第6話 ミッケリの門番アルッティの話

 ミッケリを守る騎士、アルッティは遠い目をしていた。


(そろそろ逃げてもいいかなぁ)


 レッサーレッドドラゴンが来るという知らせを受けて騎士団は慌ただしく動いている。

 その中でアルッティは門から誰も出ないように警備する役割になった。


(誰がこんな時に出ようとするのさ! 意味ないよ、こんな役割!)

 

 レッサーレッドドラゴンはレッドドラゴンと見た目は似ているが、知能は低く凶暴で、魔法を使わず、空も飛べない。

 なのでレッドドラゴンの劣化版と言われているが、人からすると強大な魔物である。


 体長は十メートルを超え、鋭い爪と牙を持ち、硬い鱗は生半可な攻撃では傷一つ付かない。

 この地域では最強の存在だ。

 

(はぁこの町も終わりかなぁ。まさか群れで来るなんて)


 今回、報告では一体発見された。

 そこで、騎士を集めて討伐に向かったのだ。

 でも、到着してみると十体という群れ。


 騎士たちは勝てるわけがないとすぐに逃げ出した。

 煙幕、匂い袋、まきびし、あらゆる道具を使って逃げ、谷に掛かった橋を渡った後に落として逃げきった。

 かと思ったらレッサーレッドドラゴンは回り込んで追いかけようとしてきたのだ。

 いろいろと使われて怒っていたのである。

 

(別の方向に逃げてくれたら良かったのに)


 そんな無責任なことを考えるアルッティ。

 アルッティは元々魔法使いになりたかった。

 魔法は使えるものの、攻撃に使えるほどの魔力が足りなくて、いつの間にか騎士に回されていた。

 真面目なのでそのまま騎士として働いているが気持ちは弱い。


(はぁ。もう誰も来ないよね。さてそろそろ逃げよ)


 騎士たちは要塞の中や壁の上にいてレッサーレッドドラゴンを攻撃する。

 町の住民は地下に逃げ込む。

 アルッティは住民を守る建前で地下に逃げようと思った。


 その時、ドスドスドスドスと大きな足音が響き始めた。


(来た! 急がなきゃ――あれ?)


 見えたのは猛烈な勢いで走る者、アネルマである。


「ちょ、ちょっと止まって下さーい! 外は危険です!」


 アネルマはキキーッと止まった。


「あなた門番なの? ちょっと開けてくれる? 壊すわけにはいかないし」


「もうすぐレッサーレッドドラ――」


「知ってるから。とりあえず開けてよ。私の宿と食事がかかってるんだから」


「えっ? や、宿と食事?」


「そうよ。レッサーレッドドラゴンの牙と爪、鱗まで売れるし、肉は良質なタンパク質なの」


「タンパク質?」


 首をかしげるアルッティにアネルマはやれやれと肩をすくめる。


「まさか、タンパク質も知らないなんて。筋肉の元になる重要な栄養なのよ。覚えておきなさい」


「は、はい」


 そこでふとアネルマはアルッティの体つきを見た。

 筋肉はちょっと少ないが、つき方はバランスがよく、細マッチョ部門では有望だと感じる。


「ほうほう。あなた意外としっかり鍛えているわね」


「は、はぁ、ありがとうございます」


 急に褒められて、アルッティは気の抜けた返事をした。

 真面目なので気持ちは弱くてもちゃんと体は鍛えられているのだ。


「あなたには素質があるわ。レッサーレッドドラゴンの肉を食べて筋トレをしなさい。わかったわね?」


 アルッティはアネルマの圧に「はい」と返事をする。


「それじゃあ門を開けなさい」


「はい、ってええ!? 駄目です!」


 その時、壁の外からドシドシドシドシと地響きが聞こえた。


「あっ来たのね! もういいわ! とりあえずあなたは鍛えなさいよ!」


 そういってアネルマは壁を蹴って登っていく。


「えええぇぇ!」


 アルッティは壁を跳んで登るなんて芸当はできない。

 要塞の中にある階段を使ってアネルマを追いかける。

 そして、壁の上について見下ろした時、アネルマはすでに半分のレッサーレッドドラゴンを倒していた。

 さらに次々と狩られていき、1分もかからずに終結する。


(素質があるって、こんな風に戦うことが出きるってこと?)


 アネルマは筋肉大会に出られる素質があると言ったのだが、アルッティはそんなことは知らずに奮起して、ミッケリで最強と言われる騎士になるのだが、それはまた別のお話。

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