第8話 好きな女の子のタイプ

 あれから普段通り授業を受け、結局家に帰ってきてしまった。


 雷也に誘われたカラオケ、行けばよかった。

 普段ならドリームとチャットするのは楽しみだけど、今は気まずさが勝ってる。こうなってしまったのは絶対、俺が悪い。昼休み屋上前の階段で思ってたことが、頭にフラッシュバックする。 


「はぁ」


 ショウは片思いされてるってことを知らない。でも、朝比奈翔太の俺は知ってる。少しでも恋愛経験があったらこんな事態、すぐ対処できるのかな?

 

 まぁ、パソコンを開いてチャットをしない限り何も始まらないか。


 俺はやけに重く感じるパソコンを開いた。チャットの通知は……一つも来てない。


「?」


 いつもならチャット来てる頃合いなんだけどな。


 ショウ:よっこいせと


 オンラインなのは間違いない。でも、中々チャットが返ってこない。 


 ……もしかして、今日昼休みにチャットしたグイグイ来る人が苦手って言うのを意識してるんじゃないか?

 俺が言ったのはコミュ力が高い人のことだけど、ありえる。ドリーム、桜井さんだったらありえる。


 ドリーム:よっこいせと


 数分が経った頃。

 何食わぬ顔をしてそうなドリームから返事が返ってきた。

  

 いつもならすぐチャットしなかったことに対して、一言あるところ。これ、完全に意識してるな。

 

 ショウ:ドリームともっと速くチャットしたいなぁ〜 

 ドリーム:ほ、ほう? 

 ショウ:本気だよ? あっ、何かやることがあって遅くなるのは仕方ないことだと思うけどね

 ドリーム:わざとチャットの返事を遅くする理由がわからない


 めちゃくちゃすっとぼけてるじゃん。

  

 ドリーム:もしかして……ショウって好きな人だと、遅くなるタイプだったの?

 ショウ:なぜそうなる

 ドリーム:同類を見つけようとしてるのかと

 ショウ:好きな人だったら速く色んなチャットしたいっしょ

 ドリーム:たしカニ

 ショウ:つまりドリームは俺のことが好きってわけ


 流れるようなチャットがピタリと止まった。

 

 あ、あれ?

 ノリだってわかってくれてるよな……?

 


 ▼▲▼▲桜井side



「っ〜!!」


 声にならない悶える声が出したくなくても出てくる。

 

 ショウ:つまりドリームは俺のことが好きってわけ


 このチャットから目が離せない。


 ノリでチャットしたっていうのはわかる。

 でも、ショウくんがどんなことを思いながらタイピングしたのか想像するとニヤけちゃう。


「すぅ〜はぁ〜」


 深呼吸してもニヤニヤが止まらない。


 カメラで顔が見られてるわけじゃないし、このままニヤついててもいいや。

 そんなことよりチャットに集中しないと。


 こんなことをずっとしてたら、いつまで経っても片思いしてるだけになっちゃう。


 ドリーム:自意識過剰乙

 ショウ:うっ。そんな俺のこと煽ってもいいのかなぁ? こっちには溜まりに溜まったスクショの山があるんだが


 なんて姑息な人なんだ……。


 ドリーム:そーりー

 ショウ:ひげ

 ドリーム:そーりー

 ショウ:おもんないて

 ドリーム:そっちからしてきたことじゃん

 ショウ:たしカニ。そーりー

 ドリーム:ひげ

 ショウ:そーりー


 ダメだ。このままだとこの流れがずっと続く気がする。

 なにかいい話題ないかな?


「好きな女の子のタイプ」


 これは流石に攻め過ぎ……か。

 いや、私たちはインターネット上じゃ親友みたいな距離感だからそんなことないはず!


 私は恐る恐るタイピングし、エンターキーを押した。


 ドリーム:ショウが好きな女の子のタイプってなに?

 ショウ:どしたん急に

 

 そりゃこうなるよね。


 ドリーム:今日の昼、ショウが話題出してくれたからそのお礼で話題出した

 ショウ:あざす

 

 さっきまですぐ返事が返ってきてたけど、今回は遅かった。


 私たち親友みたいな距離感じゃなかった……の、かな? 

 そう思った途端、今まで生きてきて感じたことのない嫌な冷や汗がたらりと落ちてきた。


「だ、だ、だ、大丈夫だよね!? う、うん。そうに決まってる」


 今まで恋バナ的なこと一度もしたことなかったから、動揺してるって思いたい。

  

 とりあえず私は、このまま好きな女の子のタイプを知れれば最高なんだけど。


 ドリーム:それでズバリ好きな女の子のタイプは?

 ショウ:俺が話題出したとき、自分が最初に答えたけどなぁ〜


「え」


 私が女だってバレるのは嫌だし、かなり言葉を選ばないと。


 ドリーム:好きな女の子のタイプは対等に接してくれて認めてくれる人、かな

 ショウ:ガチなやつじゃん


「え」


 ガチじゃないやつでもよかったんだ。

 なんか恥ずかしい……けど、これでショウくんもガチなやつじゃないといけなくなったよね。

 

 ドリーム:じゃあどうぞ

 ショウ:そんな身構えないでよ


 ちょっと動揺してて可愛い。

 ネコが息を呑んでるスタンプ送っとこ。


 そこから数分経ち、チャットが返ってきた。


 ショウ:優しい人かな


「ほうほう」


 本気で言ってるのかは定かじゃないけど、これだけ見るとすんごいピュアそう。


 もしかしてショウくん、女性経験がなかったりして? 

 毎日のように私とチャットしてるから、十分ありえる。


 私がショウくんの初めてになりたい。

 ……まだ本名も性別もわかってないけど、欲張り過ぎかな。


「えっへへ」


 ニヤニヤが止まらない私とショウくんのチャットは、まだまだ続く。

 




「声聞いてみたいな……」

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