2日目:夜

ニア特製の弁当を食べて、午後は違う業務をこなしておしまい。何も無かったら楽な仕事なんだけどね。


「…という事でカナ、後は…」

「ルカ。なんか仕事の量少なくない?」

「え?ああいや、午前中大変だったんだよね。ポーションが無い…なんて言ってるパーティが居てさ。」


やばい。午前はあれ以降仕事してないし、午後はちょっと微睡んじゃって3時間寝たなんて言えない。死ぬ気で働いたけど2時間で5時間ほどの仕事量を補えるわけも無い。最低限の仕事は終えてるし、管理主任にも報告した後だからバレてはないが…


「…本当に仕事した?」

「したよ?したけど…まあちょっと寝ちゃった…かも。ほら、明日はカナの仕事も手伝うからお願い!」

「……分かった。」

「悪いね、お疲れ様!」


バタン。管理室のドアを閉める。


「危ない…カナだから分かってくれるけど、ナルだったらチクるだろうなぁ…」


…明日はカナの好きなおやつでも買って持っていこう。そう心に誓った。

通路を抜けて、ニアと合流する。


「あ…ルカ、良かった。アルカちゃんがルカと連絡が取れないって言ってたから…」

「ちょっと忙しくて管理室戻らなかったから。」

「そうなのー?わたしねてたからかなー、と思ってー」

「アルカも寝てたのか…」

「ルカ、も…って何?」

「ぃ…!?」

「ルカもねてたのー?」

「アルカ、ここ入口だよ…!あんまり声大きくしたら」

「アルカ、ルカ。管理主任がお呼びです。至急12層へ。」

「……はぁ」

「自業自得。セリナさんには伝えておくから、ちゃんと反省するんだよ?」

「そうだね…」


ま、これ初めてじゃないけど。


――――


「寝てましたね。ルカは4時間38分。アルカは6時間24分。」

「えー、そんなに寝てないよー」

「管理人の様子はこちらで全て見れますから。ずっと視点が動かない仕事など、ないでしょう?」

「随分暇なんですね、分数まで測ってるなんて。」

「いいえ。視点が1分以上動かなかった場合自動で計測してくれるので。2人とも自覚を持ちなさい。1層からやり直しますか?」

「い、いえ!ご勘弁をー!」

「あれは2度も突破出来ない、次は絶対死ぬ…!」

「結構。規定通り寝た分だけの埋め合わせを。アルカ、仕事がまだ終わってないそうですね?」

「やー、でも後はシルがー 」

「なりません。3時間の延長作業とします。」

「や、やー!お腹すいたのにー」

「1層行きか3時間勤務か。」

「勤務してきますー!」


慌ててパタパタと走っていくアルカ。さて、管理主任直々に出てきたのは初めてだ。何を言われるやら…


「ルカは最低限はこなしているようですね。ですので別の要件を言い渡します。これを。」

「通信機器?それなら持ってますけど。」


渋々受け取る。特に変な感じはしないけど…


「それは罰が終わるまで取り外せません。時間が来ると爆発するようになっていますので。それでは2時間の懲罰とします。」

「いや、ちょっと!?どこ行くんですか!誰から通信が!?しゅ、主任ー!」


なんだこれ、本当に手から離れないし…!

遠ざかる主任を追いかけようにも手がくっついてるようじゃ動けない。この椅子に座っとけって事か…!

間もなくして通信機器が光る。…おいおいおい、昨日も感じたぞこの嫌な感覚!


「やあルカ!2日連続で話せて嬉しいよ!しかも今日は君の言ってた管理主任とも話したんだよ!」

「…やっぱりね。まあ、このぐらいなら…」

「おいおい酷い扱いだなぁ…君、悪さしたんだってね?しかも初めてじゃないとか聞いたよ?悪い子だねぇ…」

「悪の諸元に言われたくないよ。ちょっと寝ただけじゃないか。」

「反省してないね。あ、それでね。管理主任て人面白いね!何故か僕と君の関係も知ってるし、全然気にしてないんだ!なんなら僕にこうして罰を要請するぐらいだ!面白い人だよ全く。君以外に人類と久々に話をした。」

