第18話 騙された二人

 来るはずだった雷也とは音信不通。

 何も言わないということが、答えになってる。

 この前のショッピングモールでのことと、今回のは同じようなことなんだろう。

 懲りないやつだ。知らない人が来るっておもって緊張して損したわ。


「ふぅ」


 ちなみに桜井さんは我が家に入り、俺の部屋に来てすぐノートを開き勉強を始めている。

 一息つき、ペンを握りしめるその横顔は真面目そのもの。

 いつも寝てるけど学校で授業を受けてるときもこんな感じの顔してるのかな?

 

 そんな真面目な桜井さんに対して俺は麦茶を出したり、勉強するふりをしてペン回しをしたり。

 完全に上の空だ。


 シャーペンの芯が走る音。時計の秒針が刻まれる音。静かな息遣い。


 こんな感じじゃ、なんで俺の家に勉強しに来たのか聞きづらい雰囲気。

 ってか、俺の部屋にお母さん以外の異性が入ったこともあって心が落ち着かん。

 この部屋、おかしいところあったりするのかな?


「どーしたの」


 桜井さんはシャーペンを置き、心配そうな顔を向けてきた。


「いやあの、俺の部屋……じゃなくて。こんなこと聞くのおかしいと思うんですけど、桜井さんって誰に誘われて来ました?」


「え? 私の友達が彼氏とここで勉強するから来てって言われて誘われたんだけど。……そういえばまだ私以外誰も来てないんだ」


 同じく騙された口か。


「桜井さん」


「ん?」


「多分誰も来ないと思います」


「なんで?」


「思い出してください。俺たち、この前も同じようなことありませんでした?」


「あー。ショッピングモールであの二人に……。そういうことね」


「そうです」


 すべてを理解した顔をした桜井さんは突然脱力し、カーペットの上に背中を預けた。


 俺の部屋で桜井さんが寝転がってる!

 ちょっと前じゃ考えられない光景だな……。


「なんであの二人って私達を二人にしたがるんだろう?」


「さぁ」


「なーんかやる気失せちゃった」


 やばい。桜井さんが俺の部屋にいるってことが頭の隅にずっとあって、全然会話に集中できない。

 

「朝比奈くんの部屋って普通だね」

 

「え」


 まるで頭の中を覗くような唐突な言葉に、俺の頭は真っ白になった。


「あ、いや。好きなものがある人とかは部屋になにか飾ったりするでしょ? そういうのないんだなぁ〜って意味」


 他の人の部屋を比較に出してくるあたり、桜井さんって普段チャットしない日色んな人の家行ってるのか。


 なんかそれ……やだな。


 俺も桜井さんのように、無意識に同族認定してるみたい。

 

「朝比奈くんはこの部屋みたいに普通だとは思わないよ」


 急にナイフ向けてきた。 


「だってもし普通だったら、こうして私と喋ろうとなんてしないでしょ」


「たしカ……。たしかにそうですね」


 危ねぇ。前のチャットで、俺がショウなんじゃないかって疑われてたんだった。

 「たしカニ」だなんて言ったら、言い逃れもできなくなる。


 慎重に。ショウじゃなくて、朝比奈翔太でいないと。


「まぁでも、この部屋は普通だね」


「普通じゃないって言われて忘れかけてたのに……」


「そーりー」


 軽い口調で言ったのに、不自然にチラッチラッと俺の顔色をうかがう桜井さん。

 これ、「ひげ」って言葉が来ると思ってるんでしょ。いくらなんでもあからさますぎる罠だ。


 いや。わざとあからさまにしてるのか?

 急に駆け引き始まるじゃん。


「そーりー?」


「…………」


 すごい言いそうになるけど我慢我慢。


「んー……」


 桜井さんは何かを考えているのか、難しい顔になった。


 こんな感じで駆け引きを続けてたら、絶対ショウの部分が出ちゃう。

 実のところ、俺は一度やる気が失せたけど勉強会をしたい。てか、中間テストに向けて勉強しないと真面目にやばいかもしれない。


 空気を変えるためすることは一つ。

 一旦離れる!

 

「ちょっと飲み物取ってきます」


「……うん」


 俺は駆け引きし足りなさそうな桜井さんを部屋に残し、リビングへ麦茶を取りに行った。

 


 

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