第8話 山間の道2
商隊は少し損傷を受けたが、アネルマの援護により、動けなくなる程のダメージにはならなかった。
「助かりました! ありがとうございます!」
絶体絶命の場面で救われた商隊の人たちは、アネルマに感謝する。
そして、護衛たちもそうだ。
「本当に助かった。一時はどうなるかと思ったぜ」
「オークの群れくらいなんてことはないわ。それよりあなたたち、護衛なんでしょ? しっかりしなさいよ」
「ちょっと待ってくれ。オークの群れだぜ? オークと一対一でもキツいってのに……つってもお前は余裕で倒していたしな……」
「どうしてかわかる?」
「どうして? なにがだ?」
「どうしてあなたたちがオークに苦戦したのかわかる?」
「えっ? いや……はっ? どういうことだ? オークが強いからだろ?」
「違うわ。あなたたちに何が足りないのかってことよ」
「何が足りない? そりゃ剣の腕とかってことか? まぁお前からすりゃ才能がないんだろうけどよ」
護衛たちは弱くはない。
近くの町では正義感が強く実力のあるパーティーとして有名だ。
だからこそ護衛の任務を受けられた。
「違うわ。あなたたちはなんにもわかってない」
助けられたとはいえ、その言葉に苛立ちを感じた。
しかし、
「あなたたちに足りないのは筋肉よ!」
という言葉にクエスチョンマークが浮かぶ。
「き、筋肉?」
「あなたたちの剣の技術はなかなかのもの。筋肉があればオークくらいに苦戦しないわ。敵を変えることなんてできないけど、でも自分の体は変えられるの。わかる?」
リーハス公国でオークは村の狩人たちが狩るレベルの魔物だ。
レッサーレッドドラゴンとは違い、筋肉さえあれば倒せるとアネルマは考えている。
「その筋肉はなに? ぜんっぜん足りてないわ! これくらいは鍛えるのが常識よ!」
アネルマは力こぶを作り、ポーズをキメて笑顔を見せた。
「お、おう」
「肉は食べてる? 今の戦いで負荷がかかったはずよ。まずはオークの肉を食べなさい。筋肉に負荷をかけて肉を食べる。これの繰り返しなの。あと休息も大事だからね。無理をしすぎない、これも筋肉に大切なこと。わかった?」
アネルマの圧に護衛たちは「わかった」と頷く。
「それで、お礼の方はいかがいたしましょう」
今度は商隊のリーダーが話しかける。
助けられた時はちゃんとお礼をすることが重要だ。
それが自分たち商人たちの安全性を高めることにつながる。
護衛たちが対応出来なかったせいであっても、オークの群れに襲われたというのは守れなくても仕方がないといえるレベルの出来事だ。
むしろ、護衛を放棄して逃げなかったことを評価するべきである。
「お礼? あっお礼ね。何がもらえるの?」
公爵令嬢だったのでアネルマはお礼をもらうという機会はなかった。
ただ、こういうときお礼を受け取るべきことは知っている。
「えぇ、お金の持ち合わせはあまりありませんが商品はあります。武器や防具もありますよ」
「そうね……アクセサリーはある?」
「……えぇ、もちろんです。すぐにご用意いたしましょう」
商人の目からアクセサリーより武具に興味があるかと感じていたので意外だった。
それでも顔には出さずに次々に並べていく。
実際にアネルマはアクセサリーに興味がない。
あまりにも興味がなくてアクセサリーを持っていなかった。
でも、ドレスを着る機会があるのでちょうどいいと思ったのである。
「こちらは帝都でも有名なブランドでして、特にこの赤いルビーの質は帝国でも評価が高いのです」
「ふーん」
「こちらは新進気鋭のブランドで、あのファッションで有名な町タンペレでも評価が高く、洗練されたデザインが注目を浴びています」
「へー」
「あちらにあるのは――」
「これにするわ」
「ええと……こちらの商品ですか? これがよろしいので?」
「だめなの?」
「いえいえ、そんなことはございません! 実はこれは私が出身の町で作られているものでして、光栄に思います。ただ、価値としては少し他のものとは劣るものでして」
商人としては、オークの群れから救ったのに誰も知らないような宝飾品を渡された、とでも言われると困るから言い淀んだのである。
ただ、アネルマはブランドの価値などどうでもよかった。
「このアクセサリーは力強さを感じるわ。このイヤリングとネックレスのセットをちょうだい」
「かしこまりました。他にはいかがいたしましょう」
「これだけあればいいわ。あとは、筋肉協会の発展に充てて。じゃあ、私は急ぐから。あなたたち、ちゃんと筋トレするのよ。すぐに筋肉がつかなくても諦めちゃダメだからね。筋肉はじっくり育てるものなのよ。それじゃあね」
「えぇ? 筋肉協会?」
その場に困惑を残してアネルマは走り去るのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます