第15話 断じてそういうわけじゃない

「こちらコカ・コーラMサイズです。ごゆっくりお召し上がり下さい」


「あざす」


 俺は定員さんが置いたコカ・コーラを口いっぱいにふくみ、飲み込んだ。


 ファストフード店として有名なマルドナルドまで10分。

 一度も休まず歩き続けて溜まった疲労が、炭酸によって無くなっていく。


「はぁ」


 ここなら普段から通ってるから入りやすくて、いい休憩場所になると思ってたけど違った。


 休日ということもあって、ゴールデンタイムを過ぎているというのに人が多い。息苦しいったらありゃしない。


 もう一度コカ・コーラを喉に通して自分を落ち着かせる。

 

 ここにはただ休憩しに来たわけじゃない。

 

 右手に持つスマホに映っているのは25分前にきた、ドリームのチャット。

 俺は見てから何一つ反応してない。普段通りチャットできる気がしなかったからだ。

 

 ここに来た目的は一つ。

 ドリームと普段通りチャットをするため。


「……あれ?」


 意を決し、いつもの適当な返事をするつもりだったが違和感に気づいた。

 そう、25分間ドリームからも何一つ反応がない。


 いつものドリームなら連投したり、チャットを消したりしてるはず。


 落ち着きがないのは俺だけじゃなかったのか。


 相手も同じだったと思うと、自然と指が動いた。

 

 ショウ:すまぬ。アニメに夢中だったでござる


 すぐ反応はない。当然だ。

 

 1分弱経ちドリームから反応が返ってきた。

 

「なんだこれ」


 来たのは、何かを思いついたような豆電球が特徴的のネコのスタンプ。


 これだけで考えを察せとは、流石に無理がある。


 ショウ:で、暇なのかって疑問に答えよう……。ちょっと暇


 また同じスタンプ。


 ショウ:どうしたドリーム

 ドリーム:どうもしてない

 ショウ:なるほど

  

 うん。意味分からない。


「おかしくなちゃった」


「なにがおかしくなったって?」


 聞き覚えのある声を耳にし、さっとスマホをふせた。


「よくわからんが翔太。お前、こんなところで何してるんだ? 桜井さんはどうしたの」


 話しかけてきたのは雷也。

 いつの間にかくっついてた桜井さんの友人は見当たらない。

 

「解散した」


「まじかよ。せっかく仲良くなるチャンスを作ってあげたってのに」


「誰も頼んでませぇ〜ん」


「頼んでなくとも相手の考えていることを汲み取る……。それが最高の友ってやつなんじゃないか?」


「今日の俺の考えも汲み取ってくれ」

 

「え。一方通行になってるじゃん」


 雷也と喋ってるけど、チャットが気になる。


 ドリーム:あれ?

 ドリーム:あの

 ドリーム:どうもしてないから無視しないで


 やばい。こりゃ早く返信しなきゃ暴走しそう。


 ショウ:すまん。ちょっと飲み物取ってきてた

 ドリーム:知ってた

 ショウ:監視カメラでも設置してんの?

 ドリーム:バレたか

 

「なるほど。翔太が夢中になってるのってそういうことだったのか」


「え?」


「今日は空振っちゃったけど、もし相談してくれたら手助けしてやるよ。先輩として」


「?」


 雷也は嬉しそうな笑顔を向けてきてる。


 なんで嬉しそうにしてるんだ?

 今の雷也からしたら、誰かと連絡してるんだろうな……くらいしか思わないはず。

 いや待てよ。

 手助け? 先輩?


「好きじゃないから」


「ツンツンしたくなるのよくわかる」


「だから違うって」

 

「うんうん」


 俺がドリームのことを好きな訳がない。ドリームが俺、ショウのことが好きなんだ。

 勘違いときの雷也面倒くせぇー。

 話題変えるか。


「彼女はどこ?」


「えっと……。多分先に席取ってくれてる」


 この返答。雷也に彼女がいたのって本当だったのか。


 ドリーム:でも安心して。音声は入ってないから


「安心できないわ」


「おっ。お楽しみなことで」


 く、くそ。つい声が出ちゃった。

 雷也が目の前にいる中でドリームとのチャットは勘違いされてよくない。


 休憩できたことだし帰るか。

 帰り道もさっきみたいになりそうだから、ドリームとチャットできないな……。まぁ、いっか。


「じゃあな雷也。断じてそういうわけじゃないからな」


「うぃー。今はそういうことにしとく」



  ▲▼▲▼桜井side


 

「おぉ〜。桜井さんもマクドナルドにいるなんて偶然すぎるでしょ」


 ショウくんから再びチャットが途端こなくなり、悲しくポテトをちびちび食べていると突然指をさされた。

 たしか雷也という名前。いつの間にか私の友達と彼女になってた……男。


「なんですか。常識的に人に指をさすなんてどうにかしてます」


「あっごめんなさい」


 意外と常識人だった。いやいや。友達の彼氏なんだから常識人じゃないと困る。


「にしても、翔太と解散したはずなのに同じ店にいるなんて偶然にも程があるでしょ」

 

「え。朝比奈くんも来てたんですか?」


「ん? あぁ……。ついさっきまでいたけどもう出て行っちゃった。なんか楽しそうに誰かとチャットしてなぁ〜」

  

 楽しそうに誰かとチャットしてた?


 ショウくんとのチャットが止まったのはついさっき。

 疑いは晴れたはずだったけど。

 色んなタイミングがどんぴしゃ過ぎる……。

 

 



【あとがき】

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