5日目:昼②
「さすがに多すぎるのでは…というか、筋肉なら付かないそうですけど。」
「筋力を付けるためではありません。剣筋を覚える為です。」
「剣筋…?」
「常に狙った位置を切れるようにならなければ、狙った結果は生み出せません。例えば…」
近くにあった木の端を投げ、片手剣で切り、短剣で切り上げた。木の枝はまるで何も当たっていなかったかのように動き1つ変えることなく地面に落ち、そして二つに分かれた。2回切ったはずなのに、断面に傷1つない。つまり同じ所を切った…って事か。なにその化け物じみた剣撃。
「剣筋さえ覚えてしまえば、武器種に囚われることなく常に自分の思う戦闘が出来るようになりますから。まずは綺麗に垂直に下ろす練習です。」
やっばい、教えてもらう人間違えたのでは?
――――
「右にずれています。」
「はい…」
「今度は左。」
「今度は右。」
「また右。」
「今のはまっすぐです。続けて。」
「今度は右。」
「あの…」
「はい。」
「いつまでやるんでしょう…?」
確かに1000も行ってないかもしれない。けど、ここまで虚無な時間があるだろうか。アドバイスも一貫して位置のズレだけだし。というかなんで分かるんだよ。
「初めの頃に比べると垂直な剣筋も増えています。続けましょう。」
「……はい。」
長丁場になりそうだ…結構地味なんだな、訓練って。
「どこまで出来るようになればいいんですか?」
「ああ、言っていませんでしたね。」
そう言うとしゃがみ込んで真っ直ぐな枝を拾うレティシアさん。まさか同じ事しろってか…?
と思ったかどうやらそうでは無いらしい。なにかの粉を枝の先端に振り撒く。少なくともダンジョン内でも見たことがない。
「この枝の先に魔法剣にある程度耐えるよう細工しました。私が構えますので、枝の先に当ててください。当たればこの訓練は終わりとします。」
ぶわっと嫌な汗をかく。言ってる意味が分かるのに、いや分かるからこそだろうか。
「それっ、外したら……!」
「良ければ出血、悪ければ腕が無くなりますね。 だから外さないでくださいね。」
「そ、そんなの無理です!」
「ええ。分かってます。だから訓練するのでしょう?」
本気だ。冗談じゃないと目で分かる。数十回に一度、真っ直ぐ振れるかどうかの今じゃ、確実に当ててしまう…
普通の訓練とやらは分からないが、少なくともこんな危険なものじゃないはず。前言撤回、地味な訓練なんかじゃない。
でも、やるしかない。剣まで立て替えてもらって、今更辞めるなんて言えない。大金はたいてもらってるのだ。あの腕ひとつで稼いできた大金で。
…その腕を傷つける可能性もあると考えると動悸がする。腕の善し悪し関係なく、僕が持っているのは最高級の短剣なのだから。グッと柄を握る。
「練習、します。」
「はい。……左です。右。……右。……」
――――
1000はとうの前に超えた。振れば振るほど、最適な形が見えてくる。腰を引き、肘は張り、でまかせな力加減をせず、冷静に……
確かに力はついてきた。途中からレティシアさんの声が無くとも、真っ直ぐかどうかは何となく分かってきていた。半分ほどだろうか。真っ直ぐに下ろせるようになった。
「日が暮れてしまいますね。今日はここまでです。どうですか?」
枝を差し出すレティシアさん。最後に打て。そう言ってるような気がした。
「…いえ、やめときます。」
「分かりました。では明日、ダンジョンで。」
「ありがとうございました…」
頭を下げる。頭を上げてもレティシアさんはそこにいた。しっかり目が合う。
「…鍛錬は、怠らずに。では。」
くるりと向きを変えるレティシアさん。……もしかして、言いたかっただけ?師っぽいけどさ。
でも、1日付き合ってもらって結局剣を縦に振っていただけだ。次の時は自信を持って出来るように、やらなきゃ。さ、僕も帰ろう。
――――
「ルカ、ここ、これ…っ!金眼石!?」
「ああいや、違うんだよ!これは…」
「ルカ。これ一つでこの店3つは買える。逆に言えば3つ無いと買えないんだ。分かるだろ?」
ニアが慌てふためき、セリナさんに諭される。まあ、こうなるとは思っていたが…!
「で、何を担保にして買ったんだ?」
「あの……買ってもらいました。」
「…ん?」
「お、お金は返す予定なんです!」
「アンタは…どれだけ貸しをつけて貰うつもりなんだい!?」
「断ったんですよ!でも気付いたら誓約書書いてますし!」
「誓約書!?あわ、あわわ…!」
「ニア!?…ったく、とりあえず後でゆっくり聞かせてもらうことにする。待ってな。」
くったりと衝撃で気を失ったニアを連れて母屋に入るセリナさん。改めて冷静になると事の大きさが尋常じゃないと気付く。金貨120枚って…一体給料何ヶ月分だろうか。ただでさえ貧乏な暮らしをしているのに、これ以上何を削ればいいんだ…?
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