第7話 山間の道1

 アネルマはまた道なき道を走っていた。

 今の懐は温かい。

 予想以上にレッサーレッドドラゴンが高く売れたからだ。


 いくらアネルマでもレッサーレッドドラゴンを担ぐなんて邪魔でしかないし、物理的に何体も持てない。

 素材を持っていても仕方ないし、その日食べる分さえあれば問題なかった。

 それで、ほとんどを売ったのである。


 「いやーあんなに感謝されてお金も食料も貰えるなんていい町だったね! 筋肉協会はないけど」


 レッサーレッドドラゴンはリーハス公国では町の警備兵が対応するレベル。

 肉は食料、骨は肥料、ツノは農具になるのだが、高級な魔物ではなかった。

 十体ほどいたので高級宿で泊まれるくらいにはなるだろうと思っていたら、高級宿で一ヶ月は余裕で暮らせる大金になったのである。


 本当はもっと貰えたのだが、それは断った。

 筋肉協会がなかったから。

 預けることもできないし、そんなに金貨を持っていても邪魔になる。

 アネルマは大金の一部を筋肉協会の設立や筋トレの普及に充ててほしいといって寄付していた。


「さてと、そろそろ道を走ろうかな。山が多くて方向がわかりにくいし」


 アネルマは勘で走っていたので、道が良くわかっていない。

 西に帝都があるとわかっているので、とりあえずその方角に走っているだけだ。

 とりあえず山間の道に出てみることにした。

 誰かに道を聞けたら助かる。


 もうショートカットはしたので、実際のところ普通の道を馬で走っても間に合う。

 けれど、アネルマは鍛えるために山道を走っていた。

 いい筋肉は日々の鍛練から。

 毎日の積み重ねが大事なのだ。

 

「ん? あれは?」


 山間の道で見えたのは魔物に襲われている商隊。

 オークと呼ばれる魔物が続々と集まっていた。

 商品を狙っているのだろう。


 それがわかったアネルマはすぐにそちらへ向かって走り出した。

 アネルマはこれでも公爵令嬢で騎士。

 人を助ける気持ちは強い。


「手伝うよ!」


「えっ!? なに!? だれ!?」


 山の中から急に飛び出してきたものに驚いて商隊の護衛が慌てる。

 それも当然。

 魔物が跋扈ばっこする山の中を通る人なんていないからだ。


「どうした! 新たな魔物か!?」


「違います! 人です!」


「人!?」


「なんで山から!?」


「人型の魔物か!?」


「人だよ! だから手伝うよって言ってるじゃん!」


 声を聞いた護衛のリーダーがちらりとアネルマを見る。

 アネルマはすでにバッタバッタと魔物を倒していた。


「……助かるぜ!」


 得体の知れない者が混ざってきて警戒したものの、緊急事態にそんなことも言ってられないので、ひとまず受け入れるリーダー。

 アネルマは魔物を倒しながら護衛たちを見て思った。


(これは護衛なの? 全然筋肉がたりてないじゃない! まぁ筋肉がついてたらいいってものではないけど、でもやっぱりある程度は必要だと思うわ!)


 見るところはやっぱり筋肉。

 結局、襲ってきたオークの半分は、途中参加のアネルマが倒すのであった。

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