「そりゃよかった。ご近所さんらしいし仲良くするといいよ。」

「是非そうさせてもらう!その為にも言われた要望通りにさせてもらおうかな!題して!魔物に襲われた勇者の死に方図鑑ー!」

「なんだよそれ…いつも通り話は聞いてあげるから」

「No.1。確か27層だったかな。料理をダンジョン内でしてた勇者一行をお腹の空いた一角獣が見つけてね。後ろからズブリ。まさに食べようとしていた口から血が吹きでて、胃は外へ飛び出してしまった。まずは獲物を1人。だけどお腹空いてるからね。まだ何が起こっているか分かってない目の前のもう1人の目玉目掛けて一突き。絶叫と甘美な血の滴る肉…」

「おいちょっと!グロい!死に方だけでいいっての!」

「あ、そう?2人組の勇者の片方は腹部から内蔵を全て食い尽くされ、もう1人は頭部の中身を食い尽くされて確かそのまま苗床になったんじゃないっけな?25層の魔物の一部はそこから生まれた天然物さ。あ、もちろん勇者様の飯も食い尽くしてたよ。」

「き、気持ち悪い…」


「まだ終わってないよ。No.2。君みたいに居眠りした子がいてね。ガーゴイルのやつ、酷くてね。まずは右腕を折って、左脚を折って…そのまま放置したんだって。そんな状況で生き残れる訳もないよね。骨も残ってなかったよ。」


「ああ、そういやあれは傑作だったなぁ!人語を話せるドラゴンが逃がしてやるから3人のうち一人残れって言ったんだよ!するとまあまあ醜い喧嘩をし始めてさ…!くくくっ……全員食べたんだけどね。」

「わ、分かった…!悪かった!もういいよ!」

「だめだよ。たっぷり2時間分グロいの集めてきたんだから。」

「ひっ…!?」


「そういや僕も魔王だから数百人レベルで人殺してるからねー。普段暇してるから、最下層まで来た強い奴を虐めるの好きなんだよ。いっつも聞いてやるんだ。俺と手を組まないかってさ。でも組まないってんだから死んでも仕方ないもんね?皮1枚ずつ剥いで、それでも躍起になってまた剥がれて…最後は自分の入れた力で筋肉が破裂して死ぬんだ…!」

「うぷっ……」

「効いてきた?やー、顔が見れないのが本当に残念だ。君はいっつも大人っぽくしてるからね。今日は思うまで泣き叫んでいくといい。赤子のように…ね?」

「た、助けて… 」

「いいね、そそられる。それじゃあれなんてどうかな?……」


――――


「それで自分の血溜まりを見ながら、ソイツは」


どん!目の前の機器が吹き飛ぶ。……終わった…んだな。


「ひっく……きもちわる…」


初めてだ、声だけでここまで吐いて泣いたのは。涙目のまま、自分の吐瀉物を見る。楽な時間があるとはいえ、常に気を張っていないと話の中のような惨い死に方をするかもしれない。そう捉えるとこの時間は無駄ではなかったと思う。明日からは寝ないで頑張ろう…


「終わりましたね。帰宅を許可します。」

「……どうも」

「自分でも気づいているとは思いますが、ダンジョンの管理人である意義を忘れないように。」

「ええ。…にしてもなぜ魔王に?」

「決まってます。二つの意味で効果的だからです。死を間近で見る者の言葉は重いでしょう?私でも良かったのですが、効果的なのは彼だと思いましたので。それでは。……夜道に気を付けて。」

「一言余計だよ主任のバカー!」


おかげで帰り道は全力ダッシュせざるを得なくなったよ!


――――


「ルカ?さっきからどうしたの?」

「……寝れないんだよ。」


駄目だ、瞼を閉じる度に魔王の話を思い出す……!


「お昼寝たからじゃないの?」

「それもあるかもね。……いや、ごめん。静かにするよ。」


寝返りを打って寝る努力をする。すると、ごそごそと音を立てて背中に暖かい体温が伝わってきた。


「よく分からないけど…きっと寝れるよ。きっと…」

「……そんな気がしてきたよ。…ありがと。」


不思議とあの話が思い浮かぶのに眠れない気がしない。僕はニアを置いてあんな死に方出来ない。そうだ、そうなんだ…


そんなことを考えていると、自然と意識は闇へと溶け込んでいった。

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