第14話 問い詰めが止まらない
「朝比奈くんってネット上でショウってハンドルネームの人、知ってる?」
いきなりそう質問され、一瞬時間が止まった気がした。
桜井さんが言う通り、いかにも俺がショウなのだが。とてもじゃないが、正直に言えない。
なんで急に核心を突く質問をしてきたのかよくわからないけど、むしろ遅かったくらいだ。
俺はブラックコーヒーを一気に飲み干し、しっかり桜井さんに向き合う。
桜井さんは不自然なほどに肩に力を入れて、さっきから座る位置を少し変え続けている。俺でもわかるほど挙動不審だ。
「知らないかな?」
桜井さんは少し前かがみになって、まるで問い詰めるかのように質問してきた。
ここで真実を語るのは絶対にダメだ。
ネットでの居場所がなくなっちゃうかもしれないから嫌。
「知らないです」
「そっか。そう、だよね。ははっそりゃそうだよね……」
喜んでいるのか、悲しんでいるのかわからない絶妙なラインの乾いた笑い。
「あれ? でもさ。朝比奈くんの下の名前って、翔太だよね?」
「……はい」
やばい。
「ハンドルネームを考えるときショウタのままだったら本名だし、タを消してショウだけにするとかそういうことをしようって思ったことある?」
「あるかないかで言われたらありますよ」
「今使ってるハンドルネー厶、ショウではないよね」
「は、い」
「へぇそう。じゃあそれ見せてくれることってできるかな」
「できますけど……。スマホの方はまだログインしてないのでちょっと待ってください」
「ん」
心まで前かがみになっていた桜井さんはようやく落ち着きを取り戻し、再びカフェラテを飲み始めた。
危ない危ない。もし俺に本垢が壊れたとき用のサブ垢がなかったら、今頃このカフェから逃げ出してたところだ。
「どうぞ。見てください」
「どうも」
桜井さんは目を細め俺のスマホを見始めた。
「名前はケイゴ。このアカウントが作られたのは約半年前。チャット履歴は見れたりする?」
「それはちょっと。相手方のことも考えると厳しいです」
「だよね。ごめん」
嘘だ。相手方のこととか言ったけど、このサブ垢で誰ともチャットをしたことがない。
見られたら終わりだったけど、桜井さんの真面目な性格に命拾いした。
「すごい偶然なんだと思うけど、このチャットアプリ私が使ってるやつと同じなんだよね」
「そうなんですか」
「うん。でさ、一応聞いておくんだけど普段からこのチャットを使ってるんだよね?」
「はいもちろんです」
「だったらさ、なんでチャットする場所がつくられてないの?」
「あ」
完全に失念してた。チャットをしてないのなら、履歴もなければする場所もないのは必然。
いざというときのために用意しとけばよかった……。
「本垢の方に何か隠したいことがあるってことでいいのかな?」
桜井さんはこの上ない笑顔を向けて聞いてきた。
終わった。完全に終わった。
今この瞬間だけあの桜井さんが、鎌を持った悪霊に見える。
「大体分かった。……でも本垢は見せなくていいよ」
「えっ?」
「だって、ここまで問い詰めてるのに隠したいことって相当なことでしょ。朝比奈くんがショウくんだったときは別だけど、違うんだよね」
「はいはいはいっ! 違います」
「ならいいよ。どんなチャットをしてるのかとか、他人に知られたくないのは私も同じだし」
不思議だ……。桜井さんが神々しい光を放つ女神に見える。
納得したような顔を見るに、どうやら俺への疑いは晴れたらしい。
今後は、よりショウと俺が同一人物だってことわからないように接しないと。
その後、俺たちはネッ友という共通の話題に花を咲かせたりしたが。
カフェを出たあと、どこに行くでもなく。
桜井さんの申し訳無さそうな「用事がある」の一言によって、俺たちは解散した。
今日の夜、ドリームとチャットするときどんなことを言われるんだろう……。
カマをかけられたら面倒くさいな。
しっかり、注意してチャットしないと。
俺はそんなことを考えながら家に向かっていたのだが。
ドリーム:暇?
15分前に本人からのチャットが来ていて、自然と足が止まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます