第22話 証拠|桜井side

 私はどうしても気になることがある。

 中間テストの打ち上げで一人のときも、ついスマホで見ていたほど気になること。


 ショウ:【このチャットは削除されました】 


 昨日の夜。最後にショウくんがした、削除されたチャット。これが謎で中間テスト中もずっと頭から消えなかった。

 このチャットの前にしたのは、私の終わりの言葉。


 正直、削除された内容は想像がつく。


 実は今日、気が抜けてるタイミングであろう打ち上げで朝比奈くんにあるカマをかけた。


 ❛勉強会からずっと勉強してた成果でたんだ❜

 

 ずっと勉強してたということは、ドリームの方しか知らないこと。桜井夢は朝比奈くんがずっと勉強をしてたなんて、知らないし聞いてもない。

 だけど、朝比奈くんはその質問にこう答えた。


 ❛まだ答案用紙が返ってきてないのでなんとも言えないんですけど、中学の頃に取った最下位は免れたと思います❜


 何も知らないはずの私に何一つツッコまないのは、おかしいんじゃない?


 この裏付けがあって、削除された内容は想像がつく。


 けど、証拠がほしい。


「ダメ。こんなことしちゃ絶対にダメなのに」


 ダメだってわかってるのに暴走してる手は、“削除されたチャットを復元するツール”を読み込ませている。

 

 このツールを使ったことは相手に気づかれない。

 

 こんなことして証拠を作るなんて、前までの私なら考えもしなかった。

 けど、心はずっと焦らされていてもう我慢の限界だったらしい。


「あ」

 

 【復元が完了しました】


 クリックすれば全てがわかる、のだが。

 

 その瞬間。ずっと考えないようにしていた、「果たして知っていいの?」という疑問に駆り立てられた。


 もし予想が正しかったら。

 今後ショウくん、朝比奈くんとどう接すればいいんだろう?

 今までのまま接するなんて、できる気がしない。


 もしかしてこの片思いが終わったりするのかな……。

 

 知らないほうがいいことがあるって、このことなのかもしれない。

 

 そう思い、パソコンを閉じようとしたときだった。

 

 ショウ:おーい。なにしてるん?


 何も知らない人からチャットが来た。


 そういえば、オンラインなの隠してなかった。

 チャットを復元するツールを使ったなんて知られたら、文字通り終わる。平然を装わないと。


 ドリーム:なにもしてない

 ショウ:嘘つけ。ドリームがチャットせずオンラインのままなんて、なにかしてるに決まってる


 今日に限ってやけに鋭いことを言ってくる。


 ドリーム:ちょっとパソコンつけっぱだっただけ

 ショウ:その割にはチャットの返信が早かった気がするけど

 ドリーム:気のせい

 ショウ:たしかに。いつもならもっと早いな

 

 理由がよくわからないけど、わかってくれたみたい。


 ショウ:じゃ、俺はこれから漫画読み漁るわ。なにしてるのか知らないけど、ほどほどになぁ〜


 すぐショウくんはオフラインに。

 

「ふぅ」


 突然のチャットで固まっていた体から力が抜ける。


 ショウくんが朝比奈くんなのか、そうじゃないのか。


 今チャットしてて思ったけど、やっぱりはっきりさせたい。今後の接し方なんて、もうどうでもいいや。

 片思い相手がすぐ隣りにいるかもしれないっていうのを、ただ知りたい。


 右人差し指に力を入れ、うるさく感じるクリック音がした瞬間。


 復元された文字が並べられていた。

 

 何度もその文字を目に刻み、


「……そっか」


 小さく嘆息しそっとパソコンの電源を消した。




 

【あとがき】

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