第9話 魔人族の子1

 ネックレスとイヤリングを手に入れたアネルマは走りながらふと気づいた。

 

(もしかして、人助けをしたら足りないものが貰える?)


 リーハス公国にいた時は騎士として動いていたので報酬は国から貰える。

 でもアネルマは国王の娘。

 報酬などはあってないようなものだ。

 けれど、他の国では助ければ報酬がある。


(しかも、筋肉協会の普及にもつながるかもしれないし、人助けは気分も良くなるし。一石三鳥だね!)


 グングン山中を走りながら自分のひらめきにニッコリとする。


(いいことを思い付いたね。やっぱり走っているからかな? 訓練って大事! でも他に必要な物なんてあったっけ?)


 アネルマはよくよく考える。

 幼い頃、まだドレスでパーティーに出たときのことを。

 最近はもっぱら騎士服だった。

 動きやすいから。


(ええっとドレスを着せられて、イヤリングとネックレスをつけられて、髪をわしゃわしゃして髪飾りを……髪飾りだ!)


 アネルマは山の中をまっすぐ突っ切るのを止めて、山間の道のそばを走る。


(さーて、困ってる人はいないかなぁ。私にできることなら誰でも助けるけど、できれば商隊がいいなぁ)


 すると山道をふさぐ大岩を発見した。

 そこには馬車に乗った行商人が大岩の手前で立ち止まっている。


(おっ? あれはもしかして、困ってる! 助けにいこう!)


「こんにちは! もし……!」


 挨拶しかけたとき時、ドッカーン!と大岩が爆砕した。


(あれは爆発の魔法! 珍しい! でも、大岩なくなっちゃったな)


 大岩をどけて報酬を得るもくろみは四散したが、挨拶をしたので無視もできない。


「すごい魔法ね! まだ小さいのに」


「俺は子供じゃない。誰だお前は」


「あっそうか。魔人族って成長が遅いんだっけ。普段会わないから忘れてたよ。ごめんね」


 その男の子は帽子を押さえて臨戦体勢をとり、さらに行商人も剣に手を掛けた。


「お前、どうして魔人族だってわかった?」


「魔力を見ればわかるでしょ? そんなに警戒しないでよ。ほら、普通の冒険者でしょ?」


「普通の冒険者が山の中から一人で現れるなんておかしいだろ」


「……そうだった! 次からはちゃんと道に出てから話しかけるようにしないと! とりあえず、手伝うよ?」


 大岩を粉砕して、道は瓦礫だらけ。

 荷馬車は通れそうにない。

 そして、二人の筋肉を見ると力仕事は苦手そうだ。

 意外と手伝いができるかもと考えたのである。


「ほら、暗くなる前に町に着きたいでしょ?」


「……対価はなんだ?」


「荷馬車に積んでいるものは何?」


「魔法使い用の杖と防具だ。今はそれくらいしかない」


「じゃあいいや。必要ないし」


 アネルマは道にあった岩をぽいぽいっと投げ捨てて「それじゃあね!」と走り去ろうとする。


「ちょっと待ってくれ!」


 それを呼び止めたのは魔人族の子だった。

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