あとがき

 

 

 ここまでお付き合い頂き、まことにまことにありがとうございます。


 奥州は丹羽家二本松藩家中、大谷武(諱は元次、幼名は亘、通称は金平又は武、後に武次、号は清香)さんをモデルにしたお話でした。

 名前多すぎるんで普段は「武さん」て呼ぶんですが(列伝等々も「武」さんで記載されています)、最終的には武次だったのかなと思い、作中では「武次」で終始統一。

 いずれにせよ、少年の頃は実際には亘くんだったんでしょう。

 

 最後に登場した

「いまさらに いくべきかたも おもほえず 花なき鳥の 心地のみして」

 の和歌が好きすぎて、そっから爆速で脳内に浮いた話でした。

 史実分と創作分は五分五分くらいに混ざっている。多分。

 しかし混ぜ込んだはいいけど、力不足も甚だしいな! という具合です。

 

 維新後も丹羽長国公に近習し続けた彼が、明治4年の廃藩を機に東京へ移住することとなった長国公へ詠んだ、惜別の歌です。

 読んでいるこちらが泣いてしまうような、美しくも哀しい歌。

 

 歌に感動して暴走した末の作品でした。すんません。

 武さんは実際歌人として名高い(明治歌集の選歌にも入っておられる)御方です。

 あと本当に殿大好きだったんじゃないかと勝手ながら思っています。

「いくべきかたもおもほえず」は資料には「行くべきかた」となってるんですが、単純に音にしたら二通りの解釈が可能なので、あえてひらがなに。

 今更どこに行けばよいのか……的なのと、もう生きていける気がしないよ……的な。

 個人的には後者がいいです。(完全に趣味)

 

 ただしこの歌、二本松藩史と二本松藩士人名辞典とでは語句に若干の違いがあります。

 藩史だと「花なき鳥」なんですが、人名辞典では「花なき里」となっており、本作では前者を取りました。

 

 なお、他の登場人物も殆どが実在人物モデルですが、侍医の落合さんとその御子息だけは創作でした。(二本松藩史中に、医師の落合さんが見られますが関係ありませんのでご了承ください)

 

 因みに長国公は本当に男子に恵まれなかったようです。娘さんが数人おられたものの、迎えた養子は長国公のご存命中に次々と若くして亡くなり、ご自身が逝去されるその時も当主の座にありました。

 実に波乱万丈な御生涯。

 作中には一切出てきませんが、落城時には武次さんも既に妻帯しており、慶応元年には男児(後の大谷元良氏)も誕生しています。長国公とお別れした後に、武さんは福島県や若松県に出仕していたりもしたようですが、本当に明治8年の9月に亡くなられています。

 その後、早くに父上と死に別れてしまった御子息の元良さんは、医学の道を歩むことになります。

 お父様の早過ぎる死が、元良さんのその後に少なからず影響していたのではないかと思っております。

 

 あと中盤あたりに出て来た根本愚州さんの例の話は藩史に掲載されているやつです。

 人物列伝にもがっつり書いてある逸話。

 愚州さんの奔放っぷりも好きみが濃いめなんですが、何が何でも捕獲する姿勢の長富公と、使者の成田又八郎さんの堂々っぷりがだいぶ好みだったため起用。(武さんが愚州さんの門下だったというのも本当です)

 

 実に稚拙で推しを推しきれていない心残りはありますが、本作がちょっとしたお暇潰しと、そして大谷武さんという人物を知るきっかけにでもなりましたらば有難きことです。

 以上、作者の気持ちでした。

 

 

 令和五年三月十五日   紫乃森統子

 

 

 【主な参考】

 ・丹羽家譜 六

 ・二本松藩史/歴史図書社

 ・二本松藩士人名辞典/古今堂書店

 ・二本松寺院物語/平島郡三郎/歴史図書社

 ・二本松市史 6 近世Ⅲ

 ・ふるさと二本松城跡霞ヶ城公園の植物と景観/須賀紀一/歴史春秋社

 ・気象庁過去の気象観測データ

 他

 

 【おまけ】

 ・「目白」の別名=はなつゆ。はなすい。

 ・「蓮」の花言葉=清純な心。

 ・「杜鵑草ほととぎす」の花言葉=永遠にあなたのもの。秘めた意志。

 

 大谷武(号:清香)詠歌

「墨田川 花よりしらむ あけぼのに

          また夜を残す きしの青柳」

「疾きものは 月日なりけり 咲くと見し

            花も夢野の 秋の初風」

 

  

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

花なき鳥 紫乃森統子 @shinomoritoko

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