第23話 おかしい

「おはよ」


 なにかがおかしい。

 

 桜井さんが俺へ個人的にあいさつしてくるのが初めてなのがおかしいわけじゃない。


 声のトーン。顔色。仕草。どれも普段通りだ。

 むしろ今日は朝から生き生きしてて、雷也と付き合ってる友人と笑顔を交えながら雑談をしている。


 このおかしさはなんなんだ?


「ん? どうしたの朝比奈くん?」


 まじまじと見すぎたせいで桜井さんに話しかけられてしまった。

 

「いえ。ちょっとぼぉーっとしてただけです」


「ふぅ〜ん。そんな感じじゃ、また授業中寝ちゃうよ。寝顔見られてたって聞いたときの朝比奈くん、すごい恥ずかしそうだったけど大丈夫かな? 耐えられそ?」


 桜井さんに煽られる……。


 学校ではS級美少女の皮を被ってるはずなのに、こんな無邪気な顔を向けてくるなんて。やっぱりおかしい。

 

「眠たいわけじゃないんですけどね」


「ふむふむ」


 話してみてもおかしい理由がわからない。

 こういうのは直接本人に聞くのが一番手っ取り早いはずだ。


「桜井さん。唐突にこんなこと聞くのおかしいと思うんですけど、なにかありました?」


「うーんとね」


 少し考える様子を見せ、


「あったよ」


 珍しく真面目な顔で返答してきた。


 おかしいっていうのは、俺の勘違いじゃなかったのは素直に嬉しい。

 だが、桜井さんによって作り出された張り詰めたような空気。それによって、軽い気持ちで立ち入ってはいけない気がした。

 

 そういえば昨日、漫画を読む前ドリームとチャットしたとき。

 予想だが、なにかをしていた。思い返せば、あのときからおかしかったような気がする。文字でしかないが、初めてドリームが俺とチャットをしたくいような空気を感じた。


 一体なにをしたんだ?

 

「おーい。朝比奈くーん。帰ってきてぇー」


「あぁすいません。ちょっと考え込んでました」


「もぉ。今は私と喋ってるんだから、他のこと考えないでよね。私のことを見て、私のことだけを考えてればいいの。おーけー?」


「お、けです……」

 

 「私のことだけを考えてればいいの」って言葉、いかにも独占欲が強い彼女が言いそう。


 こんなこと少し前までは言われなかった。 

 勉強会、二人だけの打ち上げを踏まえて桜井さんの心が開いてきてる証拠なのかな。

 

 昨日の夜なにかをして、おかしくなった。

 その理由は気になるけど、別に無理に知りたいわけじゃない。これが今の桜井さん。そう思えば、おかしさなんて消えてなくなる。


「あ。また考え込んでるでしょ」


「安心してください。もう結論が出たのでこれ以上考え込むことはないです」


「とか言って、ちょっとしたらまぁーた考え込むでしょ。朝比奈くんのことはよくわかってるんだから」

 

 そこで教室に先生が入ってきて、強制中断。


 雑談する間もなく1限が始まり、2限が始まり……。

 その後喋ることはないと思っていたが、隠れて居眠りしていたところを見つけられ寝起きに煽られたりした。



  ▲▼▲▼



 それ以降は特に何もなく、すべての授業が終わった。


 あと帰るだけのところだったが。

 俺は先生に資料を空き教室へ運んでほしいと頼まれ、皆が先に帰る中、一人虚しく重い資料を行ったり来たり運び。


「はぁ」


 30分くらい経ち、ようやく終わった今。

 ため息と共に教室へ戻ろうとしたが、扉の前で反射的に体を隠してしまった。


 教室に一人残っているのは桜井さん。

 椅子に座り、微動だにしてない。


「どういうこと……」


 桜井さんがいる場所、俺の席なんだけど。


 ふと朝の出来事を思い出し、思わず頭を抱えてしまった。

 

 


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