第20話 決戦前夜チャット

 勉強会から数日が経ち、中間テストが明日に迫っている。


 あの日から俺は勉強すると決め、ひたすらに勉強をした。毎日の楽しみであるドリームとのチャットを一時的にやめ、多分人生で一番勉強したと言っても過言じゃないくらいした。


 そして、今日は中間テスト前夜。

 普通の人ならできるだけ頭に詰め込んだり、明日に備えて早寝するところだが。

 俺は久しく触ってなかったパソコンの電源ボタンを押した。


「ふぅ」


 ゲームするわけじゃない。

 チャットを一時的にやめるとき、ドリームとこの時間にチャットすると約束していたのだ。

 

 なにをチャットするのかは知らないけど、久しぶりのチャットに自然と口角が上がる。


「準備万端かよ」


 ドリームはもうオンラインだった。


 ショウ:おひさ

 ドリーム:おひさ


 パソコンをつけっぱにしてるのかと思ってたけど、結構すぐ返ってきた。


 ショウ:まじで勉強疲れた

 ドリーム:おつおつ

 ショウ:ドリームは俺とチャットしてないときなにしてたん?

 ドリーム:暇すぎて同じく勉強


 この前の勉強会で発覚した新事実だが、ドリームこと桜井さんはかなり勉強ができる人だ。 

 さらに勉強してたとなると、中間テストで上位確定だろう。

 どことなく、普段よりチャットに余裕がある気がする。

  

 ショウ:お互いおつってことで

 ドリーム:おつおつ

 ショウ:それでなんだけど、なんで今日チャットする約束をした理由は?

 

 少し間が空き。


 ドリー厶:中間テストがあるって言ってたから、その前にチャットして一発気合を入れてあげようかと思って

 ショウ:叩かないで……

 ドリーム:そんなことするわけないじゃん

 ショウ:じゃあ気合い入れるってなにするの?

 ドリーム:なんだろうね

 ショウ:え


 絶対少し間が空いたときチャットする約束した理由考えたじゃん。


 ドリーム:やっぱ、気合を入れるって言ったらバシッと一発いくしかないかも

 ショウ:インターネットなのにどうやって一発いくん?

 ドリーム:君、賢いね


 流石にノリだよな……?


 ドリーム:いいこと思いついた

 ショウ:?

 ドリーム:二人とも勉強頑張ったから、お互いのことを褒め合って気持ちよくならない?

 ショウ:なろう


 断る理由がなかったので即答したが。


「褒め合うか……」


 うっかりドリームじゃなくて桜井さんのことを褒めないように気をつけないと。

 

 ショウ:俺からいい?

 ドリーム:どぞ

 ショウ:ドリームは優しくて、接しやすくて、勉強もできてすごい! 俺ができないことを全部出来ててすごい!

 

 結構勢いで押し切った感あるけど、真面目に褒めたつもり。

 返答はチャットではなく、ネコがニコニコしてるスタンプが返ってきた。


 ……自分が今、典型的な照れ隠しをしてるって気づいてないのかな。いつか使うかもだから、スクショ取るのは忘れずに。

 

 ショウ:じゃあ次どぞ 

 ドリーム:ショウとのチャットは、リアルで起きた楽しいことと比べ物にならないくらい楽しい


 言われて純粋に嬉しい褒め言葉。

 

「あー……」


 人に褒められるのってこんな心に染みるのか。

 勉強で蓄積した脳がとろけていって、うまくチャットできる気がしない。


 ドリーム:気合入った?

 ショウ:入ったけど、なんかとろけそう

 ドリーム:え? どしたの

 ショウ:多分気持ちよくなって脳がとけ始めてる。ドリーム……。俺が変なこと言う前にチャットやめない?

 ドリーム:いい時間だしやめ時かもしれないね

 ショウ:へい。じゃあ中間テストでも寝ないように今すぐ寝て、明日に備えやす

 ドリーム:頑張れ〜。おつぅ〜

 ショウ:そっちも


「あ」


 そっちも、だなんてチャットしたらバレるじゃん。


「あっぶ」


 ドリームがすぐオフラインになってなかったら、俺のチャット人生が終わるところだった。


 ショウ:【このチャットは削除されました】


 これでよしっと。

 早く寝て早起きして、簡単なおさらいでもしないとな……。

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