第25話 過激化するチャット

「う、ぁ……」


 俺は椅子のリクライニングを最大限まで倒し、気絶寸前のような声にならない言葉を吐き出した。

 

 「ネッ友に恋するのってどう思う?」なんていう質問、どう答えるのが正解だったんだろう?

 咄嗟に「いいんじゃないですか。恋は自由だと思います」と、聖人ぶって答えてしまった。 

 あれでよかったのか?

 

 同族だからした質問だろう、というのはわかってた。

 でもその後まともに桜井さんの反応を見れず、勢いに任せて教室を飛び出して今に至る。


 桜井さんはただ、同族である俺に恋愛相談してきたって思えばいいのかなぁ。

 でも関係値的に考えて、先にショウの方に恋愛相談するのが自然だよな。

 思い返せば、俺って桜井さんとネットのこと以外で打ち解けるようなこと話したことなくね?

 余計、ただ恋愛相談してきたって予想があってるのか怪しくなってくる。


「じゃあ他の意図でもあったのか?」


 他の意図……。

 

 リクライニングを戻し、真面目に考えようとしたとき。

 パソコンにドリームからのチャットの通知が目に入り、思考が停止した。


「なんだ?」


 普段と変わらない動作だが、不思議とチャットを開くときのクリックが重かった。


 ドリーム:ショウってこれまでどんな人好きになった?


 ここでも恋愛話か。


 ショウ:また急だな

 ドリーム:最近ラブコメ映画見たから感化されてるのかも

 

 桜井さんがいきなり恋愛相談してきた理由も、とりあえずそういうことにしておくか。


 ショウ:そうだなぁ、好きになった人か……。正直に言うとあんまいないな。実は俺ってピュアなんだよね

 ドリーム:人見知りだからピュアなんじゃないの

 ショウ:お、おい。空気重くなりそうだからわざと省いたのに

 ドリーム:全然意味違うと思うんだけど


 喉元を刺すようなチャットが来たが、概ね予想通りの展開。

 よし。このまま映画の話に持っていこうか。


 ドリーム:ショウが人見知りとか、いつもチャットしてて分かりきってること。そんなことはどうでもよくて

 ショウ:そんなこと……


 辛辣なことを言われたからついどうでもいいことチャットしちゃった。


 ドリーム:あんまいないって言ったけど、具体的に過去好きになった人はどんな人?


 ……それにしても今日はかなり踏み込んでくるな。


 ショウ:もう顔とか覚えてないけど、優しく接してくれた人だった気がする

 ドリーム:ほうほう。つまりショウは極度に人見知りしててほぼ異性と喋ったことがなかった頃、話しかけてきた人に惚れたと

 ショウ:冷静な解説どうもありがとうございます

 ドリーム:ちょろい男


「ぐっ」


 言われてみればたしかにちょろい男だから反論できない。

 

 ショウ:そういうドリームはどうなんだよ


 俺は顔を真っ赤にして、キーボードをカタカタ音を鳴らした。が、返信を見て別の意味で顔が真っ赤になる。

 

 ドリーム:あまり人と接しようとしないくせに、いざってときは余裕ぶる人とか、単純に可愛い人とかかな。ちなみに過去、人を好きになったのはないよ

 

「うぅ……」


 わかりきってたことだけど、これが全部俺のことだって思うとまともにパソコンさえ見れない。


 チャットをしてる最中だが、俺はリクライニングを最大限まで倒し。背もたれに顔を埋めた。


 こうしていたら無駄なことを考えないで済む。

 しばらくの間チャットのことは忘れよう。


 俺はどう自分に説明したらいいのかわからない、モヤっとした心に悶えながらも。

 

 少し寝てスッキリした頃にはチャットしていたことなど忘れ、呑気に漫画を読み始めていた。

 

 

 

 

 

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