第19話 楽しい楽しい勉強会?

 桜井side


「ふぅ」


 朝比奈くんは飲み物を取るため、部屋を出て行っちゃった。


 ショウくんかもしれないからカマをかけてみたけど、成果はなし。

 今日はこういうことするつもり無かったけど、つい気になってしちゃった。

 変な人だって思われてなければいいな。


「うん。きっと大丈夫」


 私は気持ちを切り替えて立ち上がった。再び部屋を見渡す。


 人の部屋に来たとき。私はいつも怒られちゃうけど、絶対にやってることがある。

 それは……部屋に隠してるものを探すこと!

 もちろんなにかありそうなクローゼットとかはプライバシーを考えて開けないよ。

 

 朝比奈くんの部屋はさっき本人の前で言ったけど、本当に普通。目立つものと言ったら、棚。でもその中にはマンガや小説があるだけ。

 上級者だと本の中に何かを入れたりするけど、朝比奈くんはそんな人じゃないだろから探す必要はなし。

  

「あ」


 明らかにおかしいところを見つけた。


 ベットの上にある布団。

 一見、マクラが中にあるように見えるけど、山みたいに盛り上がってる。まるで人が中に入っているんじゃないかと思うくらい。


 朝比奈くんには後で怒られるとして、好奇心には勝てない。


「あのぉ〜こんにちは……」


 挨拶しながら布団をめくろうとしたとき。

 最悪のタイミングで部屋のドアが開いた。


「さ、桜井さん?」


 お盆の上にあるコップと、お茶がたくさん入ってるクーラーポットをガタガタと揺らすのは朝比奈くん。


 めちゃくちゃ動揺してる。

 私が見ちゃいけないようなものだったのかな?

 余計気になっちゃう。


「見ていい?」


「んー……んー……」


 新種の動物にいそうな鳴き声。


 すぐダメだって言ってこないんだから、見てもいいってことだよね。


 私はそう勝手に解釈し、朝比奈くんがお盆をテーブルに置いてる隙に布団をめくった。


「……え」


 開いた口が塞がらない。

 

 短い手足。デブっとしたお腹のたるみ。そしてなにより見覚えのある顔。

 そう、これは……。


「ネコだ」


 私がいつもチャットで使ってる、ネコのスタンプのぬいぐるみ。

 大きさ的に抱きまくらなのかな?


「あちょ、あの、え」


 朝比奈くんも開いた口が塞がってない。

 

 動揺してた意味がようやくわかった。

 こんな可愛らしい抱きまくらと一緒に寝てるってことを同級生、さらには異性に知られたら絶対恥ずかしい。これは怒られる……。

 

 いや。ここは私が、これが恥ずかしいと思わせないことをすれば怒られないのでは?


「これ、ちょっと貸してもらってもいいかな」

 

「良いですけど……。なにするんですか?」


「そりゃもちろん、本来の使い方をするに決まってるじゃん」


 キメ顔で言い、思いっきりネコに抱きついた。


「なにしてるんですか!?」


「抱きついてるだけだよ」


「見ればわかるんですけど……」


 朝比奈くんの空いた口がまだ塞がってない。


「実はこの抱きまくら、私がよくチャットで使ってるスタンプと同じなんだよね」


「あーそうなんですかー」


 なんで棒読み?


「ごめん。抱きついたのいやだった?」



  ▲▼▲▼朝比奈side



 うるうるした瞳。

 ぎゅと抱きかかえるネコの抱きまくら。

 普段意識して接してないから忘れかけてたけど、S級美少女の心配してる姿は破壊力がある。 


 言葉に詰まってるのは、別にネコの抱きまくらに抱きつかれたのがいやなのではない。


 後ろ。実は扉の先から足音が聞こえていて、それどころじゃないのだ。

 泥棒か? 

 今はどうだっていい。桜井さんになにかあったら洒落にならない。守ることだけに集中しよう。


「っ」


 たしかに音は俺の部屋へ近づいてきてる。

 

「朝比奈くん? やっぱりいやだったんだ……。本当にごめん。今後は勝手に触らないから許して」


「やばい」


 さっきまで忍び足だったのに、急に走り始めた!


「桜井さん。俺の後ろにいてください」


「へっ? なに?」


 意味が分からず戸惑ってる桜井さんを無理やり背中に。お盆を両手で持ち、この部屋に入ってくる何者かに備える。

 もちろん悪人の可能性が高いから、先制攻撃をしかけるつもり。


 気持ちを引き締め、手に力が入ったとき。一気に扉が開かれた。

 誰かわからないけど黒い人影を見て、お盆を振り下ろそうとした……のだが。


「翔太ぁ〜! ひどいことするなよぉ〜!」


 雷也の声に体がピタリと止まった。

 

「抱きついたのがいやだなんて、そんなこと思うわけないよな? な?」


 雷也の後ろにいるのは、今日来る予定だった人たち。


「な、るほど」


 俺たちは勝手に雷也たちに騙されたと思ってたみたいだ。

 

「翔太。相手の気持にはちゃんと応えないとダメなんだぞ」


 皆と真面目に勉強できることは嬉しいことだ。

 でも、なんだろう。ちょっとガッカリしてる自分がいる。

 俺って実は、桜井さんと二人っきりの方が良かったとか思ってるのかな?

 よくわかんないや。



 その後俺たちは何事もなかったように勉強したが、盗み聞きして勘違いしてる人たちもたくさんおり、全員集中できてはいなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る