2日目:昼
次の日の朝。よくそんなにも罵倒が思いつくなと辟易するほど長い説教を受けた寝起きは最悪だ。タダでさえ休み時間は少ないっていうのに…
「ニアー?いない…」
「ルカ、起きた?ご飯出来てるから降りてきてね。」
「はーい」
流石ニア、どこまでも理想的な女の子だ。起きるのも早いし。そりゃセリナさんも僕の評価を相対的に下げたくなるもんだ。
階段を下りるといつもより少し豪勢なメニュー。昨日の居酒屋の売れ残りかな…
「起きた?死んだのかと思ったよ。」
「あいにくしぶとさだけが取り柄みたいなもんですから。それにしてもなんて顔してるんですか。干し肉みたいな顔してますよ?」
「そんな酷い顔はしてない!…いや、ニアから聞いたんだけど昨日デュエルしたんだって?」
「ええ、まあ。」
「…や、デュエルした後で疲れてるのに長々と説教しちまったから…その…」
「全くです。ただでさえ寝不足なのに。」
「うっ…」
「しかも起きて第一声が死んだのかと思った…ですか。」
「うう…」
「ちょっと、ルカ…」
「……冗談ですよ、なんとも思ってません。いくらでも寝ようと思えば寝れますし。管理人って。」
「管理主任に怒られても知らないよ?」
「バレないからサボりなんだよ。」
「……ま、悪かったよ。ほら、朝ぐらいいい物食べて頑張りな。」
「昨日の残りをいい物と言っていいんですかね……」
「ちゃんと朝作ったやつだよ!店で出したら銀貨30枚は取れる!」
「湯浴み30分と同じ価値か…そりゃ凄い。頂きまーす」
ニアが困った様に笑いながら、そしてセリナさんも顔を顰めつつため息をついて僕の後に続いた。
悪くないんじゃないかな。…と思う。
――――
「お疲れ。なんかあった?」
ニアと別れ、いつもの職場に着く。そこにいるのはカナ…ではなく、ナル。真夜中から朝にかけて働く僕のチームメイト。ルカ、カナ、ナルと綺麗にしりとりが出来るこのチーム、まあまあ気に入ってる。
「なんも。強いて言うならこの落し物位かな。」
「これは…ポーションだね。1つぐらい無くしても気付かないかもね。」
「うん。景気づけに飲もうかと思ったんだけど、毒だったら嫌だし。」
「拾い食いなんて畜生のやる事だしね。引き継ぎは終わり?」
「ん。それじゃ帰るわ。死ぬなよー」
「はいはい…っと。……ナルも忘れ物してるじゃないか…」
残っていた携帯用の食料。迷わず口に放り込む。
「これは拾い食いじゃないから…ちゃんと机にあったし。」
さて、仕事仕事。
僕の仕事は色々あるが、まずはパトロールだな。点検もついでにやっちゃうか。
適当に仕事道具を持って出発だ。昨日みたいなパーティが見つからないのが1番だけど。
「……」
壁を触りながら地図に書き足していく。管理人は管理人用の地図を制作している為、迷うことは無い。それを見ながら、新しい道や変な跡が無いか歩きつつ確認していく。
3層位の浅層なら広くもなくそこまで大変じゃないが、下に行けば行くほど広くなってるため10層位になると走らないと間に合わないんじゃないだろうか。
ま、僕には関係ないけどね。
黙々と作業していると呼び鈴が聞こえる。道具の中から小型映写装置を取り出す。
「…こちら三層、1パーティ突入したよ。二層のアルカ、聞こえる?」
「…うん、聞こえたよー。あ、昨日はごめんねー?」
「ああうん、大丈夫。アルカが抜けてるのはよく知ってるから。」
「ひどいー。けどそうかもー。」
「今日は気を付けてね?それじゃ。」
「はーい」
アルカ、絶対分かってないだろうな。それにしても1パーティか…昨日の事を思い出すが、まあ基本は大丈夫だ。大体は通り過ぎてくれる。 そんな無理やり抜けないといけないほど難しい課題はここには無い。
「いつも通り作業しておこう…」
あんなの初めてじゃない。だから今日もいつも通り…
