目に謝罪してきた、遅れそうになった原因である当の本人はというと。

 

「わぁ。座り心地すごく良い」


「だねぇ〜。あっ夢ちゃん、朝なにも食べれてないだろうと思って駅弁買っておいたよ」


「えっありがと! 今度なんか奢らせて」


 桜井さんとその友人は仲良く隣同士座って駅弁を食べ始めた。


 この二人は早くも旅行を楽しんでいる。

 が、俺の隣に座る男はさっきから「彼氏だよな……彼氏だよな……」と、うなだれていて空気が悪い。

 

「雷也、元気出せって。まだ始まったばかりだろ?」  


「そうだ……その通りだ。この旅行はまだまだ始まったばかり!」


 目に生気が戻ったかと思えば。


「ひひひっひひっ。そうそうまだ始まったばかりだ……」

  

 気味が悪い笑みを浮かべ、いかにも悪人がする顔をしだした。


 いきなり変わってどうしたんだ?


「翔太もあまり気を落とす場面じゃないからな」


「どゆこと?」


「ふっふっふっ。今日泊まる温泉旅館を決めたのはほかでもない俺。……そこにはな。あるんだよ」 


「なにが?」


「混浴風呂」

 




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