第24話 二人だけの空間

 どうしたらいいだろう?


 何も考えず、桜井さんがいるところへ荷物を取りになんて行けない。

 座る場所、間違えてるのか?

 それにしては動かなすぎる。


 なんでこういうときに限って、いつも周りにいるガチ恋勢が誰もいないんだよ。

 いや。いても最近なぜか一方的に恨まれてるから聞けないか。


「…………」


 桜井さんが俺の席に座ってる理由を一旦忘れ、荷物を取りに行く方法を考えていたときだった。


「おい。あいつ朝比奈じゃないか!?」


 一人の男の声が廊下に響き渡った。

 それが号令のようになり、ぞろぞろと男の周りに5人ほど集る。

 

 見覚えのある人たち。たしかあいつらは桜井さんのガチ恋勢だ。

 桜井さんはこの教室にいるのに、そんなところで立ち止まって何してるんだろう。


「ん?」

 

 よくわからないけど全員俺に指さしてきてる。

 ちょっと待て。思い返せばさっき放った言葉、まるで俺のことを探してたみたいじゃなかったか?

 

「朝比奈ぁ〜! そこを動くんじゃねぇぞぉ〜!」

 

「やばっ」

 

 まずい。少し離れた廊下から、ガチ恋勢が鬼の形相で走ってきてる。


 ガタッ


 同様で扉に体重をかかり、音が鳴ってしまった。


「朝比奈くん?」


 まずい。桜井さんと目が合ってる。

 

「こっち来て!」


 逃げ場なんていくらでもある。が、俺は手招きされ咄嗟に教室の中に入ってしまった。


「どうしたの?」


「あ、いえ。なんかやばい人たちに追われてるっぽいです」


「大変そう。教室に呼んでいてあれだけど、その人たちに教室に入ったって見られたから来ちゃうね」


「隠れないと……」


「隠蔽工作なら任せて」


 得意げな顔を向けてくるが、桜井さんがいる教室に逃げ込んだとなると余計面倒くさくなる。


「桜井さんも一緒に隠れてください。そいつら、本当にやばい奴らなんですよ」


「ふ〜ん。いいけど、教室に二人隠れられるようなところなんてないんじゃないかな」


 桜井さんの冷静な言葉が心に落ち着きが戻ってくる。


 さて、どうしたものか。教室に迫る足音が次第に大きくなってる。こんなこと勉強会のときもあったな……。

 俺がそんなことを呑気に考えていたとき。

 桜井さんが向けている視線から、案を思いついた。

 いい案とは言えないけど、これしかない気がする。



  ▲▼▲▼ 



「絶対教室の中に隠れた……。見つけるぞ!」


「「はい!!」」


 体育会系のような熱い声が聞こえてきた。

 隙間から教室の様子を覗くと、すぐそこにいるのが見える。

 少しでも動けば、音が鳴ってバレる。

 けど、あまりにも臭いがキツくて、思わず体を動かしそうになってしまう。


 そう、俺と桜井さんが隠れている場所は清掃用具入れの中。

 

 普通こんな汚いところに隠れないだろう、という心理をつくと同時に、鍵をかけれる構造を利用して外から扉を開けられなくできるのだ。


 ちょうど普段中に入ってる物が点検されているためなく、隠れる場所としては最高……なのだが。


 清掃用具入れは人が二人隠れるため、造られたわけじゃない。体と体が当たるほど、密着してる。息遣いが耳に直接聞こえてきて鳥肌が止まらない。


 俺があとに清掃用具入れに入ったから、押す形になってる。まともに桜井さんの方を見れない。

 あぁ……中が暗くてよかった。


「朝比奈くん。本当にこれしかな……」


「ん? 話し声しなかったか?」


 小声で喋りかけてきた桜井さんの口を、慌てて手で塞いだ。

 

 手に歯が当たってるが、それどころじゃない。

 油断は禁物。状況を理解してない桜井さんなら、また喋り出しそうなので口を塞いだまましとこう。


 ガチ恋勢の人たちはしばらく教室を探し回ったが、俺たちの姿がないことを確認し。外に逃げた、と予想して教室から出ていった。

 


「えっと……。ずっと手に歯が当たってた気がするんだけど、大丈夫?」


 自分の席でうなだれ、ゆっくり教室の純粋な空気を吸っていると、桜井さんが心配してる顔を向けてきた。


 言われた通り、たしかに歯の跡がついてる。


「大丈夫です大丈夫です。俺の方こそ、無理やり口を塞いじゃって申し訳ないです」


「嫌じゃなかったから別にいいよ」


 嫌じゃない……?

 言ってる意味よくわからないんだけど。


「にしても、まさか朝比奈くんのことを待ってるところ、急にあんな密着するとは思ってもなかったなぁ〜」


「待ってたんですか?」


「うん。教室に入る前、私が朝比奈くんの席に座ってたところ見てたでしょ?」


 あれ、待ってたのか……。


「見てましたけど。俺、桜井さんに一人で待たせるようなことしちゃいました?」


「いやそういうわけじゃないの。待ってたって言ったけど、ちょっと聞いてみたいことがあっだけで……」


「さっきのお詫びです。何なりと聞いてください」


「えーとね」


 桜井さんは小さく息を吐き、恋する乙女の瞳を向け。


「ネッ友に恋するのってどう思う?」


 

 

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