第13話 彼と似てる人|桜井side

 服屋を楽しんだ私たちは、一旦休憩の兼ねてカフェに立ち寄った。

 

 朝比奈くんが疲れてそうな雰囲気だったので、喋りかけることはせず無言でお互い頼んだ飲み物を口にする。


 私はカフェラテ。朝比奈くんはブラックコーヒー。

 ちびちびと飲んでいたが、ふと正面でブラックコーヒーを飲んでる人を見て止まった。


 明らかに顔が歪んでる。美味しそうじゃない。なんなら、砂糖がどこにあるのか目をキョロキョロさせてる気がする。

  

「あ、朝比奈くん?」


「えっ? なんです?」


 やけに反応が速い。


「あのさ。勘違いだったら申し訳ないんだけど、普段からブラックコーヒー飲んでないんじゃない?」


「あぁ……飲んではいますよ。飲んでます。けど、一度も美味しいって感じたことないですね」


 本音口にしちゃってるじゃん。


「甘いもの頼めば良かったのに……」


「たしカニ」


「?」


 突然、私の頭に「?」が浮かんだ。

 

 朝比奈くんはカジュアルな言葉を使って、私の意見に賛同してくれただけ。

 なんで「?」が浮かんだんだろう? 

 最後の二文字の発音がおかしかったからなのかな。


「桜井さんって普段からカフェラテとか飲んだりしてるんですか?」


「うーん。ちょっと気分転換をしたいときとか飲むよ」


「カフェラテって美味しくな……」

 

「朝比奈くん?」


 ちょっと低い声を出したからなのか、朝比奈くんの肩がビクッと震えた。


 「美味しくない」なんて言おうとした方が悪いよね?


「美味しくないわけないじゃないですか」


「だよね」


「…………そーりー」


 終わり際、独り言のように小さく呟いた声を私の耳は聞き逃さなかった。 


 さっきの「?」が浮かんだ理由、わかった気がする。

 朝比奈くんが言ってること、この前ショウくんとチャット上でしたことがあるノリと同じなんだ。


 たしカニとか、そーりーとか。

 

 理由が分かってモヤモヤがスッキリするはずだったけど、まだそうなってない。


 なぜたまたま同じだったのかが気になって仕方がない。

 ネット上で使うような言葉を使っただけ、とも捉えられるけど気になる。

 朝比奈くんが言ってたネッ友が、同一人物のショウくんって可能性も捨てられない。


「どうしました?」


 悩みすぎて朝比奈くんに心配させちゃった。

 疲れてるはずなのに、私のことを気にかけさせちゃって申し訳ない。


「別になんでもない……よ」


「そうですか。ずっと俺が言う寸前だった、カフェラテのディスを根に持ってると思ってました」


「え? 認めた?」


「あ、いや。別になんでもないです。聞き間違いじゃないですか?」


「ん〜……」


 なんかこういう相手のことを小突いて楽しむ感じ、すごいショウくんと似てる。

 そういえば、ボイスチャットのときの喋り方とも似てる気がする。でも肝心の声は音質がロボットだったから、なんとも言えない。

 

 片思いしてるネッ友が、隣の席?

 そんなことあるわけないよね。多分、たまたま似てるってだけ。

 ……と、思いたいところだけど判断材料が足りない。

 

 朝比奈くんは私に構わず、苦手なブラックコーヒーを頑張って飲んでる。

 

 こうして見ると、朝比奈くんにもショウくんと同じような可愛さがある気がする。


 どうしよう?

 考えれば考えるほど、同一人物じゃないかって思えちゃう。


 チャットではこれでいいのか一度考えて、エンターキーを押す。けど、これはリアル。知りたくてたまらなくなったら、口が勝手に動いてしまうもの。


「朝比奈くんってネット上でショウってハンドルネームの人、知ってる?」


 

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