壁づたいに歩きながら作業をすすめる。流石に新しい宝物も新種の敵も居ないだろう。朝だから人は少ないものの、昼に近付くと沢山の人が通っていく。それだけの人数が見て見逃す事はまず無い。だからメインは形が変わってないかのチェックだ。
「ま、そんな数日で変わるわけもないけど。」
毎日僕だけじゃなくカナもナルも見てくれてるわけだし。さっさと終わってだらけ……監視に入ろっと。
ん、呼び鈴…これは下から上がってきた時の音か。朝に帰るなんて相当下まで潜ってる実力者なんだろうな。
「三層、1パーティ上がってきたよ。四層」
「承知した。」
はっや…暇人かっての。四層のタケはもうそれは凄く無愛想だ。管理主任といい勝負だよ、全く。
「ちょっとぐらい雑談してもいいじゃんか。あーあ、なんか面白いこと無いかなぁ…新しい道とか」
ドゴォ!!轟音と共に隣の壁が揺れる。
「やっぱり人の気配があると思った!おい頼む!ポーション分けてくれねぇか!?」
「……新しい穴、一つ…と。それで?ポーションだっけ?持ってたかもしれないけどこんな土まみれじゃ探せないね。」
「わ、悪い!てかお前勇者の割には小さいなぁ…!もっと食えよ!こんなんじゃオーガにひと握りにされちまうぞ!」
バシバシと人の背中を折るつもりなのかと思う勢いで僕が被った土を払う勇者様。前のツカサ君とは顔つきも体付きもまるで違う。これはさっき上がってきたパーティで間違いないだろう。
「あらぁ…ごめんなさいね?この人ったら加減を知らなくて。この間も隣のダンジョンで壁に大穴開けて出禁になったの。」
「ちょっと、身内の恥をペラペラと話さないで。ぼく達の印象まで悪くなっちゃうよ。」
ふーん、タンク兼アタッカーと補助2人か…無駄が無くていい。この屈強な勇者様が倒れたら総崩れだろうけど。
「小さな穴でも普通は出禁ですよ。それで?穴を開けてまでポーションを欲しがるには理由があるのでは?」
「あ、そうだ!ほら、見ての通り足怪我しちまってよー…俺が無茶しちまうとこの2人に何があったか分かったもんじゃねぇ。だから一旦引きつつポーションを持ってる奴から恵んでもらおうと思ってな!」
「それなら地上に戻られては?回復したとしてもポーション無しじゃ危ない。」
「んな事分かってるよ。回復したらそのまま上に戻るつもりだ。浅層だからって舐めてたらこの足の怪我だけじゃ済まねぇのは身をもって知ってるからな。」
まともだ…かなり好感が持てる。自分の要望より味方の安全優先。これぞ勇者だろう。そうなると断る理由もない。
「そういう事なら…ええっと…はい。」
「…おいおい、冗談だろ?普通ポーションといえば…ハイポーションだろ!?」
「い、いや…僕ハイポーションレベルの怪我をしたら間違いなく死ぬからポーションで充分なんだけど…」
「お前そんな弱さでダンジョン潜ってるのか!?早く出ろ!死ぬぞ!」
「…3層の管理人してるんで。すみませんね弱くて。」
「そういう事かぁ…かー!こりゃ無駄足かぁ…」
随分な言い草だな。第一ハイポーションなんて僕らからすれば高過ぎて買えない。
…ん?何処かでハイポーション見たような…
――――
「これなんですけど。
「ちょっと待って。私なら」
「これこれ!丸っこいポーション!んーー!」
「おい馬鹿。」
「ん?普通のハイポーションだぞ。味もそれだ。」
「……馬鹿は味覚も馬鹿ってね。ま、本人がいいならいいか…」
「…え。いいんですか?本当に中身知りませんけど…」
「ありがとな!小僧!」
「…僕は小僧じゃないんだけどな…」
嵐のようなパーティだった。いや、嵐なのは1人だけか。よくあの二人も付いていってるもんだ。
「落し物も届けなくて済んだし、午前は仕事終わりだな…さて。」
サボろうか。
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